『別の星の麗子先生のお話し : 中編』

                     作 だんごろう


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この星の人にしてみたら、実際には120メートルある身体。それを30メートルに縮めて、怪獣ミニラに扮した少女たち。彼女達は、既に都会の中心地に入っています。

広い通りには、乗り捨てられた車が散在し、通りの両側には10階建て以上のビルが並んでいます。
そして、彼女達の足元の通りには、ほとんど人がいません。全てどこかのビルに逃げ込んだ様でした。

10階建てのビルが彼女たちとほぼ同じ高さです。街の中心ではその高さのビルが並んでいるので、別の通りに入ってしまうと、お互いの姿は見えません。ミーとケイは二人で、ランとスーとミキは三人で、別々のルートで進んできました。そのため、合流に少し手間取り、「ミュ〜ん♪」とあげ、その声を頼りに、ようやく今、5人が揃いました。

箸が転がっても笑い転げる年頃の少女たちです。動作がオーバーで、合流した途端に、「ミーちゃん!」「ランちゃん!」「ミキちゃん!」「ケイちゃん!」「スーちゃん!」・・・と、お互いの名前を呼び合い、さらに、ガシッ!と抱き合いました。
ひとしきり、再会の感動を表していた彼女たちですが、班長のミキが思い出した様に
「待って、今日やることをやりましょう!」と全員に声をかけました。
その言葉に、少女たちは「うん!」と、元気に頷きます。

全員の頭の中に、麗子先生の笑顔が浮かびました。先生を喜ばしたい五人の生徒は、小声で「せぇの」と息を合わせて、「コビトを沢山やっつけよう!」と声を上げ、パチパチと拍手します。

通りを見下ろすと、沢山の車が雑然と取り残されていますが、そんな物を踏み潰してもポイントが高くはありません。やはり、先生に、「私、今日、一万人ぐらいやっつけた!」と言いたいのです。コビトをどれだけ退治したかが競われます。
それにもうすぐ麗子先生が来ます。それまでに、少しでも多くコビトを退治したい気持ちがあります。

ミーがしゃがんで、ビルの中を覗き込みます。
途端に声を発します。「いる!いる!」
ビルの中には、沢山のコビトが逃げ込んでいました。
ミーは立ち上がって、自分と同じ高さがあるビルに、「えい!」と可愛らしい声をあげてパンチを入れました。怪獣の着ぐるみに包まれた腕が、瓦礫を撒き散らしながら、ビルの中に簡単にズボッと入ります。さらに、突き入れた手で、中をかき回します。
そこはオフィスらしく、机、椅子、キャビネット、パソコン、その他の小さな物が、ビルから弾き出されてミーの足元に落ちてきます。それに混じってバタバタと動きながら落ちてくるコビトも沢山います。
「きゃあ!」
破壊の楽しさで、ミーは歓声を上げます。さらに、両手をビルの中に入れ、その手を下方向に動かします。若干の抵抗で、その手は瓦礫を撒きながら下の階に移っていきます。

ミーは足元を見下ろします。一階のビルのエントランスから、中のコビトが逃げ始めていました。慌てて、それを踏み潰していきます。グチュグチュと小さな生き物を踏み潰す感覚を足裏に感じます。
直ぐにエントランスからの人の流れは止まりました。外で、怪獣の巨大な足が飛び出してくる人々を次々に踏み潰しているのですから、出てくることはできなくなります。
ミーにも、彼らがビルの中で怯えていることがわかります。膝蹴りをするようにして足をビルに突き入れて、その足でビルをかき回し、コビトを追い立てます。
狙いどおり、また、ビルからコビトが通りに溢れてきます。それを次々に踏み潰していきます。

でも、もうビルの中はぐちゃぐちゃです。ミーの前でガラガラと崩壊してしまいました。

ミーの横にいたケイは、ビルの正面から体当たりをしました。
ビルの中からは誰一人逃げることもできず、一気にビルが粉砕し、崩れ落ちます。ケイは、その散らばる瓦礫の中で首を上げて「ミュ〜ん♪」とちょっとハスキーな声をあげました。
横にいるミーが手をパチパチ叩き、「キャハハ、ケイちゃん、本物の怪獣みたい!」と笑います。
ケイは調子に乗って、空を仰いで首を振りながら、「ミュ〜ん♪ミュ〜ん♪」と、怪獣の声を出し続けます。

その後、仲の良い二人はタッグを組みます。ミーが片足をビルの突き入れ、その足で中をかき回してコビトを外に追い出します。それを、待ち構えていたケイが次々に踏み潰していきます。そして最後に二人でビルに体当たりをして、ビルを粉砕し、「ミュ〜ん♪」と可愛らしい怪獣の声をあげていきます。

