マチスンの主題による変奏曲第1番
(八十五センチメートルの頃に)


CLH 作
笛地静恵  訳


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【訳者注記】

 「マチスンの主題による変奏曲第1番」です。
このマチスンは、シュリンキング小説の古典である、『縮みゆく人間』(早川SF文庫)を書いたリチャード・マチスンでしょう。

 作者のCLH氏は、あえて原著者の触れなかった、性的なエピソードに限定して、三本の外伝を書きました。
原著のエピソードの間隙を縫って、ありえたかもしれない、もう一つの『縮みゆく人間』を作り上げていく手腕は見事なものです。
題名は、クラシックの名曲、「マチスの主題による変奏曲」のもじりでしょう。 その意味を汲んで意訳しました。

 第一番は、二分の一の時期の、ルイーズとのシャワー室での、二人の接近遭遇です。
ある朝スコットは、日課のシャワーを浴びていました。
そこに、妻のルイーズが会社に行く前に、髪をシャンプーしたいからと侵入してきます。

 狭いシャワー室の中で、自分の二倍の巨人に変身した妻と二人きりです。
彼は身体を洗ってくれるようにと頼まれます。 重労働ですが、楽しいひとときでもあります。
最近、夫婦関係のない妻が、傷心の夫を慰めるために、思いついた奇策とは……。

 思わず笑みの零れる、暖かい読後感があります。 お楽しみください。
                            (笛地静恵拝)



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 その時のスコットは、シャワーを浴び初めてから、ほんの数分間しか立っていなかった。
棚の上のシャンプーに、爪先を立てて指を伸ばしていた。


 バスルームのドアが開く音がした。
シャワーの湯気で曇ったガラスを透かして、聳えるような青い影が近寄ってきた。
ドアが滑りながら開いた。

 
彼女が頭を覗かせていた。
彼にとっては、手が届かない遥かな高みに、その笑顔は位置していた。 彼を見下ろしていた。

「ごめんなさい。 スコット。 入っていいかしら。 仕事の前にちょっと髪を洗いたいのよ」
 彼を見下ろして、申し訳なさそうな表情をしていた。

 突然の出来事に言葉もなく、彼女を見上げているだけだった。 仕事を辞めてからは、
終わりのないほどに長い時間、シャワーを浴びることを、午前中の日課としていたのだ。

 体の中の毒素を、洗い流せるような感じがしていたからかもしれない。
彼女の不意の侵入は、あの日から今までの長い間に、一度もなかったことなのだ。

 スコットにとって、ルイーズの申し出を断ることは、できることではなかった。
今では、収入のすべてを彼女に頼っているのだ。

 彼女は中を覗き込みながら、シャワー室の外の脱衣所に佇んでいた。
すでに全裸になっていた。

 八十五センチメートルの彼の尺度を基準とすれば、
身長一メートル七十センチの妻は、実に三メートル四十センチ以上の長身の女である。


 彼の二倍の巨人
なのだ。
どうして彼に、否と言うことが出来るだろうか。
そうすれば、要求を拒否することができるとでも言うのだろうか。


「いいとも、ルイーズ」
 彼は、シャワーの正面の壁ぎわに身を寄せた。
それでシャワー室のほとんどを、彼女に明け渡した格好になった。

「ありがとう。 あなた」
 彼女は、シャワー室のなかに、大股に歩み入ってきた。後ろ手に、ドアを滑らせて閉めた。

 彼と、壁の高みに固定された、銀色の円盤のようなシャワーのヘッドの間に、背中を向けて、
割り込んできた。
彼女の身体は、実に効果的に、熱いシャワーの湯の流れを、彼から遮断する
厚い肉の壁となった。

「ふう。 あたたかいわ……」
 女性らしいやさしい声音が、タイルの壁に反響した。
妻の肉体は、シャワー室の空間をほとんど満たしていた。

 彼にとっては、今まで充分に広い、やすらぎの空間であった場所が、
たった一人の女の身体に占領されたのだ。

 その事実に、自分の存在がますます卑小に感じられていた。
小人であることを、痛いほどに感じていた。

 彼の身長は、ちょうど彼女の巨大だが、魅力的な臀部(ヒップは、一メートル九十センチはある)
の高さしかなかった。 もう少し正確に言えば、彼の頭のてっぺんでさえ、彼女の尻の割れ目の先端と、
ちょうど同じ高さにあった。
床と平行に、そこまで彼の頭から架空の点線を引けることだろう。


