この小説は、暴力的な内容(小さくされた男性と女性、食べられることに関して)を含んでいます。この種の小説がお好きでなければ、ここから先はお読みにならないでください。

 帝 国

- 序章 -

パイロットはシャトルを基地の芝生の上に降ろしながら、操縦席の位置をそっとズラした。
彼は部隊が扱う「素材」を、売りに出す為に十分な量を採掘するまでの三日間、宇宙空間に滞在させられていた。

長期に及んだディルシアとの戦時に、数々の国々がその国力の殆どを消耗する事態に陥り、長期戦を終焉の局面へと向かわせるべく、敵国を元のカケラまでコンパクトに質量交換を可能にする兵器“量子砲”を艦載した巨大な宇宙船を出撃させるに至った。
それから、さらに数ヶ月が経過していた。

今では、敵は市街根こそぎ区画ごとに”30cm立方の透明な箱型”へ区分けされ製品として売り出されていた。
それが、巨額の軍事費を恩恵に転じる政策であった。

デリケートな積載貨物である事を熟知したパイロットは航行中に製品が破損しない様、細心の注意を払い軟着陸させた。
彼自身も、二人の兄弟と一人の妹を大戦で亡くしていた。

エンジン出力を下げると、彼は武装警備兵が二人配置されている船尾へと戻った。
100個以上の透明な小箱を、その中から逃亡される恐れのある敵自身より遥かに規模の違う弾丸を発射する武器を用いて監視を行う状況はまさに滑稽な光景であった。

パイロットはハッチを降ろし、「お客様」達がクレジットカード持参で業者の
ところへやって来る光景を目の当たりにしていた。
彼は操縦用ヘルメットと手袋を外しながら、装飾包装された透明な箱を警備兵が陳列を行う様子を静観していた。

これも、現在、大量破壊兵器そのものが敵・見方問わず双方で宇宙領域の殆どでの使用を禁止されている状況下において、作戦当初より敵国を爆砕してしまう定めにあるより、これはある意味それよりまだ良いであろうと思った。

ついこの前迄の彼の敵が今や誰だか分らぬ者の手に渡ろうとしている光景を見ていると、暫し誇らしく思える心境になっていた。

箱が完売になるまで1時間と経たなかった。
明日、別件で250万クレジットに相当する収穫を得るため出動する事となるだろう。

豊作の収穫となった一日であった。


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ここからは18歳以下は禁止。
本当に。
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 帝 国 series partT

                   ガーター 著


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第一章 ロブ


ローレンは彼女の手の中の樹脂製の小箱のオーナーである優越感にすっかり興奮していた。
何せ、敵対国であった国の都市が丸ごと、彼女個人の所有物なのである。
そう、そして広告のPRどおり、住民はまさにまだそこで今も生活しているというのだ。

彼女同様、周りの人々もこれまでにない形での資産として注目していた。
彼女の手の中で箱が揺れると、幾千もの小さな何かが小さな街並みの中で蠢く様子を観察してローレンの目は輝いていた。
彼女は姉の待つ車へと戻っていった。
しかし、その間もこの小さな街並みから目を離さずにはいられなかった。

* * * * *

パニックが収まる気配はまるでなかった。
街は既に壊滅に瀕していた。
追い討ちをかける事に、自分達の街が陥落した為、住民の全てが、敵対する何者かの手中にある状況へと陥った。

ロブ・ウェインはマイクを置いた。
新聞社での彼は一度のスクープにも恵まれる事はなかった。
そして今、彼は一大ニュースの真っただ中にいるのだ。

それは、

自分たちの世界の終焉。

彼はめまいが刺す様な感覚に襲われながら収録ボタンを押し続けていた。

「私達に対して敵国が宇宙船を集結させていると最初の発表があった時、私はまさにその現場にいたのです。」

「我々の防御シールドでは全く歯がたたないように見えました。」

「そして、最悪の事態となってしまったのです。水平線が歪み曲がるのを見たのは、ビルの屋上だった・・・。」

レポートの最中でテープ切れになってしまい、彼はマイクを放り投げた。

「くそー。」

バッテリーなどそう長く持たない中で、彼の馬鹿げたリポートにいったい誰が耳を傾けてくれるだろうか。
力も水も既に、底を着いていた。
今となっては相次ぎビルが倒壊していく状況に、人々が狂乱の奔走を繰り返すだけであった。

完全な無法地帯。

彼は前のテーブルに銃を置いた。
町をまるでケーキのように切り…箱の中にしまい始めた、“巨人”という表現でさえ及ばないスケールの広大な人間の顔を彼の脳裏に焼き付いていた。

彼は 今この時を生きているんだ という気高い誇りすら明らかに喪失しまっていたのだ。

人々は彼にとって途方も無く大きく、何をしようとしているのかさえ判断がつかなかった。
今、町のゴトゴト言う音は終わりに近付いていた。
透明の牢獄の中で「空」といえば、今や積み重ねられた町の区画分けで生じた茶色の埃で蔓延していた。

まわりの町の区画は、ぞっとするような窮地で一人ぼっちではないとわからせてくれるだけ快適に思えた。
彼は10階の窓から1キロに満たない場所にある立方体の中で、炎が上がるのが見えた。

狼煙なのか。
もしかしたら。
遠方で彼らの“水平線”は船の座席の列のようで、トルソーはずっと右へ左へ動いていた。

何が起きているのかさえ把握出来なかった。
しかし、また別の力の減少が発生しているのだなと漠然と思った。
巨大な枠は動かすには途方も無い大きであった。

だが、現実が彼の平常心を保っていた。
その瞬間、奴等にとって、彼はあまりに無力な存在にちがいない。
そう考えると彼は背筋が凍った。

船の推進システムが停止し、ロブは初めて静けさを知った。
また戦慄が戻ってきた。
四方からの照明が町を眩しく照らし始めると、辺り一帯のビル内から金切り声がこだました。

窓から外の様子を見ると、彼の町が塞ぎ、次の幾郡かの町が天空にあるのが見え、さらに青ざめた。
破る事の出来ない透明な監獄の中で、全てが監禁されていた。

敵にとってはプラスチックの塊でしかないものを一緒にくっつけた。
箱が玩具の様にひったくられ始めたとき、町中から金切り声が上がった。
彼らの監獄がもうすぐ持っていかれると知っているのは恐ろしい光景だった。

何処につれていかれるのか???