ラン、スー、ミキの3人も、同じ様に次々にビルを破壊し、コビトを通りに追い出して踏み潰していました。

ランが声を出します。「あの高いビルの中、いっぱいコビトが隠れているかもよ!」
スーとミキも、ランの言った、近くにある高いビルを見上げます。30以上の階数があり、高さは100メートルを超えていました。
彼女たちの3倍以上の高さです。その中に沢山のコビトがいると思えてきます。

ランがそのビルに、怪獣の足でドタドタ駆け寄ります。そして、ビルに片手をズボッと突き入れてコビトを一人わしづかみにし、残りの手足を使ってビルの側面を登り始めました。
スーとミキが驚いて声を掛けます。「ランちゃん!どうしたの?」
でも、ランはそれに応えず、彼女達に手の平でつかんでいるコビトを見せ、「ミュ〜ん♪」と声をあげました。

ミキとスーは、ランは怪獣の真似をしてビルを登っていると、直ぐに分かりました。何かの映画で、巨大な怪獣が人間を片手でつかんでビルを登るシーンがあったことを思い出したのです。
でも、彼女たちはビルをさんざん壊したので、その脆さを分かっています。ランのしていることは危ないことの様に思えました。
ミキとスーは、いつビルが崩れるか、ハラハラして壁面を登っていくランを見上げます。

ランは、一面全てがガラス張りになっているビルに、手の平とつま先を突き入れて、各フロアーを足がかりに登っていきます。ガラスと、細かい瓦礫が地上に撒き散らされていきます。中のコビトの沢山の悲鳴が聞こえます。
ランは、ビルを登り、屋上に立って、コビトを持つ手を高く差し上げて、「ミュ〜ん♪」と怪獣の声をあげるつもりでした。それが、怪獣っぽくてカッコ良く思えたのです。
ですから、多少の危険は顧みていません。ミキとスーの「ランちゃん、危ないよ!」と言う声も聞こえていたのですが、一旦決めたことはやり遂げたくなる性分なので、がむしゃらに登っていました。

屋上に手がかかりました。そのまま這いずる様にして、屋上で腹ばいになります。
ランの胸から膝までが屋上に乗り、首から上と、膝から下が宙に浮いた状態になっています。

丁度その時、ビルの1階部分がズン!と潰れ、ビルが斜めになりました。
ランは、急に傾いたビルにドキリとしました。慌てて、手に持っていたコビトを下に投げ捨てます。コビトは「ギャー!」と叫びながら落下していきます。
そして、ランは、空いた両手でビルにしがみ付きました。その手が、数階下のフロアーに突き刺さります。

ランの顔はビルの屋上からはみ出しています。地上にいるスーとミキが見えます。
ビルの高さは、彼女たちの身長の三倍もあります。おまけにビルは傾いているので、下を見るランは、“落ちる!”と思い、怖くなってきます。

スーとミキにも、苦境に陥ったランの様子がわかります。斜めに傾いだビルに両手を差し上げ、手のひらをビルの壁に当て、それ以上、ビルが傾かない様にしています。
でも、脆いビルは、崩壊の音をパキパキと、出し続けています。

降りるために動けば、腹ばいになっているビルは一気に崩れそうです。動くこともできません。ランは泣き出してしまいます。

その直後、下にいるスーとミキから、「もう、大丈夫よ!ランちゃん!」と、嬉しそうな声がしました。
同時に、ランのお腹の下に何かが潜り込んできて、ランの身体をそっと持ち上げ始めました。
ランは、「えっ!?」と声を上げてびっくりし、後ろを振り返ります。
その口が一瞬ポカンと開き、驚きの声を発します。
「れ、麗子先生!?」

サングラスをかけてはいますが、いつもと変わらずに優しい笑みを浮かべている麗子先生の顔が、ランの後ろにあったのです。
でも、その顔は巨大でした。今のランの身長ぐらいあります。
さらに、先生の形良い大きな口が開きます。
「大丈夫、ランちゃん?」

今まで泣いていたランは、先生に助けてもらったことが嬉しくなっています。「うん!」と大きな声で返事を返します。さらにランは、自分の身体を持ち上げているものに目を配り、自分が、巨大な麗子先生の両手の手の平で掬い上げられたことを理解しました。

そのまま、麗子先生は、ランを地上に降ろします。さらに、スーとミキに向かって、「ランちゃんを困らせたビルを懲らしめるから、下がってね」と、優しく声をかけます。
慌てて、スーとミキは、ランが降ろされた場所に退避をします。