 彼女は、軽く一回目のシャンプーを始めた。
まず髪の表面の汚れを、それで洗い落とすのだ。 それが、ルイーズのいつもの習慣だった。

 彼としては、それを見守っているより他に、やるべきことは何もなかった。

くびれた腰。 途方もなく幅の広い肩。
そして、首の後の白く美しいうなじ。 長い長い両の腕。


 それらを見上げては、何度も唾を飲み込んでいた。

 水滴の粒が、白い泡を乗せて、いくつもいくつも彼女の広大な肌の上を滑っていく。
身体の縮小が始まってからは、生活の些末な必要から、妻との身体的な接触の機会は、
以前よりもむしろ増大していた。

 素肌を見る機会も、気のせいか、増えたような気がしている。
しかし、肝腎の夫婦の営みについては、むしろ疎遠になっていた。

 ここ数週間、いや、もしかすると、数ヵ月にわたって、それから遠ざかっていたのかもしれない。
いつからの禁欲かも思い出せなかった。

 確かに、彼の身長が娘よりも小さくなってしまってから、ルイーズは彼の前で、
平気でその素肌を、無頓着に晒すようになっているのではあるまいか。 そんな気がした。




 ――彼女という存在の現実感――



 それはおそらく、妻が想像している以上に、彼を圧倒していたのだ。
大きな妻の体が家の中で、自分とは十センチと離れていないところに、いつでも存在しているような、
妙な圧迫感を覚えていた。


 彼女はシャンプーの液を、もう一度、今度はたっぷりと搾り出して、両手に泡立てている。
悠然とした動作で、彼の手の届かない高みにある毛髪の中に、擦り付けるようにしていった。

 シャワー室は、ジャスミンの芳香に満たされた。
それは、ここ何年間というもの、いつも彼女の髪から爽やかに漂っていた匂いだった。
湯気の立つように熱いシャワーが、その
香気をさらに濃厚で豊饒なものとしていた。

 今は、彼女は全身の筋肉の緊張も解いて、ゆっくりとくつろいでいるように見えた。
身体の線は、結婚した当初と比較すれば、明らかに女らしい丸みを増していた。
成熟した女体の線の、チェロの名器のような優雅な張りのある曲線を、保持していた。

 一人の男を興奮させる性的な魅力を、いまなおたっぷりと湛えていた。
ルイーズは、彼と比較すれば、
とてつも無い長身の女になってしまっている。

 しかし、その点は、彼としては、本当は全く減点とならない要素だったのだ。
今でも、彼女に幻惑されていたのである。

 しかも、それと平行して、こうして彼女と一緒にいるときには、小さな身体でいることに、
一種の自己憐愍の交じった、密かな自己満足さえ感じるようになっていた。

 ルイーズの身体は、確実に彼の二倍になっていたが、それと比例して、
彼の興奮も二倍に高まるようだった。

 もちろん彼は、彼女のことを、隅々まで良く知っていた。
けれども、その一方では、ルイーズは、今までとは完全に異なるスケールの肉体の持ち主になっていた。

 日々、彼女の肉体が、全く新しいものとして生まれ変わっていくのを、驚異と感動を持って密かに
観察していたのだ。 しかもなお、それは今までの親しみを、いささかも、そこなわないものだった。

 たとえば、尻のほくろの位置にも、全く変化はなかった。
ルイーズはルイーズだった。


 彼は彼女の肉体の曲線を、愛撫してみたかった。
全身を抱き締めたかった。 ぬくもりを感じたかった。
隅々まで探険し、彼女という未知の大陸を再発見したかった。

 しかし、一方では、今までの自分と比較して、とても小さく惨めになってしまったことを、
骨身に沁みて痛感させられてもいた。

 だから、彼女に対して、自分から積極的な行動に出ることなど、とても考えられなかった。
彼は自分からは、彼女の肌に手の指が偶然に触れることすら、慎重に避け通してきたのだった。
彼女の反応を恐れていたのだ。 しかし、今は、……。


「スコット?」
 彼女は雄大な腰を大きくひねって、顔を彼のいる背後に向けた。
両眼は、白い泡できつく閉じられているままだった。

「あなた。 
足下にいるのなら、私の身体を洗ってくださらない?」

 最初は、「足下」という彼女の言葉の響きに、凍り付くようになっていた。
しばらくは、動くことすら出来なかった。
 しかし、次の瞬間には、その言葉には何らの深い意味も、こめられていないのだということが、
明らかに分かった。

