《 ジュピターの午後 》 4

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 猛烈な熱さが収まる、ゆっくりと深呼吸、あたりの静けさを感じる。
遠くを走る電車の音、車の音が感じられ、それを運ぶ風の音も聞こえる。 固く閉じていた目を静かに開いてみる。

 眼下に広がる世界。 霧がかかった遠くの山脈まで見える。
そこには視界を妨げるものが無い、全てが見渡せていた。

 
さらなる巨大化!!


 やったわ、二段変身成功!

 
今の私の身長は170mを超えている。

 腰までの高さだった校舎は、今はもう足首の高さ。この素晴らしい私を先輩にも見てほしいな。

 あれほど熱かった宇宙パワーは、私の体内で安定している。私には分かっている。もうしばらく待てば、今以上に巨大化することだって可能よ。

 うふっ、すごいわ。もっと大きくなってみようかしら、身長500m? それとも1万m・・・ちょっと想像もできない大きさね。

 本当に玩具の街に来たみたい、そして人間はアリよりも小さい・・・。あまりにも小さい。

 「今の私は無敵ね・・・」 無意識にそう呟く。 ちょっと足を上げただけで、簡単に校舎を踏み壊せる。同級生や先輩達が虫のように潰される・・・。

 校庭はもう畳1畳くらいにしか感じない。足先にかすかな違和感を感じ、足元を見る。地面にサッカーゴールがある。高さ2mはあるはずなのに、今はそれが私のくるぶしにも届かない。私の足に触れてひしゃげている。
 あちゃー、学校の備品、壊しちゃった。

 100倍の身長になった私はゆっくりと屈み、ゴールを親指と人差し指でつまんでみる。手の間にすっぽりと収まるゴールからは重量が感じられない。 まるで針金で作られた玩具のよう。 ちょっと力を入れてみたら摘み上げたサッカーゴールが丸められた糸くずのように小さく押し潰される。

 私の手の中で丸められて鉄の塊になったサッカーゴールを、指でぴんと弾く。 ずっと遠くまで飛び放物線を描きながら自由落下する。「ぐぶシャ」と鈍い破壊音がする。民家の屋根に激突したみたい。 

 え、え?今、私は何をやったの? 正義の味方が、私が守るべき人々が住む家を壊すなんて! 私は慌てて変身を解く、巨大で誇らしい肉体が小さくなっていく。無敵の巨大セーラー戦士が、普通の女の子、野まことに戻っていく。

 普通サイズの身長になった私は、すぐに木陰に隠れる。セーラー戦士の秘密は誰にも知られる訳にはいかないの。ふう、ひと安心。私が潰した民家のことは考えないことにした。事故よ、あれは不幸な事故。

 学校の運動場が、私の巨足に踏まれてぼこぼこになっている。私って本当に大きくて重かったのね。学校中大騒ぎになってる。

 だけど、こんなに強くて美しい私がどうして人目を気にして隠れないといけないの? 先ほど漠然と感じた奇妙な願望が私の頭の中に、まだ存在していた。


 結局、私はその日理由をつけて学校を早退した。今日は記念すべき日、でも少し疲れたわ。いつもより早く寝よう。きっといい夢が見れるから。


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