それを確認した先生は、今までランが乗っていた、コビトに取っては100メートル近いビルを見下ろします。それは、今の麗子先生にすれば、腰までの高さしかありません。
一歩後ろに下がって、ブーツで足元の10階建ての小さな建物を踏みしめ、一旦、片足を高く振り上げ、そのビルの上に踵を落としました。
踵がビルを上から下まで一瞬で貫通し、ビルが瞬間的に細かい瓦礫に代わり、辺りに粉塵を撒き散らかします。

凄い迫力です。ミーとケイも駆け寄って来て、五人全員でパチパチと拍手をして、「やった!麗子先生!」と、嬉しそうに声をあげます。

麗子先生は、五人の生徒を見下ろし、ニッコリと微笑みます。

巨大な麗子先生。そして、30メートルの小さな生徒達。
元々の先生と生徒の取り決めでは、先生は、30メートルに縮小されている教え子の大きさに合わせて、40メートルの大きさで現れるはずでした。
でも、100メートルの高さのビルの上で身動きできなくなっていたランを見て、急遽、彼女のオリジナルのサイズ180メートルの身長で出現したのです。

麗子先生は辺りを見渡します。彼女の身長ぐらいある建造物は、疎らにしか存在しません。
最も沢山ある、10階建てから15階建てのビルは、ヒールの高いブーツの脹脛(ふくらはぎ)にも届きません。

上空の風が、麗子先生の髪をフワッと靡かせます。
巨大な姿で小さな世界に立つことが、とても気持ち良く感じます。

麗子先生、ブーツを持ち上げ、足元に広がるビル街に浮かせました。
急に影になったことに気づいたコビトが、ビルから飛び出してきます。ビルの間にある通りに群集の流れが生まれます。
麗子先生、その流れを見下ろし、浮かせたブーツを地表に降ろします。数棟のビルと、コビトが逃げ出している通りが、ほとんど抵抗もなく、靴底の下で潰れきります。
その、あっけない程の脆さで、麗子先生、クスッと笑ってしまいました。

“今日は、このサイズでいこうかしら”
五人の生徒に見下ろし、声をかけます。
「ねぇ、先生、今日、このサイズでいくね」

途端に、生徒から不満な声がでます。
「先生、それって、ずるくない?」
彼女たちだって、本来ならば、120メートルの身長なのです。それが、30メートルに縮められ、コビトの街に来させられているのです。やはり、不満は出ます。

「しょうがないでしょ。ランちゃんを助けるために、このサイズで出現しちゃったんだから」
麗子先生、生徒に話しながら、彼女たちに気づかれない様に、足元のビルをそっと踏みつけ、それが靴底の下でパキパキと潰れる感触を楽しんでいます。
“やっぱ、このサイズが良い!”

生徒達は、その麗子先生の密かな楽しみを知らず、不満げに先生の顔を見上げています。
こういう時、一番に文句を言うのはランなので、全員、ランに期待して彼女に視線を向けます。でも、ランは麗子先生に助けられた身の上です。文句を言うことはできません。

麗子先生、生徒達に向かって、教師としての声を出します。
「全員、予定どおりに進めてください」

生徒達は諦め、班長であるミキに視線を向けます。
ミキは、班で決めたストーリーに従い、この星のコビトの言葉で大きな声を出し始めました。直ぐに残りの全員がそれに追随し、声を出していきます。
『ワレワレハ、ウチュウカラキタ、キョウアクカイジュウダ!
 コノホシヲ、セイフクスルタメニキタ。コウフクヲスルノダ!』
わざと宇宙人が話している様な声色で声を張り上げました。無理な声色で、しかも大きな声をだしたので、声を出し終わった全員、息がゼイゼイしています。

麗子先生は、生徒に「ご苦労さま」と声をかけ、辺り一帯に聞こえるように、顔を上げて、この星の言葉で澄んだ声を出しました。
『この星の皆さん!皆さんは宇宙の凶悪怪獣に狙われています。
 私、ウルトラウーマン麗子が、皆さんのため、怪獣と戦います。
 この辺り一帯は、怪獣との戦闘地帯になります。
 皆さんの安全のため、早くビルから逃げ出してください』

さらに、麗子先生は、付近で一番高い、コビトサイズで80メートルはあるビルを見て、足元のビル街をズカズカと踏みつけながら近づいていきます。
横に立つと、そのビルは、麗子先生の青いウルトラスーツに包まれた豊かな腰にも届きません。
麗子先生は、しゃがんで、ビルの中を覗き込みます。

