― リ ズ ― 〜地獄を秘める復讐の女神〜
         
   ( PART T ) 後編

ザ ポイズン ペン 著
1997

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「リズ、一体全体どうなってるんだ。 装置を使っただろ?」

と、父親が電話口で言った。


リズは血の気が一気に引くのがわかった。



「ど、どういう意味?」

「私の机にあるセンサーが異常反応を示している。
まさかあの装置を使ったじゃないのか?大変な事なんだ!!」

センサー。そうか。リズは自分自身に悪態をついた。

もう少し用心しいれば、機械に何らしかの、警報装置が備わっていることぐらい
分かりそうな事であったのに。

リズは消沈して、ソファに沈み込んだ。

これで終わりだ。 すべて終わりだ。 みんな明るみに出てしまう。

そうすれば私は化け物という烙印を押されてしまうだろう。

もう、死ぬしかない。

「リズ? リズ、聞いてるのか? 今すぐ家に帰るからな!!」

「ちょっと待てよ。」
リズは必死で考えていた。

可能性がない訳じゃない。 自分の知らない機械の機能があるかもしれない。 

「お父さん。ちょっと待ってて。今2階にいるのよ。
ちょっと、下の研究室まで行って、様子を見て来て, 教えるから。」

「くそっ。急いでくれ。」

受話器を置きながら、リズは電話の向こうの声がそういったのを遠くに聞いた。

リズはコンピューターに向き直り、素早くタイプを打ち始めた。

機械の充電は完了していた。

リズは画面の市街地図上で、広範囲にわたる街のはずれ部分を選択して、クリックした。

細かな文字が延々と画面上を流れた。リズは爪を噛んだ。

「リズ?」 

受話器から声が聞こえた。 

「リズ?」

コンピューターの警告音が鳴り、リズは急いで、暗算をした。
リズは
500対1という比率をタイプした。

機械の許容範囲かどうかわからなかったが、とにかくやるしかなかった。
2つ目のウィンドーが画面上に開いた。見覚えのない画面が表示された。

         受信物を消去しますか?(はい・いいえ)

荒廃したコンビニエンスストアをちらっとみてから、リズは、(はい)をクリックした。 
一瞬のフラッシュ光のあと、受信台は空っぽになっていた。

いったいあの建物はどこに行ったのか、
完全にこの世から消えてしまったのか、とリズは思った。

新しい画面が開いた。
 
         解析完了
      比率500:1
         実行しますか?(
はい・いいえ

リズは数分前に電話が切れている事に気付いていた。
考える余地はない。

リズは躊躇わずに(はい)をクリックした。

リズは立ち上がって、受信ベッドのそばに駆け寄った。

一瞬、不安を感じたが、すぐに、自分が隅にある、
小さな、ピカピカの四角い建物を見渡しているのだと気付いた。

リズはそれをもっとよく見ようと近づいた。


    ******************************************


彼は、何かがおかしいと感じていた!

電話を切ってから、オフィスを出ると家に向かって駆け出した。
「行くぞ!」とオフィスの外を通り抜けながら妻に声をかけた。


彼女は興味深げに彼を見上げたが、装置のスイッチを切り、彼に従った。
エレベーターは無限に着かないかのように思われた。

1階に着いたと同時に電源は落ち、彼らは暗闇の中に閉じ込められ、
自力でドアを開ける状態になった。

彼らがエレベーターを出ると、ロビーは既に大混雑であった。

「何てことだ。」

群集が指差している方を見て、彼は息を呑んだ。

あの巨大で、彼らの目の前で無限に大きくなっているものが何なのか、
彼のみがその
正体を知っていた。

大きな山ほどもあろうかと思われる頭が視界に入り、群集がヒステリックに出口をめがけ、
一丸となって逃げ出す前に、彼は妻の手をとって、死に物狂いでそのビルから逃げ出した。


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そのちっぽけな箱は、彼女が片手で持てるほどに小さかった。

その箱というのは勿論、あの研究所が入っているビルの事である。

彼女が近寄ってみると、小さな、多色の点々がビルから出て来て、どんどん膨らんでいった。
その小さな点の正体が分かると、リズは不意に、にやっと笑った。


”人間だ!あれは、生きている、本物の人間なんだ!”

