性的表現、暴力的な描写があります。 未成年の方は読まないでください。

巨女ゲーム  第1章 膣内処刑

ヘディン・作
笛地静恵・訳
 
 
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 都市の廃墟が、茫々と広がっていた。尋常の戦火による廃墟とは異なる、異様
な光景だった。限りなく平坦に均された荒地だった。たった一件の家さえも、地
面から垂直に立っていられる建築物はなかった。少なくとも、一度は崩壊に耐え
るチャンスのあったであろう家々さえ、今では瓦礫の下に埋まっていた。
 
 木材や鉄鋼という建築資材が、粉々になった残骸の中に、ところどころ突き出
ているばかりだった。ごく稀に、苦痛の呻き声が、コンクリートの堆積の下から
聞こえてくることもあった。
 
 都心から、もっとも遠い外周部にあって、直接の被害に合わなかった幸運な少
数の者達もあった。中心部であるダウンタウンの方面の地域にいたっては、すべ
ての建物が消失していたからだ。
 
 以前に大都市のあった地帯は、普通では地上にありえないような物質で作られ
た奇妙な平原になっていた。そこを説明できる今のところ最適な言葉は、圧縮さ
れたビルディングと、都市の構成していた要素が混合されて密集した状態の物体
が堆積した場所というところだろうか。
 
 陽光に曝されてまばゆく輝いている平原は、ほとんどの場所が円形の無数の瘤
によって覆われていた。ひとつの直径が、30センチメートル程度はあるだろう
か。
 
 ごくわずかな地域は、高さが約1、5メートルから、2、5メートルぐらいの
高さのある土の壁で分断されていた。壁は鋭角的で、鋭い傾斜を作っていた。
 
 同時に深い穴が、大地にいくつも穿たれていた。鉱石の採掘場所のようだった。
深く掘り下げた穴が、良く似ていた。しかし、ひとつひとつが、人間の自由な
意志による行為の結果と言うには、あまりにも相似で規則的な形態でありすぎた。
丸いへりを持った長方形をしていた。
 
 それぞれの長方形の周囲は、約7、5メートルあった。深い穴の底を覗き込む
と、普通の採掘穴や露天堀の鉱山とは異なる物が見えた。急な傾斜の壁の表面は、
打ち放しのコンクリートにそっくりな状態だったのである。本当に、地下街の
壁を思わせるような質感だった。しかし、その壁には、大きな亀裂が入っていた。
地表には、1、8メートルぐらいの高さのピラミッドのような形態が刻印され
ていた。
 
 周囲の地帯を観察していた一人の兵士の目が、また別な意味で、滑らかで平坦
な表面の場所を発見していた。巨大な峡谷が、広がっていた。斜面全体に無数の
ひび割のある崖が生まれていた。穴が、土地の岩盤に強大な力によって刻印され
た時に、峡谷にも結果的に無数の亀裂が生じたということのようだった。
 
 数人の生存者がいたわずかな場所では、明らかに強大な力を持った怪獣によっ
て、深い穴が容易に穿たれたという噂が伝播していた。巨大な力が戦争と異なる
のは、この大被害がほんの気紛れな一歩によって、引き起こされた結果であると
いうことだった。
 
 本当のところ、その怪獣が、この膨大な穴を簡単に作り出したのである。ただ、
この辺りを踏み潰していっただけのことである。そこに「彼女」の体重が乗せ
られていたのだ。
 
 スパゲッティのような平らなストラップの、プラットフォ−ム(厚底靴)のサ
ンダルを履いた、足首の引き締まった足だったという。大地に打ち付けられたの
だった。
 
 
 ここから百メートルほど遠方の地帯では、赤いレザー・シューズの土踏まずの
アーチが造成した谷間の地形が、克明に残存している。そこでも、ここと同様に
膨大な重量が、数百平方メートルもの大地に、伸し掛かっていたのである。ある
種のサンダルの靴底のパターンが、刻印されることになったのだった。
 
 その通りである。巨大怪獣とは、たった一人の女性だったのだ。二十代の後半。
大柄ではあるが、美しいヌードの肢体。しかも、途方も無い巨人のサイズ。
彼女の身長は、プラットフォームのヒールの助けのせいもあって、上空、四分の三
マイルの高度にまで、聳え立っていたという……。
 