急に出現した、サングラスをかけた巨大な女性の顔に、ビルの中のコビト達は慌てた様子をしています。
その彼らに、ニッコリと魅力的な笑みを見せてあげてから立ち上がり、足を後ろに振り上げてそのビルを蹴り上げます。瞬間、ビルの壁面に青いブーツが突入し、ビルが爆発するように消し飛んでしまいました。

麗子先生、この星の言葉で、また声を出します。
『私が戦うとこうなってしまうのです。
 ですから、皆さん、早くビルから逃げ出してください』

さらに、辺りのビル街を踏みしめ、高めのビルに近づいて次々に蹴り上げ、そして、込み上げる笑いを堪えて、この星の言葉を出します。
『皆さんを傷つけたくないのです。
 こうやって、ビルを壊すのは、とても心が痛いのです。
 でも、皆さんに分かってもらうためにしょうがなくしています。
 早く、私の気持ちを分かって、ビルから逃げ出してください』

辺りのビル街から彼女を見上げているコビトたちのために、悲しそうな顔をしようとしました。でも、笑みがこぼれてしまいます。麗子先生、”大き目のサングラスをしてきて良かった”と思いました。

先生や、生徒の周りのビルから、一斉にコビトが飛び出してきます。それが、みるみる、通りに満ち溢れます。
少女たちから、「やったー!」と歓声があがりました。

***

通りは、避難を始めたコビトたちでいっぱいです。

着ぐるみに入っている少女達の顔は分かりません。でも、その可愛らしい顔は、小鼻を膨らませ、興奮しているはずです。
少女達は、コビトの群れの上に、足を持ち上げ、次々に踏み潰し始めました。
「たのしぃぃぃ!」
「チョーたのしぃぃー!」
「こっち!こっち!こっちにもっといる!」
そう、声をあげ、次々とコビトを踏み潰します。

キーン!

その時です。上空から、金属的な音がしました。
全員、上空を見上げます。
音はジェット戦闘機から出ていました。数は100機ぐらいで、編隊を組んで近づいています。

麗子先生は、その戦闘機に付いている武器を素早く見ていきます。
”ミサイルと機銃だけね。たいしたことないわ”と思い、足元にいる、子犬ぐらいの大きさの生徒に「大丈夫よ。あなた達でやっつけられるわ。レーザー砲の準備をして」と指示を出します。

五人の生徒は大喜びです。レーザー砲の使用許可が下りたのです。学校で練習をしていたのに、先生から、使用する機会はないかもと言われていたので、少し寂しい気もしていました。やっぱり、練習した成果を試してみたかったのです。

上空の戦闘機のパイロットは、ビル街を踏みしめている巨大な女性と、ビル街の間で人々を踏み潰している五体の怪獣を交互にみやります。
緊急出動で来たのですが、どちらが攻撃対象なのか、分かっていませんでした。

その様子は、麗子先生にも分かりました。
すかさず、麗子先生、彼らの言葉で、『私は正義の味方よ。あなた達の敵はそっちの凶暴な怪獣なの。早くやっつけて!』と、ミニラに扮している生徒を指差します。

パイロット達は、その女性の足元で瓦礫に変わっているビル街を見て一瞬迷います。でも、スタイルの良い女性がウルトラウーマンの格好をしているのです。やはり、その巨大な女性は正義の味方だと思えてきます。
パイロット達は、彼女の起伏のあるボディラインから視線を剥がし、五体の怪獣に向かっていきます。

ミニラは近づいてくる戦闘機を見上げています。
班長のミキが声を上げます。
「発射用意!」

ミニラの口が開きます。口の中にレーザー光線の機械があるのです。
さらに、ミキが声をあげました。
「発射!」

五体のミニラの口の中から、輪状になった光が飛び出ます。それが、輪投げの輪の様に戦闘機に向かっていき、その輪が戦闘機を真二つに切断していきます。

上空の編隊から次々に戦闘機が脱落していきます。残った戦闘機が慌てて、光の輪を回避するために上昇に転じます。でも、その戦闘機に向けて、次々に光の輪が飛んでいき、編隊の数を減らしていきます。

あっと言う間でした。空を飛んでいる戦闘機は一機たりともいなくなってしまいました。
代わりに、空から、脱出に成功したパイロットたちのパラシュートがゆっくりと落ちてきます。

