《 ぶっち〜ん 》



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  朝の電車というものは、どうしていつも混雑しているのだろう。



  萌子は、血圧の上がらない頭で考えていた。


  彼女は高校生になったばかりだったが、身長は180cmを超え、
 通学途中の電車の中でも、頭一つほどすし詰め状態の人垣から飛び出ていた。

  そのため特に息苦しいということはなかったが、
 彼女の豊満な胸にうずもれた脂ぎった顔が我慢できなかった。


  しかも今日は後ろからお尻をなでるような感触が・・・


  ぶっち〜ん


  萌子の頭の中で何かが切れた。


  するとどうだろう、萌子の体がゆっくりと巨大化し始めたのだ。

  まだ新しい夏服のボタンが最初にちぎれ飛んだ。
 それに続くようにブラのホックが。

  足もとでも、靴が膨れ始めた足に耐えきれずに、
 靴底がはがれたかと思うと上側がちぎれ飛んでしまった。

  萌子の頭は天井につかえ、立ち膝の姿勢をとろうとしたが、
 すし詰め状態であったため、その巨大な下肢の下に3人ほどの男を下敷きにしてしまった。


  電車は過密ダイヤにありがちな、のろのろとした速度で進行していた。
 踏み切りで長い間待たされていた人たちは、信じられないものをそこに見ることになった。

  ドア部分の分厚いガラスが砕けたかと思うと、数人の男が落ちてきたのだ。

  それだけではない。
 ドアそのものも変形している。

  まるで内側から膨らんだように変形したドアはやがて耐えきれずに破裂した。
 その破裂したドアから巨大な手が出てきた。

  そしてその車両も中央部が下にたわみ、床下にあった機器から電気的なスパークが
 発生すると、その場に電車は止まってしまった。


  電車は破裂した。


  砕け散り鉄くずの残骸となった電車の中から、立ち上がる巨人がいた。
 全裸のその巨人は、なおも巨大化している。

  やがて巨大化は収まったが、10階建てビルも彼女の膝のあたりでしかなかった。


  巨人は萌子だった。



 「ああ、さっぱりした・・・。」

  かわいらしい声ではあったが、轟くその声量は、すぐ脇のビルのガラスを震わせ、
 そのうちの何枚かは耐えきれずに砕け散った。

  ガラスが砕けたことなど気づかない萌子は、踏み切りで唖然と見上げる群衆の上を跨ぎ越した。
 彼女は全裸であることなど気にしていないようだった。


  彼女はしばらくぼんやりと、そこに立ちすくんでいた。

  ふと足元を見ると、彼女が乗っていた電車は完全にぺしゃんこになっていた。

  彼女は一番前の車両に乗っていたから、後部の車両は直接彼女に潰されなかったが、
 それでも巨大化した萌子の巨体に、ひっくり返されて、それは無残に横転していた。


 
「あ、いけない、遅刻しちゃうわ。」

  萌子はそう言うと、線路沿いに歩き始めた。
 次の駅のすぐ前に彼女の学校がある
 もう電車に乗れそうも無いのだから、このまま歩くしかない。


  彼女は建物など無視し、まるで野原を歩くように2〜3階の家をけ散らしながら歩いた。

 
巨大な彼女の足元では、大勢の人々が逃げ惑っている。

  しかし、萌子は別に気にもしなかった。


  ふと見ると前方の線路に、他の電車が止まっていた。
 異変を知り、急停車したのだろう。

  扉が開き、乗客がわらわらと飛び出している。

  萌子は、電車の中で誰かにお尻をなでられたことを思い出した。
 何を考えたのか、彼女は
線路の上で四つんばいになると、電車に向かって進んだ。

  
彼女の大きな足が触れたビルは、簡単に崩れてしまう。


  いつのまにか、防衛隊のヘリコプターが上空を飛んでいた。


  
そしてついに彼女の巨体は、電車のすぐ上に迫った。










 「私がこのカラダを前に倒したら、この人たちは、いったいどうなるのかな・・・。」




  萌子は玩具のような電車と 逃げ惑う人々を見ながら、ぼんやりとそう考えていた。





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