                   *
 
 つい一時間前までは、通常と全く同じように、都市は堅固に存在していた。い
きなりの襲撃だった。都市の市民が気が付いた時には、巨人女は都市の郊外をも
のうげに散策していた。彼女としては、のんびりとした歩み方でだったらしい。
 
 数回に渡って、ダウンタウンの周囲を散歩していた。郊外にあった家々は、そ
れによって、ほとんどが踏み潰されていった。都市のメトロポール(大都市の中
心。メトロ(地下鉄)が走っている中心部分(ポール)ということから。)への
最初の一歩によって、小さな部類の住居のすべては、彼女の歩みが生み出した、
今までにこの惑星の人間が体験することもなかった、巨大な力の解放によって壊
滅的な打撃を受けていた。
 
 
 すべてが大地震によって倒壊していた。倒れる家の中から、命からがら抜け出
すことができた人々も、通りを安全な場所まで逃げ去ることもできずに、殺され
ていった。少なくとも彼女の一歩の歩みだけで、都市の広大な面積が一挙に足の
下になって、姿を消していったからである。
 
 
 彼女は、大破壊の範囲を、ダウンタウンのエリアにまで拡大していった。その
時点で、死者の数は、すでに数千人という単位によって換算される規模に達して
いた。それが、またたく間に数万人という単位に上昇していった。
 
 摩天楼が、バブル・バスの泡でできている物のように、キックによって無造作
に破壊していった。その歩みが、もたらした被害だった。より弱小なビルディン
グは、おそらく彼女には、その存在を意識されることもなく無意識に、しかし、
いずれにしろ残酷な動作で、踏み付けにされていった。
 
 強大なヌードの巨人女は、彼女自身の身体の重心を下げていった。ミッドタウ
ン(町の中心部)に座り込んだのである。ごろごろと回転を始めた。両手と両腕
をまっすぐに延ばしていた。それによって、かつては誇り高い都市であった領域
を、さらにさらに広大な範囲までを巨体の下にして蹂躙していった。
 
 とうとう両方の乳房までも、淫らに使っていた。かろうじて生き残っていた場
所まで、完膚なきまでに破壊していった。
 
 後には、都市の残骸さえも、圧迫された平原の状態でしか残されていなかった。
まだどこか物憂げで、気怠るそうでさえある歩き方で、彼女は都市を横断して
いった。
 
 巨人女は、まるで地平線の下に落ちてしまったかのように、忽然と姿を消した
のだという。都市の郊外の、高速道路が作るコンクリートの輪の、すぐ外側の場
所だった。
 
 平らにならされていない都市の、しかし残骸の中で、かろうじて命を取り留め
ていた生存者たちだけが、呆然とした驚きをともなって、その光景を眺めること
ができた。
 
 いきなり彼らの世界の太陽が、その輝きを増していた。空にその姿を出現させ
た。まるで、どこかで太陽という巨大な電灯のスイッチが入ったようだった。そ
の時になって、都市の市民たちは、今までにいつもと変わらぬ色の碧い空と白い
雲があったにしても、太陽の姿が見えなかったことに気が付いたのである。
 
 彼らは何が起こっていたのかというヒントを掴んだ。銀河連邦の恐怖の『ゲー
ム』によって、いくつもの都市が滅亡したという噂は、風の便りに彼らの耳にも
届いていた。あの銀河連邦の邪悪なスーパー・テクノロジーによって、都市ごと
異様な別世界に、拉致されていたのだろう。 

                   *
 
 ライアンは、ステージの壁の脇に付いたコントロール・パネルの前に佇んでいた。
 
 都市の全景が、まるでスクリーンに映った映像のように鮮明に、しかし現実に
存在していた。飛行機で、上空から見下ろしているような光景だった。
 
 赤い小さな点が、一ヶ所に出現していた。彼女は、手元のちいさな転送装置を
コントロール用のメイン・コンピュータに同調させていった。リモート・コント
ロールしていった。また別なボタンを押していた。
 
