巨女ゲーム  第2章 身長3マイルの女

ヘディン・作
笛地静恵・訳
 
 
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 次の日には、代金が振り込まれていた。彼女は、幸福な気分だった。それとい
うのも、銀行の口座には、全額が払い込まれていたからである。これで彼女は、
家のクレジットと、新型の機械装置の代金の双方を支払うことができた。それに
しばらくは優雅に遊んで暮らせるだけの、お金が残っていた。
 
 一週間後のことである。彼女は、また別の売春の依頼を受けていた。前回より
も、上質の顧客を選別するだけのゆとりがあった。条件を厳しくチェックしてい
った。
 
 その男は、「巨女ゲーム」の世界でも有名な存在だった。良き仕事に対しては
それなりの報酬を払うという信用があった。しかも、選択する都市については

通常は何の条件もつけないということだった。しかし、その代わりとして、現
実の
面会を求めてきた。ランアンは、その点についても興味を持っていた。
 
 面会というのは、それほどに珍しいことではない。莫大な代金を支払う側には
これから仕事をしてもらう女性に、面会する権利があるとされている。面会は

いつも娼婦の家で行なわれていた。それによって彼女は、自前の安全装置に管
理された状況で、泥棒や強姦魔に襲われる心配なく、仕事に専念することができ
るからである。
 
 ライアンは、彼らのための特別な入り口と、この主の目的に用いられるスペシ
ャル・ルームである「縮小室」を用意していた。縮小光線は、いつでも使用可能
な状態にあった。予想される様々な攻撃に対して、防御態勢を整えておく必要が
あった。しかし、今回の面会は、特に危険性のあるようなものとは思えなかった
 
 彼女にとっては、むしろ驚きの方が強かった。その男は、本当のプレイヤーだ
ったのだ。報酬として、全財産の提供を申し出ていた。銀行側も、早急に財産の
調査書を作成してくれていた。何の疑問点も、見いだせなかった。支払い条件も
妥当なものだった。「巨女ゲーム」の場所対は、一千万人以上の人口を有する
大都市だった。彼の方で用意をするという。探す手間がいらなかった。
 
 彼女は、彼が如何にして、それほどに巨大な都市を買うという代金を調達した
のか、不思議でならなかった。しかし、彼は都市を買うのではない。発見したの
だと説明をしてくれていた。
 
 銀河連邦の外にある世界で、文明のある未知の惑星を発見したのだと話してい
た。銀河連邦の交易ルートからも、だいぶ離れた位置にあった。主に海賊行為に
よって、生活を成り立たせている者達の世界だった。
 
 彼は彼女に、単に連邦の支配の法律の及ばない一個の都市を、偶然に「発見し
た」だけであると、正直に白状していた。彼女も、このような発見が、ごくまれ
にだが、可能であるということは噂に聞いて知っていた。
 
 銀河連邦の法律は、その連邦内部の地帯にのみ適用される。それ以外の惑星は
単に売買の対象となる。原則として戦争もない。戦費が掛からないのだから、
戦争ローンを組むこともなく、格安で購入することが可能である。
 
 連邦外のすべての都市は、その法律の適用の埒外に置かれている。そのことは
数百年前のフィリジョフ二世王の時代に、王室会議で決定されていることだっ
た。
 
 もし外世界の惑星で敵対行為に出るような都市があれば、全惑星が即座に縮小
の刑に処せられた。


 


 王の時代からは法理論的には、外世界の惑星は、すべて連邦
との戦争状態に、移行したことになるのだった。
 
 今では、この銀河系で人類が居住可能な惑星は、すべてが連邦の支配に服して
いるとされていた。版図の拡大と、植民地の拡大の華々しい時代は、とうの昔に
終わっていた。「巨女ゲーム」というような頽廃した遊びが、富裕な連邦の市民
に流行しているという理由も、この辺りの刺激のなさにあるのかもしれなかった
 