敵はどんな回りくどい作戦を実行しているのか?
博物館にでも置くつもりだというのか?
それとも、実験材料にでもするつもりなのか?

もしくは惑星の大統領自身、彼らを芝刈り機で轢きたいと思っており、
そうすることで彼らは、確実に生きている事を確信出来るというのか?
彼の心は動く準備が出来ていなかった。

町が奪われ、彼の会社のもの全てが壁から落ちるように 
こぼれたものが粉々になった我が惑星は音がかき消されてしまった。
ロブはすべるのを感じると、突然部屋が反対に傾き、彼は窓の方へ後ろにすべっていった。


建物が再び静まると、聞こえてくる音と言えば彼の周りで物を壊す音だけだった。
それほど静寂であった。
 
彼は太陽が昇るのを見た。
 
太陽より大きなものはない。

彼が窓の外をぼーっと見ると、巨大な星の表面が顔を覗かせ、その光が都市を覆っていった。しかし、飛び交う瓦礫によってその光は気付かぬうちに幾度も分断された。
太陽は昇り続け、途方も無い大きさの女性の顔を彼は見ていた。

彼は、その緑色の瞳からは彼女の意図を量ることが出来なかったが、
彼はとても見惚れてしまっていたので、彼女が都市の中心にいるにもかかわらず、彼には、宇宙全体はまだまだ続くであろうと思われた。

女が通り過ぎるのを眺めながら、彼は別の巨人をも見ていた。
広く辺りを見渡すほどに、この巨人どもにとって、それらは単なるおもちゃにすぎないと理解出来た。他の都市のどの区画も、一般市民にゆだねられていた。

彼が黒髪の女性を見るや否や、その黒髪は地面へ投げ出された。
女の声は、彼が収容されている樹脂製の刑務所まで鳴り響いた。
しかし彼は彼女が言ったことの意味が理解できなかった。

「このー!あなた達が夫を殺したのよ。」
 
彼は荒れ狂う恐怖を見た。

恐怖が覆い尽くしたときに、都市のどの区画も激しい衝撃を受けながら、
破滅へと向かっていた。

そして、女は一瞬、うっすらと日焼けした脚をあげたかと思うと、ブーツを履いた足で、建物と内部にいる者をまるでゴミのように踏み潰し、平らにしていった。
 
“ゴミ”だ!
 
何千もの人々がまさにゴミのように死んでいった。

女はむっとした顔で歩き去った。

彼らの新たな「支配者」の顔を見た途端、彼はまた考えることが出来なくなった。

その顔は……笑っていた・・・。

* * * * *

 ロブ・ウェインは顔に手を当て、彼が感じたそのまま、叩きのめされたことを理解した。

外の光景は、まるで天空に広がる宇宙をスクリーンに使い映写される映画のように、途方も無く広大であり、あまりにも急速に変化していった。

外界の光は、日が昇ったかのように彼の頬を照らしたが、太陽は、実際には何光年も離れていた。
やがて、彼は足を止め、多くの天井のタイルや本と一緒に床にへたれこんでしまった。

完全に正気を失っていた為、建物に残る人々の叫びが旋律のハーモニーを奏でているように聞こえた。
もし、神がこの状況を知りながら救いの手を差し伸べないなら、
“お前は死ぬことになる”と、ある男が言っているのを聞いた。

 ロブはその時、この期に及んで逃げる術を考えるなど、
時間の浪費する以上に無駄なことだと悟った。
彼自身、今この段階では自分は正気だと信じていた。
ビルから飛び降り、全てにけりを付けてやる! 
そう決意した。

「すべてを終わらせてやる。」

と彼は言葉にした。

ホールを降りていた秘書はまだ生きていて、彼が言ったことを聞いていただろうか。
いや、恐らく彼女はもう、ダメだろう。
彼は最後の反抗の態度を示そうと自らを奮い立たせた。

「どうせ、奴らは決して俺達を生き存えさせてくれやしないんだ。」

最後の言葉として思い浮かんだのはこの程度だった。
彼は脚を踏みだし、頭を窓の外に突き出した。

その時突然、空が紅くなった。
 
紅だと・・・?

ロブは一瞬、茫然となった。幅が高層ビルの20倍もあろうかと思われる巨大な唇が収容所の透明な壁面に押し付けられた。
そこには口紅の痕跡が残された。

コーヒーカップやナプキンの口紅程度なら可憐だともいえるが、
これほどのスケールとなるとイメージはまるで違う。

ロブは思わず、悲鳴をあげてしまった。

こんな収容所暮らしが始まって以来初めてのことだった。

それは巨大な口だった。

それも、こんなビルなどウエハースを齧るように食べてしまえる程だ。

彼は廊下を走った。

床に倒れたコンピューターやファイルキャビネットを飛び越えながら、
叫んだ。

「もう、お仕舞いだ!この世の終わりなんだ!命が惜しけりゃ、走るんだ!」

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- 続く -





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