 いきなりロボット・アームが、ステージの下から出てきた。意志があるものの
ように、自然に動き出していった。
 
 縮小された都市の周辺部の、ある一点に向かって、いかにも目的地については
自信がありそうな様子で、速やかに着実に移動していった。ゆっくりと下降して
いった。機械の腕の内部から、小さなピンセットのような繊細な道具が、飛び出
していた。着陸すると、そこから何かを摘み上げていた。
 
 アームは、コントロールパネルの方向に向かって動いていた。コントロールパ
ネルの脇の、平たい棚に小さな物体を下ろした。小さな一角が、ライトで明るく
照らし出されていた。
 
 より小さな道具が、棚の内部から現われた。物体を持ち上げていった。パネル
上のスクリーンには、何が起こっているのかをライアンが肉眼でも確認できるよ
うに、状況が時々刻々と克明に映し出されていた。
 
 その物体は、壊れた一台の自動車だった。いきなり、ロボットアームの一部が
開いた。また別の道具が現われた。ピンセットである。それによって摘まれた自
動車の屋根が、無造作にはぎ取られていった。
 
 鋼鉄製のように青く光るピンセットは、画面に映っている車内の人影の大きさ
と比較すると、まるでヨットのマストのように大きく見えた。
 
 もう一つの、それよりもさらに小さなピンセットが出てきた。こちらは、プラ
スティック製のように、柔らかく見えた。人間を挟み込んだ。プラスティック製
であることが、より明白になっていった。画面の焦点が、そこに合ってきたのだ。
 
 あまりにも、ナノ・テクノロジーに過ぎたようである。精巧なロボットでさえ
も、人体に十分に正確に加減された力を、加えることができないようだった。微
細なプラスティックは、それ自身の重みによってたわんでいた。哀れな男を、苦
痛のあまり殺しかねないような状態だった。苦痛のあまり発せられる呻き声が、
スピーカーから鮮明に聞こえていた。
 
 マイクロフォンも、ピンセットに内蔵されている。彼は、アームによって空中
に持ち上げられていった。小さな獲物を、巨人女の方向に運んでいった。
 
 ライアンは、両脚を大股びらきにした態勢で、ロボットアームを待ち構えてい
た。それ自身に淫らな意志があるかのように、彼女の無駄毛をきれいに整えた美
しいプッシーの真上で、静止していた。
 
 ライアンは、陰唇を指で開いて待ち構えていた。スクリーンには、彼の姿が、
明晰な焦点を結んで大写しになっていた。同時にピンセットが開かれた。男は、
どうすることもできずに、画面では丘のようなサイズに見えるクリトリスの上に
ぶつかっていった。
 
 必死にしがみついていた。しかし、粘液に覆われた欲望の山の斜面を、転落し
ていった。何度も、ダメージを受けそうな滑落を繰り返していた。さらに膨大な
肉の造る山と谷を、いくつもいくつも滑り落ちていった。
 
 ライアンにも、驚嘆に値する体力の持ち主だった。肉の崖の端に両手の指先だ
けで捕まっていた。
 
 しかし、ついに彼の握力も尽きる時が来た。悲鳴を上げながら、カントの谷間
の深淵に転落していった。転落している間に、巨人の指先が動いていた。巨大な
ラビアから遠ざかっていった。
 
 怪物のような生殖器が、大地の裂け目のような口を閉じていった。
 
 ライアンは、十分な時間を取ってやっていた。楽しませてやるつもりだった。
どのみち、あそこの中で彼が生きていられる時間は、数分間に過ぎないというこ
とが分かっていた。ちっぽけな肉体が、呼吸するために必要な分量の空気は、彼
が閉じこめられている巨大な洞窟の内部にも、一緒に封印されているはずだった

 
 問題は、彼女のねばなばする粘着質の液体が、まるで流砂のように彼の身体を
飲み込んでしまい、急速にその体力を奪ってしまうということだった。彼女は、
もともと分泌液の量が、多いほうだった。これについては、今だに自分の意志の
力で、コントロールすることができないのだった。
 
