《 彼を探して 》 その3

               CG画像 June Jukes

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 ふと見ると、地面を他の小人が走っている。柔道着を着ている、部活の途中だったのだろう。 他の小人よりも頭一つ分大きい、かなり体格がよく見える。

 小人を指で摘みあげる。驚いたことに、その柔道部員は、私の指に正拳突きをくらわせてくれた。

 知らない人のために説明しておくと、正拳突き(せいけんづき)とは、空手・拳法など徒手の打撃系格闘技で使われる突き技の一種で、正拳で相手を突く技なの。

 しかも、この小人は180度の螺旋回転を加えながら、自分の拳を私の大きな指に叩きつけた、かなりの達人のようだ。

 もちろん巨大化した私の体は強靭で、そんなコトされても、痛くも痒くもない。 しかし感心する。
私の小指の大きさしかないくせに、なんと勇敢なのか

 そう言えば、私の彼も勇敢だった。彼と同じように勇気のある柔道部員に出会えて、私は少しだけ幸せな気分になる。

 私はじっと小人を見つめる。

 勇気ある小人は叫んでいた。
「このバケモノ、俺を地面に下ろせ!」 とか言っている。

 私はがっかりする。 品格がない、私の彼は女の子が嫌がるような事を決して言わなかった、こんなの彼じゃない。
もう用はない、柔道部員を地面に捨てる。

 やれやれ、彼はいったい何処にいるのかしら?


 地面から他の小人を摘みあげる。
何故か、彼と同じ気配がする。 顔の前に運んで理由が分かる。

 その小人は彼と同じ匂いがした。巨大化した私の五感はとても鋭敏になっている。 ちっぽけな小人の匂いさえ、はっきりと把握できた。

 私達は本当に愛し合っていた、彼は何度も私を抱きしめてくれた。 彼の逞しい胸に抱かれながら、私は彼の匂いを感じていた。

 そして、この男子生徒の匂いは彼に似ていた。
彼とよく似た匂いの男に会えて、私は少しだけ幸せな気分になる。

 匂いをもっと嗅ぎたい、私は小人を鼻先に運び、クンクンする。

 哀れな小人は
悲鳴を上げている。
 命乞いをしていた。
「お願いです、食べないでください」 とか言っている。

 何を言っているのかしら、私は人を食べたりしない、だって、そんなコトしたら彼に嫌われるもの。 ただクンクンして匂いを楽しみたいだけなのに。

 巨大な私の口は、小人から見ればガレージくらいの大きさがあるのだろうか? やっぱり恐ろしいらしい。

 でも臆病で弱虫な男、こんなの私の彼じゃない。
もう用はない、小人を地面に捨てる。

 (続く)

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