“きれい!桜の花びらみたい”
麗子先生には、それが舞い降りる桜の花びらの様に見えました。

丁度、そのひとつが、顔の前に降りてきます。
サングラスの前で漂うパラシュートは、桜の花びらよりは大きく、その下にはコビトがぶら下がっていました。
近くで見ると、それは、花びらよりも不恰好なものであることが分かります。
“もっと小さければ、桜の花びらに見えるかしら”
麗子先生、自分の能力を使って、目の前に浮くものを縮めてみました。
小さな一枚の花びらのサイズに変わります。まあまあな感じです。ぶら下がっているコビトはさらに小さくなり、一粒のゴマの様になっています。

子供の頃に、桜の花びらを舌で受け止めたことを思い出します。その時の気分のままに舌を前に出します。

ひらひらと落ちるパラシュートを、舌で受け止めます。
でも、直ぐに溶けてしまったのか、それとも、小さすぎるのか、舌の上に何かを乗せた感じがしません。それでも、一応、唾液と一緒に舌の上で溶けてしまったものをゴクリと飲み込みました。

さらに、上から、もうひとつ、パラシュートが降りてきます。そこにぶら下がっているコビトは、先に降りていった同僚の最後を見てしまったらしく、サングラスの前で、少しでも離れようと、両手両足をバタバタさせています。
麗子先生、その姿を見てクスッと笑い、同僚と同じ様に小さくしてあげます。

桜の小さな花びらの様になったパラシュートは、鼻先をかすめます。それに、軽く息を吹き掛けると、ふわりと風に流れます。少し不安定にフラフラと降りていくラシュートは、大きく前に張り出している胸の上に引っかかりました。

ウルトラウーマンの青いスーツにピッタリと包まれた、ボリュームのある胸。その上に、小さな花びらの様な白いパラシュートが止まっています。綺麗な色の組み合わせです。
“アクセサリーになるかしら”と思い、そのパラシュートを摘もうと指を伸ばします。でも、パラシュートは、触れた途端に、薄いセロファンの様に裂けてしまいました。
麗子先生、小さく「あ〜ぁ・・・」と失望の声を出し、そこに残っている残骸を指で弾きました。

***

ビル街では、大騒動になっていました。

ミニラの着ぐるみに装着されているレーザー砲は、あくまでも対空射撃用で、その使用は制限されていました。自分の身体を使ってコビトを退治していくことが生徒達の課題なのですから、武器の使用は認められないことになります。
でも、元々の身長、コビトに取っての120メートルならば、ここらにある10階建てのビルをズカズカと踏みつけられて最高の気分になれるのに、そのビルと同じ、30メートルの身長では物足りません。
少女達は、ビルを次々に赤い火の鳥の模様が入っている青いブーツで踏み潰していく麗子先生が羨ましくてしょうがありませんでした。

生徒たちは、先生を見上げます。先生は、落ちてくるパラシュートに視線を向け、生徒達に注意がいっていませんでした。
チャンスです。彼女達は、レーザー砲で遊べそうだと思いました。

初めはミーでした。近くにあるビルを目掛け、口を開けて「ミュ〜ん♪」と声を出し、光の輪を放出しました。その輪がビルを貫通していきます。さらにミーは、レーザー砲を連射します。次々に貫通していく光の輪で、ビルはガラガラと音を立て崩壊しました。

「ミーちゃん、ずるい!」
直ぐにランが、通りを逃げている人々に向け、光の輪を放ちます。
光の輪が人々を裁断していきます。人々の悲鳴が、ビル街に小さく木霊します。
その横では、ケイも「ミュ〜ん♪」と声を出し、ビルに向けて光の輪を放ち始めました。

ミキとスーは顔を見合わせます。班長のミキと、元来優しい性格のスーは、地上でレーザー砲を使うのは決められたルールに反すると思い、その使用に躊躇しています。
ミキは、麗子先生を見上げます。その先生自体が、当初決めたサイズに従っていないことに気付きました。さらに、通りの人々を、光の輪で切り刻んでいる、仲良しのランを見ます。とても楽しそうでした。

ミキは気持ちを固め、逃げているコビトの集団を追いかけ、その進路を塞ぐ様に通りに立ちました。前方を塞がれたコビトの集団が、ミキの足元で怯えた様に立ち止まります。
ミキはレーザー砲をコントロールしてコビトの身体と同じ大きさの小さな光の輪を、一気に数多く放出しました。まるで、散弾銃が発射されたようです。それが、コビトの集団に襲い掛かります。悲鳴をあげる間もなく、集団は赤っぽい飛沫になって消し飛んでしまいました。

一人残されたスーは、”私もやらなくちゃ!”と決心し、足元にあったレストランに向けて光の輪を放ちました。レストランは真二つに切断され、中にいた5,6人のコビトが慌てて飛び出してきます。
スーは足を上げ、そのコビトを踏み潰します。そして、顔を上げ、レストランの向こう側にあるビルに向け、次の光の輪を放ちました。