 あの液は膣内を清潔に保つために、弱酸性になっている。細菌を殺す力が、彼
にも毒性を持ってしまうのだった。彼は劣悪な環境で必死に抵抗してくれていた
。息を切らしながら彼女の愛液の海で喘いでいた。もう十秒間も保たずに、失神
する運命だった。
 
 たっぷりと、さらに一分間が経過した。彼女は、次の段階に移ることを決断し
ていた。注意深く、人差し指の先端を用いて、プッシーのリップを優しく撫で回
していた。それ自身、悪くない感覚だった。しかし、それは期待される効果を得
るために、どうしても必要な行為だったのである。
 
 彼女自身には感じることはできなかったが、これによって膣壁の内部に幽閉さ
れたわずかな空気を、外部に放出しているのだった。膣の内部を撮影していた内
視鏡の映像によって、経験的に分かっていた。
 
 膣内の筋肉の緊張が弛緩していた。自然な位置に戻ろうとしていた。内部に貯
蔵されていたプッシー・ジュースが外部に流れだすための水路を、複雑に折り重
なった肉の襞の間に作り出してくれるのだった。
 
 いまではライアンは、この仕事に充分に経験を積んでいた。この世界でもごく
一握りの娼婦にしかできない、『膣内処刑』という高級な技を習得していた。膣
の内部で、男の苦闘のすべてを克明に感じることができた。
 
 今では、男が呼吸できる空気も、残り少なくなっていることだろう。膨大に堆
積する膣肉の圧力を、全身で充分に受け止めていることだろう。彼は命がけの苦
闘を続けていた。
 
 彼女は、この行為に習熟していた。膣の筋肉を、ここまで微妙にコントロール
する能力を得るためには、天与の才に恵まれていると評価された彼女にしてさえ
も、毎日四時間の厳しい訓練を、三ヵ月間に渡って続けることが必要だった。
 
 ゆっくりと彼女は、愛戯に用いる筋肉を活動させていった。男の抵抗戦を、生
かさず殺さずの状態で、できる限り長引かせてやる必要があった。しかし、彼の
力は、残酷なまでに着実に弱まっていった。
 
 突然、プッシーの肉壁が彼に襲いかかっていた。四秒間から五秒間という周期
を守った。彼女は、少しずつあそこの筋肉にこめる力を増大させていった。
 
 限界を越えていた。男は、いきなり動くことが不可能な状況に置かれていた。
なぜなら、強大な粘着力を持ったプッシージュースが、彼の四肢にねっとりと絡
み付いていたからである。これが、彼の筋肉を衰弱させる。毒が染み込んでいく。
ついには、その動きを封じる決定的な効果を持ってしまうのである。
 
 彼の断末魔の悲鳴は、ごぼごぼという、ジュースに溺れて泡を吹くような音が
混じっていた。
 
 その瞬間。彼女は、彼の胴体を締め付けていた。肋骨を折っていた。両方の肺
を締め付けていた。心臓を破裂させていった。死の苦痛を、不必要に長引かせた
くはなかったのだ。
 
 ライアンは、必死の抵抗が、ついに終わりを迎えたのを感じていた。彼は、も
はやぴくりとも動けなかった。彼女にすら動けない存在自体を、膣内の皮膚感覚
だけで感じることは、ほとんどできなかった。けれども、筋肉に加える圧力の種
類と場所を、それまでとは別の部分に変化させていった。
 
 今度の行為は彼女としても、もっとも快いものだった。それは、彼女の肉体の
巨大さと比較して、彼が如何に卑小で哀れな存在かということを、明白に示して
くれるからだった。
 
 彼女にとって、もっとも繊細な肉体の場所が、彼の存在を感じるために、もっ
と多くの圧力を加えていた。抱擁してやっていたのである。
 
 彼の骨格が、彼女の力に抵抗して、じっと耐えているのが感じられた。彼女の
すべきことは、ただ待つことだけだった。
 
 一秒、もう一秒。
 
 それから、かすかなかすかな、内部をくすぐられるような感触とともに、彼の
肉体が、彼女の圧力についに屈伏する、喜悦の瞬間を迎えたのだった。
 
 小さな骨格から降参していた。次に、全身のより大きな骨が、折れて砕けてい
った。頭蓋骨が割れた。四肢の骨が折れた。背骨が折れた。腰骨が砕けていった。
 
 一秒の半分の時間。彼女は、彼の全身の骨が砕けて、平らな肉固まりに変化し
ていく過程を、目で見るように鮮明に感じていた。彼の存在が、この世から消失
したことを、克明に感じていた。
 