 連邦の支配する地帯の外側に、人類の住む世界が残っているという可能性を信
じるものは一般の市民には、ほとんど存在していなかった。
 
 しかし、連邦の宇宙軍は、つねに辺境地帯までの完全な防御態勢を取っていた
外世界からの突然の侵略などもありえなかった。
 
 それゆえに、今回の顧客の場合のような法律の適用外の世界の発見という可能
性が、逆に残されているのだと言えた。彼は宇宙貿易の会社の社長であるという
話だった。
 
 また同時に、そのような惑星が仮に発見されたとしても、発見者の権利を最大
限に尊重しつつ、連邦の法律の枠内で適性に処理される慣習があった。
 
 惑星の正確な銀河座標のデータ・セットがあれば、縮小が可能である。今回の
ような商売に利用される商品となるのだった。
 
 今回は恒星系の正確な銀河座標と、自転速度というデータが正確に分かってい
た。もっとも、普通はここまで行くだけでも、大変な作業なのだ。銀河系を中心
にして自転する各恒星系の軌道を算出し、恒星を中心にして自転する惑星の軌道
を計算しなければならない。自転のスピードを加えて、惑星の質量のサイズを入
力しなければならない。計算は、うんざりするほど複雑だった。コンピュータは
不撓不屈の忍耐力で目的を果たしてくれていた。ここまでくれば、惑星上のど
の都市についても、その位置を特定するのは簡単なことだった。
 
 しばらくの間、なおいろいろと考えをめぐらした後で、ライアンは彼の計画に
同意した。男は二日以内に、すべてのデータのセットを、彼女のコンピュータに
送信することを約束した。
 
 次の木曜日までには、彼は彼女のもとに到着していた。隠し立てをしない。そ
の態度は、正正堂堂としていた。真の「巨女ゲーム」のプレイヤーであることを
彼女に証明してみせたのである。
 
 仲介者が、彼女の元を訪問してきた。ライアンは、彼女の弁護士に、自分の立
場の法律的な正当性を確認させていた。弁護士は、セリー第四惑星に存在する
銀河大法典』の電子的な署名を添えた文書を、データベースから検索していた。
正当性を証明してくれた。銀河連邦の大統領の署名と、同等な効力を持っていた
 
 土曜日には、彼女のクライアントは、e-mailによってその希望を伝えて来てい
た。彼は、その日の装いとして、ファッショナブルなミニのドレスに、ストリップ・
ティーズをご所望のようだった。化粧は薄めで良いという。黒の木製のプラ
ットフォームのミュールをお願いする。ただし、スティレット・ヒールという、
踵の鋭い物でという条件がついていた。
 
 彼が要望する彼女の惑星上のサイズは、身長が3マイルということだった。通
常の3000倍である。「巨女ゲーム」としても、常識外の途方も無い巨人化率
だった。100倍から300倍が、平均的な率だった。その他の行為の内容につ
いては、何ら特別な注文を付けてはこなかった。
 
 彼が求めたのは、「エロティックなアクション」によって、二時間を、たっぷ
りと楽しませてもらいたいということだけだった。確かに、二時間は、あまりに
も長い条件だった。たとえ、もっと巨大な都市でさえ、仮に超スローモーション
で動いたとしても、90分間のプレイが限界だった。二時間ということは、彼女
は本当にゆっくりと、徹底的な破壊活動を行なうことになる。彼に生還の見込み
は全くなかった。
 
 「巨女ゲーム」のプレイヤーの行動の条件は、過酷だった。カスタマーは、都
市のどこかに隠れ潜んでいる。遅くとも30分後には、アクションがスタートす
る。彼女は、彼がどこにいるのかということを知ることはできない。もし彼女が
彼のことを殺すか、大怪我をさせてしまったとしても、それを知る方法はない。
 
 時には、「巨女ゲーム」の縮小されたプレイヤーは、娼婦の最初の一歩で踏み
潰されてしまうことさえあった。そうであっても、彼女たちの行動は最初に決定
してあった計画のとおりに、制限時間いっぱいまでは継続される契約だった。
 
 月曜日になった。男は、特別性の入り口から、彼女の家を訪問していた。何か
が始まる前には、「巨女ゲーム」のプレイヤーは、代金の払い込みを済ませてお
かなければならない。コンピュータは、その件のチェックを済ませていた。この
チェックの間にも、彼はゆっくりと縮小の過程をたどっていた。彼の選択したサ
イズにまでである。
 