それは、約2mm程で肉眼では人間には見えなかった。

リズは、目の前の小さな集まりの何処かに、
世界で唯一この機械の存在を知ってる人間がいることを知っていた。

ビル全体をパニックに陥れる事になったが、
リズは自分の判断に間違いはなかったと確信した。彼女の安全は確保されたのだ。

リズはもっと近寄り、避難する群衆にあたらないようにと、髪の毛を片手で後ろにやった。
いったい、どれだけの人間がここで働いていたのだろうか、とリズは思った。

多分、
何千人だろう。

鼻先が鋼鉄の壁につくほどにまで近づいて、リズは小さな素早く動く物体に目を凝らした。
リズは研究室の白衣だと思われる白い物体がちらついているのを見付けた。

着ている人間が逃げようと動くのでその動きに反応して白衣が膨らむので目立ったのだ。

リズは声高く笑った。

それによる強風で、小さな固まりは受信台の方へ流された。

それは彼らにとっては突風で、この世の終わりかとも思えるほどに巨大なハリケーンに匹敵した。

リズはぎりぎりまで近づき、こっけいな小さなかたまりを喜んで見ていた。

リズは一つ一つのグループを、まるで、珍しい鳥でも見るかのように観察した。

その時、リズは言葉では説明出来ない奇妙な感覚が込み上げてきた。

やがてそれは、途方も無い満足感を彼女にもたらす、
完全な権力、支配力である事に気付いた。

それはとても心地よい感覚であった。

リズは逃げ惑う群衆の中でも特に大きなグループを暫らく眺めていた。

そして、徐に、口を開けて、舌を出し、冷たい鋼鉄の上をべろりと舐めた。

そして舌を戻した。

今では色んな方向にちりぢりになった群集の真ん中に幅広い舌の跡が出来ていた。


舌の上から動けないでいるちっぽけな人々に集中していると、
微かにぞくぞくと興奮してくる、とリズは思った。

そして、その人々を一息に飲み込んでしまうと、

唾液の中でもがき蠢いていた無数の人々の騒ぎは、一瞬にして消え去ってしまった。

空腹の表情と伴にサディスト的な欲望をもその顔に覗かせながら、
リズはもう一度受け皿へ前屈みになり、
また別のちっぽけな人々の群れを舐め上げた。

彼女の舌の上では微かに人々の呻き声がしていた。
人々が潰れた時に出る、ほんのピリリとした塩気を楽しもうと、
彼女は口腔の上に舌を押し付けた。

そしてそれを飲み込むと、彼女は小さな身震いするような
オーガズムに達していった。


仲間たちがパン屑のように飲み込まれてしまったのを見てしまうと、
逃げていた残りの人々は、逃げ出した時ぐらいに大急ぎで建物へ駆け戻り始めた。

その建物がもはや何の防御にもならない事など関係無かった。


リズは逃げ遅れて建物に入り損ねた人達を指で押さえ付けて楽しんでいた。
彼女の指先は敏感で、自分の指の下で人々が無駄に暴れ狂っているのまで感じた。

人々の叫びなどはあまりにも小さすぎて聞こえる訳が無かったが、
きっと彼らは必死に命乞いをしているに違いない、とリズは思った。

リズが徐々に指を強く押し付けて行くと、ちっぽけな犠牲者達は虫けらの様に潰れていった。

リズは指の腹についた赤いしみを興味深げに眺めると、
それをべろりと舐めとってしまった。

リズは椅子に戻り、腰かけた。

もはや受信台には何の動きもなかったが、比較的安全な小さな建物の中から、
何百という恐怖にかられた眼にじっと見られているのを感じた。

リズは脇にある机の方へ向くと、引き出しの中をひっかき回して、ケーキの箱を見つけ出した。
誰の目にも付かない様に、父がこっそりとケーキを隠していた場所を、知っていたのだ。