 ライアンは、この同じ種類の圧力を、さらに十秒間に渡り継続してやっていた。
それから、緊張を弛緩させていった。
 
 これほどの微妙な『膣内処刑』を実行するためには、彼女としても全身の他の
すべての筋肉を総動員して、緊張させている必要がある。高度な集中を必要とす
る技術だった。彼女のカントの筋肉の通常の状態での痙攣では、たった一回で、
壊れやすい肉体を原型を止めないまでの、ぼろぼろの骨と肉に変質させてしまう
だろう。
 
 彼女が、ここで用いていた力を解放する瞬間には、いつでもオーガズムに匹敵
するような激しい解放感が、全身にあった。その膣の力によって、彼のサイズの
人間達の文明の産物であるならば、一艚の豪華客船だって破壊することだってで
きるだろう。
 
 今では彼女は、ヴァギナから愛液をシャワーのように吹き出していた。両脚を
大きく開いたままの状態で立ち上がっていた。
 
 小さな銀の皿が、股間の真下にあった。注意深く、プッシーの口を開門してい
った。暖かい水の流れが、ヴァギナの中を流れ下る。小さなくすぐられるような
感触を覚えていた。
 
 さらに数秒後。ちっぽけな黒い点のようなものが、光る皿の上に流れ落ちてい
た。ライアンは、一端、すぐに放水を止めた。しかし、まだ数滴の愛液が、滴り
落ちていた。それだけでも、ちっぽけな肉体を押し流すのには、充分な水量と威
力を持っていた。皿の表面に同心円の波紋をいくつも描いた。後には、かすかな
赤い線状が残っていた。
 
 しかし、彼女は何の心配もしていなかった。結局のところ、彼女は、この『膣
内処刑』の分野のプロフェッショナルなのである。皿の中央にある排水溝のマイ
クロのサイズの格子が、彼の身体をそれ以上、流されることから守っていた。そ
の場所に止めていた。
 
 ロボットアームが出現していた。再び、その肉体を柔らかいプラスティック素
材のピンセットで持ち上げていった。
 
 ちっぽけな棺が、コントロールパネルの下の部屋から現われていた。死体はそ
の内部に入れられていた。棺の蓋がロボットアームによって、厳粛に、しかし、
あくまでも事務的に封印されていた。
 
 
 ロボットアームは、それをまた持ち上げていた。ある種の宝石箱のなかに、そ
れを密閉した。
 
 
 ライアンは、手のひらに小さな箱を乗せて、目の高さにまで持ち上げていった。
哀悼の念を示すために、恭しく一礼した。それから、封筒の中に自分の手で入
れた。厳重に封をしていた。
 
 箱は検死棺の手元に、一端は送られる規則である。遺族が、彼の死が生前に望
んでいた方法を守り、厳密に実行されたかどうかを確認する。もし親類縁者がい
ない場合には、彼は宝石箱に入ったままで、すみやかに埋葬される習いだった。
 
 別の意味で言えば、葬儀の行為の手順のすべては、彼の願望によって決定され
ているのだった。彼とその棺は、再び巨大化されて関係者に手渡されることもあ
る。彼女の聞いたところでは、ある顧客の緑の棺は、妻の結婚指輪にエメラルド
の宝石のようにして、埋め込まれているという話だった。
 
 ライアンは、地下のステージ・ルームを出ていった。上の階には彼女専用の贅
沢な個室があった。次の部屋で、彼女は赤いレザーのプラットフォームを靴箱に
戻した。カジュアルなジーンズのドレスに着替えた。今日の仕事は、彼女として
も体力を消耗する、重労働であったのだ。
 
 散歩に出かけることにした。いきつけのカフェで濃いエスプレッソを飲みたか
った。封筒を、その途中でポストに入れた。明日になれば検死官が、死体に正式
な死亡証明書を添付して、家族の担当する弁護士に報告してくれることだろう。
彼は彼女に、正当な報酬を支払ってくれる約束だったのだ。
 