 しかし、四分の一インチ以下になるということはなかった。その状態で、彼は
事前の計画通りの格好にドレス・アップしたライアンに面会する約束だった。も
ちろん、ヌードを希望したカスタマーには、そのような姿で登場することになる
 
 ライアンは「縮小室」を訪問していた。「縮小室」においては、彼女の場合は
少なくともビキニに、靴だけは着用するという習慣だった。冷たい床の表面に腰
を下ろした。
 
 「巨女ゲーム」のプレイヤーは、ここで彼の最期の決定を迫られる。すでにプ
レイヤーの宣誓書に、サインを済ませている。決意は固いはずだ。しかし、ライ
アンとしては、ここで最後のチャンスを与えることを好んでいた。それというの
も、立派な殿方の半分以上が、ズボンの中にオシッコを漏らす。ステージに入る
ことを、拒否してくれるからだった。手間をかけないで多額の報酬が手に入る。
返金の必要は無論ない。
 
 巨人女のプロポーションのリアリティに、腰を抜かすのが常套だった。しかし
、このカスタマーは意志を変更することはなかった。
 
 「けっこうだ!」
 彼は、そうとだけ言った。これはつまり、彼が自分の希望したサイズまで、さ
らに縮小して良いという決断を、したことになる。
 
 3マイルのプロポーションのライアンとは、彼女にとっては彼の身長が、0,025
インチに縮小するという ことに等しい。一インチの40分の1である。3000
分の1の背丈になる。こうなるとライアンにとっては、彼の姿は単純に白い床の
上で消え失せたのと、同じことだった。しゃがみこんで床に顔を近付けても、彼
女が見て取れるのは黒い点のようなものに過ぎなかった。
 
「あなたは、本当にそんなに小さくなりたいのね?」
 彼女は質問をしていた。ロボット・アームが、高度なナノテクノロジーの産物
である極小のマイクロフォンを、点の真上に移動させていった。
「私の考えに変化はない」
 機械的に増幅された声が答えた。それでもライアンの耳に聞こえる限界の大き
さだった。
 
「そのサイズでは、あなたが、このプレイに生き残るチャンスは、ゼロに等しい
わ。あなたは私に、レイダー・アイの付いたコンタクト・レンズの着用を要求す
ることができるわ。位置が分かっていれば、少しは生き延びる可能性があるかも
しれない。チャンスが欲しくないの?」
 
 ライアンは、わざとその場所に、大きなビキニのヒップをついて座り込んでい
た。彼は彼女の声の振動だけでも、立っていられないような状態だったのだ。
 
 生涯の終わりが来たことを、運命的に感じていたのだった。彼女のミュールの
プラットフォームの靴底だけでも、摩天楼のような高さまで聳える黒い壁だった
本当に、危険な存在に見えていた。
 
 しかも、この場所からは靴の底の部分までを、明瞭に見上げることができた。
地面から空に向かって、大きく湾曲して反り返りながら、天に向かってのびあが
っていた。先端が傾斜しているのは、より歩き安くするための工夫だろう。湾曲
した先端から遥か下の部分には、洞窟のように暗い床の膨大な広がりを見通すこ
とができていた。そこで初めて、床と靴が接地しているのだった。その光景は、
本当に肝を冷やすような恐怖を彼にもたらしていた。
 
 しかし、彼は男だった。彼女の塔のように聳える肉体の恐怖のせいで、ズボン
に小便を漏らしてしまったことを告白して、命乞いをするべきだろうか?
 
 しばらくの沈黙の後で、ついに彼は如才のない上手い表現を見付けることがで
きていた。
「君が望むならば……」
「いいえ」
 ライアンの答えは素っ気ないものだった。声の力が彼の身体を、床から飛び跳
ねさせていた。
「コンタクトレンズは、もともと好きじゃないのよ。二時間も付けていたら目が
痛くなっちゃうわ。あなたには自分で、自分の生きる道を見付けてもらうしかな
さそうね」
 
 そう言いながら立ち上がっていた。向きを変えていた。ロボット・アームのマ
イクロフォンも、どこかに消えていった。彼の恐怖の絶叫も、同時に小さくなっ
て消えていった。
 