麗子先生の目が離れていることを幸いに、五人の生徒達は、ビル街でレーザー砲を放ち続けます。
ビルが次々に崩壊していきます。
通りの逃げる人々が、まとまって切り刻まれていきます。

ビル街に、少女らしい笑い声が響いていきます。

***

最後のパラシュートが落ちてきます。麗子先生、それを縮めて、息で吹き飛ばします。

“それにしても暑いわね”
熱い日差しが相変わらず地表に注いでいます。
麗子先生の身体をピッタリ包み込んでいるウルトラウーマンのボディスーツの中では、その全身がうっすらと汗ばみ始めていました。

“みんなも暑いわよね”と、生徒のことが心配になります。そして、2ブロック離れた通りにいる、子犬の様に小さい生徒達を見下ろし、小さく「あっ!?」と声をあげました。
生徒達が、ビルとコビトに向け、盛んにレーザー砲を放っていたのです。それは、先生と生徒の間で決めたルールに違反することでした。

“注意が必要ね”
彼女達に向けて身体の向きを変えようとします。そのブーツが、生徒たちと同じぐらいの高さの10階建てのビルをパキパキと踏んでいます。
その感触で、彼女自身が、生徒と決めたルールに従わずに、巨大な身体のままで出現したことに気付きました。
出現事態は、ランを助けるために止むを得ないことでした。でも、その直後に、生徒達と決めた身長40メートルに縮むこともできたので、あまりそれは主張できません。
子供と言えども、女の子です。文句を言えば、言い返してきます。
ですから、麗子先生、生徒に注意をするのをやめ、彼女達のルール違反も、“まあ、いいか”と思ってしまいます。

それよりも、生徒達の可愛らしさに目がいきます。耳を澄ますと、少女らしい、「きゃははは」と笑う声もします。
いつも、“とっても良い子”と思っている生徒達です。その彼女達が子犬ぐらいの大きさのミニラの格好で、ちょこまかと通りを動いているのです。どうしたって、その姿に麗子先生は堪らない可愛らしさを感じてしまいます。抱き上げて、『あなたたち!ほんと!可愛いすぎる!』と頬ずりをしたくなってきます。
それに、生徒達は、この熱い日差しの中、着ぐるみを我慢してコビトを退治しています。その健気さも、麗子先生の胸を打ちます。

麗子先生、もう一人、蒸し暑さを耐えている男のことを考えます。そして、ウルトラウーマンのピタッとしたボディスーツの包まれた自分の身体を見下ろします。
視線が、大きく前方に飛び出している胸に向き、さらにそのずっと下のビーナスの丘 - 恥骨の膨らみに止まります。
その膨らみの下側に、ひたすら蒸し暑さに耐え続けている男がいます。彼は過っての恋人であり、そして、今では、彼女の小指よりも小さくなった男なのです。
彼は、そこでの蒸し暑さにグッタリしたのか、ピクリともしていません。

麗子先生、そっと指で、ボディスーツの上から、その小さなものをクリトリスに押し付けます。
苦しいのか、それは、急にバタバタと動き出し、その感触がクリトリスを刺激します。

ふっと笑いが出ます。
“ねぇ、翔太、あなたが私のこと、さっさと諦めていたら・・・こんなことにはならなかったのにね”

そして、そこで苦しげに動く小さなものを感じながら、彼のことを思いだしていきます。

翔太と初めて会ったのは学生時代。同い年の彼は、小柄で可愛らしく、少年らしさが残っていた人でした。それに、当時人気だった若いタレントに似ていて、むしろ、初めは彼女の方が積極的でした。
そして、お互いがお互いをとても大事な人だと思う様になっていきました。
“将来は結婚して、死ぬまでこの人と一緒にいる”ことが自然に思え、二人とも同じ姓なので、「私、結婚しても、私の名前は変わらないのよね」と、彼の耳元で甘く囁いたこともありました。

そして、卒業して社会に出ます。交際範囲も広がり、色々な男と出会う機会も増え、彼を見る目が変わっていきました。少年っぽくて可愛いと思っていた彼。でも、その彼にだんだんと嫌気が差してきます。

“そうね、私の方が悪かったのかしら。でも・・・”

やがて、背が高く、社会的にも成功しそうな『新しい彼』に出会ってしまいました。それでも暫くは、彼、翔太との付き合いを続けましたが、どう見ても翔太の方が見劣りし、その幼さが鼻についてくるのです。そして、それに我慢ができなくなり、翔太に、『好きな人ができたの。ごめんね、もう会えない。』と短いメールを送りました。