リズは悪意のある笑みを浮かべながら箱を開けた。
一口かじると中身のクリームがとろけ出した。

彼女は立ち上がると、また受信台の方に近付いて行った。

 リズは建物に目を留めて、

「出て来て!出て来なさい!何処に隠れ様と無駄よ。」

と皆に聞こえるように言った。

リズが指先で軽く建物の横をはじくと、窓ガラスはことごとく砕け散り、
コンクリートは硬い平地へともろくも崩れ去った。

すると、リズの思っていた通りに、大混乱を起こした何百ものちっぽけな人々が、
狂ったように建物から駆け出して来た。

そしてその上へ、リズのケーキはオフィスビルが直撃するかの様に、人々の群れを襲った。

リズはケーキの端っこで何度も何度も群集を潰してやった。

ケーキを持ち揚げてみると、人々はすっかりいなくなってしまっていた。

しかし、いなくなったと思った人々がスナック菓子の端っこで、
クリーム塗れになりながらも、ドロドロともがいているのを見るとリズは嬉しくなった。

そこには何百という現実の、生きた人々がいるのだ、とリズは思った。

恐怖にかられ、金切り声を上げている何百という小さな人々。

家族や希望、夢、欲望などをリズと同じように持っている人々。


この突然なる残酷な現実は、彼女を一瞬恐怖のどん底に落とし入れた。

そして、彼女の中の壊れた部分が再び止まった。

リズは丸ごとケーキを口に詰め込み目を閉じた。

彼女はケーキを噛み砕きながら「うーーーーん」とうめき声をもらし、
それを飲み込んだ時、この世の物とは思えないほどの
恍惚の表情を示した。

ビルの中にはまだ人がいるはずだ、しかし一時ほどはいないだろう、とリズは思った。


彼女に邪な考えが浮かんだ、そして一枚の紙と空のコップを探し出してきた。

リズは人差し指を使いビルを上から押した。
ビルの最上部分が潰れ、更に逃げ惑う秘書、重役、研究者たちが
慌てて流れるように逃げ出して来た。

そこで彼女は指を使い、受信ベッドの上に横たえた紙の上にその人の群れを掻き寄せた。

次に彼女はその紙を持ち上げ、そしてU字型に折り曲げ人間達をコップに流し入れた。

彼女は小さな人間達をコップの底まで急に落とすことなく、縁に沿って滑り降ろさせようと、
これ以上は出来ないというほどに優しくしたつもりだったが、
それを持ち上げ目を細めて中を覗けば、怪我をさせた人々沢山見る事が出来た。

”それがどうしたのよ。”

とばかりに彼女は肩をすくめグラスを振り、
その中で転ぶ小さな人間達を見てクスクスと笑った。

リズは地面の上にグラスを置き、小さなとらわれの身の者達の為に、
洋服を一枚ずつ脱ぎ始め官能的なストリップショーを演じた。

彼女のパンティーはびしょびしょに濡れ、愛液が太腿に伝い滴り落ちて来た。

風に擦られただけで喘ぎ声を漏らすほどに、彼女の乳首は堅く敏感だった。

かつてない程彼女は興奮していた。

リズは膝を曲げた状態で仰向けに寝た。

唇を噛み一本の指を使い、充血し、ぬるぬるとした
陰唇の肉を擦り上げた。

そして二本の指を使いそれを広く押し広げた。

もう片方の手を使いグラスを顔の位置まで持って行き

“か・い・かーん”

と呟き、その中の喧騒を見ながらコップグラスにキスをした。

そしてそのグラスを体に沿って下へ持って行き、ゆっくりと傾け、熱く濡れ、
充血しきった割れ目の谷間へと人間達を流し込んだ。


彼らはあまりにも小さく彼女は感じることさえも無かった。

指を彼女の中へ出し入れさせながら、彼女自身の中で溺れ息も出来ず彼女の快楽の為に、
もがき苦しむ何百もの人々を想像し、リズは唸り声を上げた。

彼女は一瞬の間、実際に気を失う程の強い終末を迎えた。

そしてそのあとも連続して弾ける花火のように小さなオーガズムが何度も何度も続いた。

彼女の快感は次第に減少して行き、リズは喘ぎながら床の上に寝転り、
その青い点を視界から追い払おうとした。

数分後、彼女は力が回復し、力の抜けた足でなんとか立ち上がった。

リズはその超高層ビルには、まだ素敵な小さなおもちゃが残されているかもしれないと思った。

指で何度も叩き潰した後では、
その建物にはもはや美味しいご馳走達が転がっている気配はなかった。

それでも建物の中には、逃げ出して確実に死ぬよりは、
その場に留まって、生き延びる可能性に賭ける人達が残っていた。

リズは親指で屋根を押すと、そのまま指をまっすぐに下げて行った。

その建物は崩れ去り、煙の舞い上がる廃墟と化した。

彼女は、その瓦礫の下では誰も生き残ることが出来ない様に、
完全に粉々になる迄、親指で瓦礫を押し潰した。


その後でリズは、指の爪で歯に詰まった潰れた数人の死体や衣服を穿り出しながら、
その建物の何処かに彼女の両親がいた可能性にやっと気付いた。

彼女は両親をも潰したのだろうか?

あるいは両親は今頃、自分の胃の中で泳いでいて、

死体に囲まれながら、ゆっくりと、溶けて死んでしまうのだろうかと思った。

両親の死体は、彼女の膣の暗い奥深くのどこかにあるのかも知れない。

そう考えると、彼女は邪悪になり、力が溢れるのを感じた。

そして彼女は血のついた唇を舐めた。


リズはコンピューターの電源を落とすと、床に脱ぎ捨ててある洋服を拾い上げた。

明日には、また学校が始まると思い、リズは目を細めた。

「きっと多くの人達が私にした事を悔やみ、謝って来るんだろね。」

「うん、そうなるに違い無いわ。」


彼女は地下室の電気を消すと、テレビを点けようと階段を上がって行った。


テレビでは、建物が消失したというとても興味深いニュースが報道されている様子を想像し、
薄ら笑みを浮かべるのであった。






To Be Continued.....
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           − END −





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