 彼女の一歩が、床に打ち付けられていた。大地が、彼女の体重の移動に沈んで
盛り上がった。気流の変化もあった。彼を優に半インチ分は、空中に放り投げる
ようにしていた。つまり、自分の身長の二十倍の高度である。
 
 しかし、彼はあまりにも小さくなっていた。重力も深刻なダメージを与えるこ
とはなかった。空気抵抗を受けながら、舞い降りるように安全に着地していた。
濃密な空気は、彼を塵の一粒のように抱き締めてくれていた。
 
 着陸した瞬間に、彼女の二歩目が激越な地震のような衝撃を大地に伝えていた
再び彼は、空中に飛翔していた。今度の時間は、前回よりも長い短かかった。
 
 三歩目で彼女は「縮小室」から出ていった。今度は吹き飛ばされるということ
はなかった。しかし、跳ねとばされて床の上を滑っていった。最後の一歩は、彼
は単純に振動を骨に感じ、足音を耳にするというだけで済んだ。
 
 数秒後、ロボットアームが上空に出現していた。一揃いの異星のデザインの衣
服が落とされていた。それは、彼の体にぴったりと合っていた。都市に入ってか
ら正体をカモフラージュするのに間に合っていた。いつもは、転送と縮小の過程
で、ステージの端から転落した市民の衣服を、はぎ取って使われていた。光線が
彼に照射されていた。
 
 一瞬で転送されていた。
 
                 *
 
 新鮮な風が、彼の顔を打った。一枚の古びたアパートの木製のドアの前に立ち
尽くしていた。混雑した通りが、目の前にあった。一台の車が、停まっていた。
それは、自分が今着ている服がそうであるように、彼の趣味にぴったりと合うデ
ザインだった。ライアンが、彼の趣味を調べ尽くしていたことがわかった。
 
 時間はない。急がなければならなかった。すぐに運転席のドアを開いた。都市
の中心部に対して、向かうだろうと予想される方向を選択していた。
 
 運転しながら巨人女との、短時間だが圧倒的なランデブーを反芻していた。正
直なところ、彼は自分が通常の人間の世界に戻ってきたという安心感を覚えてい
た。今、不安なことは、自分が都市のどの辺りにいるのかということだけだった
 
 数本の狭い道路を通り過ぎた。より幅の広い道路を選択していた。ダウンタウ
ンの方向に導いてくれるような気がした。その方が、彼にとって好都合のような
気がした。
 
 それというのも、彼は熟達したプレイヤーとして、巨人女のいつものプログラ
ムを熟知していた。たいていが、都市の外周のどこかから初めて中心部に向かう
という作戦だった。
 
 次の数分間というもの、彼は駐車場を求めて、目をきょろきょろさせていた。
もちろん、あの彼方に見えている摩天楼街にまで入り込むことは、危険に過ぎた
しかし、彼はひとたびことが始まった時には、その内部に囚われの身になって
いたかった。それが、長年のフェティッシュな夢だったのである。
 
 そのために、彼は都市のブロックからブロックへと何回も周遊していた。好都
合な場所を発見するという幸運は、訪れていなかった。
 
 行動の計画を考えながらも、パニックに陥りそうになっていた。誰もが、この
都市から、逃げ出さなければならない。それも、今すぐにだ。絶叫しそうだった
パニックだった。他者のことを心配している時間はないはずなのだ。
 
 彼の心臓は激しく鼓動していた。彼の思いは、縮小室での戦慄の体験に引き戻
されていた。わずか450メートルの背丈の彼女は、あんなに恐るべき威容を誇
っていた。そして。今では?どれぐらいに巨大化しているのだろうか?
 
 彼は生き残るためのレイダー・アイ付きのコンタクト・レンズという最後のチ
ャンスを、自ら放棄していたのである。彼がこの次、彼女に出会うときには、3
マイルの身長になっているはずだった。彼女のスーパー・テクノロジーを持って
しても、この都市の中での彼の位置を把握することは、もはや不可能なことだろ
う。ハンドルが音を立てるまでに、力まかせに拳骨で殴り付けていた。なぜ今更
自分の命などというつまらないものに、拘っているのか?
 