それから、彼からのメールと電話の攻撃が始まります。メールは読まずに削除する。彼の携帯の番号を着信拒否に設定する。でも、彼は、公衆電話や、別の携帯を使って電話を掛け続けてきます。うっかり出ると、電話の向こうの言葉は決まっていて、『好きだ』『愛している』『君を想うと夜も眠れない』『僕は死にたい』等々。さらに、自宅近くの駅で待ち伏せ。
いつの間にか、少しは可哀想だと思っていた翔太は、うんざりする存在に変わっていました。

”やっぱり、悪いのは翔太・・・”

最後に、自宅の近くで待ち伏せしていた彼から、ようやく別れの言葉が出ましたが、それでも、いつ連絡が再開されるか気が気ではなく、そのことを思うと気持ちがイラついていました。
ですが、幸いなことに、丁度、クラスの生徒の社会見学の時期に重なっていました。毎週、班毎に生徒を引率し、その星のコビト達をドカドカと踏み潰すことで、そのイラついた気持ちを、少しでも晴らすことができてもいました。

そして、先週、通りを逃げるコビトを踏み潰しながら、『あなた達がいっぱい死んじゃうのは、みんな、翔太のせいなのよ』と足元に向かって声をかけた時、
“コビトを踏み潰す時の快感を高める道具”としての翔太がイメージされ、思わず笑みがこぼれました。今では鬱陶しい存在でしかない翔太の、とても楽しい使い道を思いついたのです。

“翔太には罰が必要なの”

麗子先生、足元のコビトの集団を、“ズン”とブーツで踏み潰してから、恥骨の膨らみに向かって声をかけます。
「ねぇ、翔太。沢山のコビトが私の足元で死んでいるのよ。これは、翔太のせい。あなたが私をイラつかせたからなの・・・」
さらに、別の集団を踏み潰します。
「うふふ・・・ほら、また沢山死んじゃった。そう・・・だから、翔太には罰が必要なのよ。死んでいくコビトのためにね」

股間にいる小さな者の動きは止まっています。だいぶ、弱っているようです。
麗子先生の視線が生徒達をチラッと見ます。
「ねぇ、翔太。小さな子供だって着ぐるみの中でがんばっているのよ。それに比べて、ほんと、翔太は何をやってもだめね」
指で、彼の小さな身体をクリトリスに押し付けます。途端に、苦しさのあまり、小さなものがバタバタと動きます。
「ねぇ、まだ、私のこと愛しているんでしょ?だったら、私を気持ち良くする努力をしてみたらどうなの?舌を使うとか、手を使うとか、色々あるわよね」

股間で小さなものがモゾモゾと動く感じがした後、クリトリスに小さな舌がチロチロと舐めてくる感触がしてきます。
「そう、それで良いのよ。・・・気持ち良いわよ・・・ちょっとだけだけどね・・・うふふ・・」

***

少し離れた所に、麗子先生の身長とほぼ同じ高さの高層ビルがあります。高さもそうですが、横にも大きく、この辺りで最も大きな建造物です。
それが、麗子先生の目に止まりました。壁面が全面ガラス張りで、そこに辺りの光景が映しこまれています。

そこに、小さな男を股間にへばりつかせている自分の姿を映したくなります。
自分自身の“悪さ具合”を見たくなったのです。

足が動き出します。
壁面に映る都会の光景、そこにサングラスをかけたウルトラウーマンの姿が映り、ビルに近づくにつれて、その姿が大きくなっていきます。
やがて、麗子先生の足が止まります。巨大なビルの壁面、一面に彼女自身の姿が映っています。

綺麗な茶色の長い髪。端正な顔の輪郭に映える黒いサングラス。
少し濃い青で、身体の起伏を強調するかの様に、全身をピッタリと覆うボディスーツ。
視線が、そこに映っている自分の胸に向きます。赤のV字が、大きな胸をより強調させています。
さらに、足元のビルを踏みつけて身体を動かし、お尻をビルに向けます。伸縮性のある布地がヒップの丸みをピタッと覆い、何ともセクシーな感じを与えています。
“悪くないわね”

視線を下に移します。でも、自慢のブーツは映っていなくて、代わりに、膝まで隠す高めのビルが並んでいます。

麗子先生、足元を直接見下ろします。ブーツの前には、二十階建て以上のビルが立ち並んでいます。さらに、ビルの谷間には、周囲のビルから逃げ出した人々が、密集する小さな虫の様に移動をしていました。