 実際のところ、莫大な金額になっていた。彼女は、彼に親類縁者がいたのかど
うかということについては、何の知識もなかった。しかし、実際には、いたのだ
ろう。今回の場合は、彼は彼女に単純に全財産を寄贈してくれたわけではなかっ
たからだ。しかし、もしそうであったとしても、遺族たちは、そんなに巨額の遺
産を受け取るという訳には、いかないだろう。
 
 実際のところ、彼は一つの大都市を買い取ってしまったのだ。都市は、この世
界の経済の基準で考えても、安価な買物ではなかった。希少な品物だった。
 
 連邦が支配する惑星の総数は、この宇宙に43000箇ある。すべての連邦の
市民が、外世界の惑星一個を買えるぐらいの資産を保有していた。しかし、彼は
『巨女ゲーム』のプレイの前に、すべての自身の借金を返済しておかなければな
らない。その上で、初めて都市を購入することを許可される。
 
 特に、今回のように百万以上の人口を有するメトロポリタンを購入できるのは、
富裕な階級のみに限られていた。その上、彼は彼女に都市を縮小し転送するた
めの費用と、『膣内処刑』の技術料を払わなければならないのである。
 
 彼が選択したのは、ヌードだった。その分の料金も増額される。都市が破滅し
た後まで、殺害される事なく内部に留まることを選択してもいた。このために、
彼女は特殊なコンタクト・レンズを着用している必要があった。その分の費用も
かかっている。
 
 コンタクト・レンズには、都市の中で、彼が生存している場所の位置が、赤い
光の線のイメージで、彼女の視界の端に、常に鮮明に投影されていた。
 
 判別が不可能になった死体は、支払いの対象外になってしまう。契約の条項で
、厳密に指定されていた。彼女にとっては、たった一回の動きのミスが、高いハ
イヒールで滑ったにしろ転んだにしろ、理由の如何によらずに、多額の報酬を無
に帰する心配があった。
 
 少なくとも彼女はつねに、少なくとも都市の高額な代金を保障してもらうため
に、毎月、高額になる保険に加入していなければならなかった。「巨女ゲーム」
の娼婦であるという仕事には、苦労がつきなかった。ストレスもあった。
 
 しかし、ともあれ、今回はすべてが順調に推移し、完了した。彼の『膣内処刑』
ひとつをとっても、彼女としても最高の完成度を誇れる成果の一つだった。彼
が、このような人生の終幕を望んだのだ。そのために、彼は彼女のもとを訪れた
のである。
 
 彼女は、『膣内処刑』の後も、判別可能な死体を残すことのできる、縮小人間
専用の娼婦たちの中でも、最高ランクの存在であったのである。他の縮小人間を
担当できる娼婦でも、せいぜい返送できる死体は、ペースト状になったものに過
ぎない。それを、彼女は知悉していた。
 
 たしかに、この仕事はハード・ワークである。生還を条件とする、本格的な
「巨女ゲーム」のプレイをすることだけでも、普通の娼婦には容易なことではない。
コンタクト・レンズを着用せずに、「巨女ゲーム」を実行するようにと、彼女
に要求してくるような無謀なプレイヤーは、ほとんどいなかった。
 
 彼らは、彼女のサイズが、生死を決定することを良く知っていた。都市の破壊
の程度も、それによって決定される。彼女の外見、行動、それらの総合した状況
によって運命が決まる。ひとたび、命運が決定されれば、『巨女ゲーム』のプレ
イヤーは、その都市の住民全部の終末の日を、決定したのと同じことである。正
体が露見すると、ライアンがステージに登場する前に、殺害される場合すらあった。
 
 そうなった場合でも、破滅を定められた都市の住民が、救済されるということ
はない。保険で購入した彼女の財産だからだ。ライアンも、そんな都市を一つだ
け持っている。マッチ箱のサイズにまで縮小してある。「プライベート」な楽しみの
用途に使うために、衣裳ダンスの下着が入っている引き出しに、大事に保管していた。

 
1・膣内処刑 了


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