 彼は、二時間という制限を命令していた。おそらく、あの巨人女の足ならば、
わずか十歩分で、この都市ぐらいならば、完全な廃墟にすることができるだろう
彼は彼女の重低音を伴う足音から、原子爆弾のようなエネルギーを感じていた
 
 駐車場だ!とうとう、見付けた。すぐ前を走っていた車に、追突しそうになっ
ていた。慌てて急ブレーキをかけていた。みんなが、彼の方を怪訝な表情で眺め
ていた。
「神のみぞ知るだ。みんな自分の命の方を心配するこったな!」
 
 だいたい後、どれぐらいの時間が残っているんだ。車内には時計はついていな
かった。腕時計もない。馬鹿なルールだった。すべてが、彼女の思いのままとい
うことなのだろう。ライアンは、二時間の内で少なくとも30分間の猶予を、彼
に与えてくれるだろう。行動開始は、おそらくそれからだ。駐車場を探していて
いったいどれぐらいの時間を無駄に費やしてしまったのだろうか?
                 *
 
 ライアンの方は、退屈していた。彼女のディスプレイには、カスタマーが都市
のどのあたりにいるのかということが、光点で明瞭に表示されていた。彼女はさ
らに五分間というもの、コントロールのパネルをじっと眺めていた。
 
 都市は平穏な状況だった。彼の正体が、ばれている様子がないということを確
認していた。もし彼が誰であり、何をしようとしているのかということが、都市
の住民にばれたならば、生存の可能性はほとんどないだろう。何が起こったとし
ても、彼女のテクノロジーに対抗できるような武器が、都市にあるはずもなかっ
たけれども。
 
 ライアンは、自分のリヴィングルームに戻ることにした。いつもそこで待機の
時間を過ごす週間だった。聖別された30分間だけは一千万の都市の誰もが、彼
女の存在に恐怖心を抱かなくて済む、最期の平安の時を過ごす権利があるのだ。
 
 ソファに座り、本を読みはじめた。十分後、彼女はワインを楽しむために、ボ
トルのコルクの栓を抜いた。赤ワインをグラスに注いだ。彼女は、プロフェショ
ナルだった。仕事の前に、気分をベストの状態にもっていくための方法を熟知し
ていた。
 
 結局のところ、彼女の今回の顧客の要求は、肉感的で上品なセクシュアリティ
を発揮してくれということに尽きるだろう。二時間のアクションということは、
少なくとも一時間以上は、一千万都市の中を、歩き回らなければならないという
ことになる。
 
 しかし、今度の場合のように、現実には一千万人の人口を有する巨大なスケー
ルの大都市であっても、彼女の一時間以上の歩行や行為に耐えるだけのものがあ
るとは、とても思えなかった。
 
 今回の彼女のサイズは、まさにクレイジーだった。物思いに耽っていた。彼女
が彼の位置を把握するためのレーダー・レンズの着用を拒否した時の、プレイヤ
ーの吃るような躊躇いがちの様子を思い出していた。しかし、彼女自身はものこ
の件に関しては、本当は何も心配していなかった。結局、彼の命を守るような如
何なる条項も、契約には存在していないのだ。
 
 長い間、また別の物思いに耽っていた。それから、スティロットのプラットフ
ォームのヒールを床に落とした。彼女は、より軽快なミュールの方に、足を滑ら
せていた。快適でない、ある種のフェティッシュな趣味を満足させるだけの靴に
不快感を覚えるようなことはしたくなかった。彼女は、なお時を待っていた。
 
                 *
 
 ちょうどその頃、彼女の獲物となるプレイヤーは、車内に座り込んでいた。空
を注視していた。なにかの変化の兆候を、空に感じようとしていたのだった。時
が経過していた。また神経症のような突然の不安感に襲われていた。
 
 自分の命を救うための計画を、立てては壊していた。どの計画も、たった30
分間では、実行が不可能なものばかりだった。なぜならば、どの計画にも、ライ
アンの行動については、予測が不可能であるという限界が、付きまとっていたか
らだ。
 
 たった一歩の、物憂げなあるいは気紛れな動きで、あの娼婦が、あやまった場
所を踏んだとする。それだけで彼の運命は、すべてが一巻の終わりになるのだっ
た。
 
2・身長3マイルの女 了



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