麗子先生、彼らに向かって、彼らの言葉で話します。
『このブーツ、とっても素敵でしょ。如何にも正義の味方、ウルトラウーマンが履く様なものだと思わない?
 これって、特注で高かったのよ。ねぇ、せっかくだから、あなた達も見てよ』

群集は立ち止まる素振りもなく、少しでも早く彼女の巨体から離れようとし、移動を続けます。
その彼らの上空にブーツを持ち上げます。
『それに、ヒールだって高いし、カッコ良いブーツだと思うでしょ?
 それとも・・・うっふふ・・・このヒールで、私が、サディスティックな女王様みたいに見えるのかしら?』

そのまま、ズン!と足を降ろし、通りと、その両側の高めのビルを踏み抜きます。
降ろしたブーツが、周囲にあったものを含めて瓦礫に変えます。
ブーツの横に舞う埃の中から、直接踏まれずに済んだ人々が現れ、また、逃げ出します。

麗子先生、逆側の足を持ち上げ、その群集の頭上に浮かせます。
『ねぇ、立ち止まって。ちゃんと見てよ』

ズン!
言葉の終わりと同時に、浮かせたブーツを降ろし、群集がいる通りと両側の高いビルを踏み抜きます。
そのまま、麗子先生、足元を見下ろします。降ろした両足が少し開いた形になり、舞っている埃の中、そこに群集が取り残されています。
彼らは、両側を聳えるブーツに挟まれ、逃げることが叶わなくなったものたちです。
『うっふふ、ありがとね、立ち止まってくれて。ねぇ、遠慮しないで、良く見て良いのよ』

さらに、麗子先生、顔を正面の巨大なビルに向けます。足元にあった邪魔なビルがなくなり、ブーツのつま先までがはっきりと映っていました。
膝まであるブーツは濃い青色、脛の所に赤い火の鳥が羽ばたく絵柄、とってもワイルドなデザインです。
そして、瓦礫を踏みしめる両足のブーツの間には怯えきった群衆がいます。
ビルの壁面に映る自分の姿が、とても格好良く見えてきます。

その自分の姿を見つめたまま、股間に手を伸ばし、「ほら、翔太、もっとがんばって」と声をかけ、クリトリスに押し付けます。
彼の舌のチロチロとした動きを感じながら、麗子先生、いやらしい感じで唇を舌で舐めあげ、ブーツを横にゆっくりと滑らせていきます。靴底が地面を擦り、そこで怯える人々を、その下に巻き込んでいきます。

「うっふふ・・・・」
彼女自身の残忍性に笑いが出てしまいます。
しばらく、うっとりと自分の姿に見入っていた麗子先生、思い出したように言葉を放ちました。
「みんなは?」
生徒達に視線を向けると、まだ先ほどの所で、レーザー砲を使って遊びまわっています。
でも、レーザー砲でコビトを大量に退治しているので、彼女達の周りからコビトの数が減っていました。

麗子先生、辺りの無傷のビル街を見下ろします。そこには、まだ沢山のコビトが逃げまわっています。そのコビトたちを、可愛い生徒たちの遊び相手にしてあげたくなります。

先ほどと同じ様に、この星の言葉で辺りに向けて、澄んだ声を発します。
『皆さん、怪獣との戦闘区域をもう少し広げます。
 戦闘に邪魔なビルは、これから破壊させてもらいます。
 さあ、早く、逃げてください!』

地表のコビト達が、彼女のことを、まだ正義の味方だと思っているかどうかは判りません。でも、これは、麗子先生と生徒達の遊びなのです。コビト達との遊びではありません。コビトがどう思っていようと、麗子先生にはまったくどうでも良いことでした。

『さぁ、早く!早く!』
そう話しかけ、ワイルドなデザインのブーツを容赦なくビル街に降ろします。その周囲のビルから、コビト達が飛び出してきます。
そのコビト達に、生徒がいる方を指差し、彼らの言葉で、『あっちよ、あっちに逃げるのよ!』と声をかけ、彼らの直後をブーツでズン!と踏みつけます。
コビトたちは、他に行くこともできないまま、言われた方向に慌てて駆け出していきます。

ビル街の谷間を必死に移動する彼らには、自分達の行く手に、怪獣に扮した巨大な少女がいることがわかりません。ただ、立ち止まると、巨大なブーツが、『早く!逃げるのよ!』と降りてくるので、ひたすら走り続けるしかありません。

麗子先生、意図したとおりに、コビト達が進んでくれるので嬉しくなってしまいます。小さな舌の動きを股間に感じながら、生徒がいる場所を中心に、大きな円を描くようにゆっくりと歩を進め、コビト達を生徒達の方向に追い立てていきます。


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