「……あ……ああっ、いいとも……」
 彼はボディ・ソープのボトルを押した。 片手に一杯のジェル状のソープを、たっぷりと押し出した。

 ルイーズは、どんな道具よりも、彼の手を好んでいた。
今さら、それをスポンジなどの他の道具に変えることは、意識しすぎているようで、
余計におかしなことに思えた。 

 それから、唾をごくりと飲み込んでから、両手を彼女の尻の肉に付けた。
掌への、彼女の皮膚の筋肉の感触は、電気が通じたように衝撃的だった。

 固く引き締まって手の平を押し返してくるくせに、同時に指先に吸い付いてくるように、
しっとりと柔らかかった。

 手を一杯に動かして、大きな円を描きながら、臀部の尻肉の球面に、塗り付けていった。
充分なやりがいがあった。 片側だけでも、バスケット・ボールよりも大きかったから。


 彼は次第に、自分が勃起してくるのを下半身に重く感じていた。
両手をルイーズの腰の側面にまで、そのまま滑らせていった。

 ヒップの周囲は、両手の指を腹部の前で合わせられぬ程に大きかっただろう。
前は、後回しにするつもりだった。
今度は両手を、臀部の球面の下側である南半球の部分に集中して、動かしていった。

 尻の頬の肉が、太股の肉と出会う所である。 彼女の好む場所だった。
指先を滑らせていった。 あくまでも何気ない風を装って。
次第に肛門のある裂け目に沿って、下降させていった。 軽い羽毛のようなタッチである。

「ああん」
 彼女が、思わず漏らしたというように、声を上げていた。
単なる驚きの表明ではなかった。尻の筋肉が一瞬だけ、固く引き締まるのを感じた。

 指が、割れ目に痛い程に挟まれていたから。
しかし、それ以上に抵抗しようとする気配は、全くなかった。

 背伸びをしながらも、小さな両手を背中の広大で滑らかな壁面に、登頂させていった。
手が届くかぎりの広い範囲を、充分に撫で擦り洗ってやった。

 限界に達すると、両手を下ろしてギリシアの神殿のエンタシス(中央部が膨らんだ円形の柱)
のような右の太股から、膝までを下に向けて洗っていった。


「神よ。 片脚だけでも、俺と同じぐらいでかいじゃないか。 重量も俺以上にありそうだぞ」
 スコットは、心の中だけでそう叫んでいた。

 実際、片脚だけでも、優に百キログラムは下らない骨と肉の量だったろう。
膝の裏さえ、彼の腰ぐらいの高さにあった。


「とっても……、良い気持ち……」
 女らしいささやくような声で、つぶやいている。
声に励まされるように、上半身を屈めた。

 膝の裏側から、引き締まったふくらはぎ。
そして足首までを、上から下に筋肉を揉み解すようにして、指に力をこめながら洗ってやった。

 ルイーズの足首も、彼の二倍の直径があった。 自分の二の腕の周りぐらいあった。
白い泡の大きな固まりが、肌を滑り落ちてきて足元に溜まってから、排水口に吸い込まれていく。
左脚も、全く同じようにしていった。

 それから、身体の前の方をきれいにするためと、自分に理由を付けて、大胆にも、彼女の両脚の間を
するりとくぐり抜けた。
股潜りの移動は、なんと容易だったことだろう。 凱旋門の下を通る兵士のような気分だった。


 すぐに、身体の正面に来る位置に立っていた。
ここにいると、熱い湯のしぶきが、彼の顔にもやさしく降り注いでくる。

 絡まった陰毛の密林のデルタ地帯が、顔の正面にあった。
目の高さだった。 引き締まった下腹部の縦長の臍が、誘うようにウインクしていた。

 彼女はうっとりとして、長い首を後に反らしている。
湯が、胸壁の筋肉の谷間と成熟した両の乳房の丘を、雨のように打つのに、任せていた。

 彼の視点からは、顔の表情は分からなかった。
ルイーズの顎の骨の尖った三角が作る、白く滑らかな首の皮膚しか見えなかったのだ。

 乳房は、双丘の下のシャワー室の天井の蛍光灯の光で影になった、
物凄い暗い膨らみしか見えなかった。 
乳首が、高く聳えている。


 一つの衝撃が、彼の心を走り抜けた。
「こいつは……、俺が今までの人生で出会った、最大の巨乳じゃないか……」

 あるストリップ小屋に、全米でも有名だった女の持ちものを、兄と二人で見物にいったことがあった。
まだ若い頃だ。あの頃は、彼も健康な一人の男だった。
その時は、尻が胸についているように、異様に見えただけだった。

 しかし、あれですら、頭上のこれと比較すれば、大人と子供の持ち物だった。
まるで問題にならなかった。
彼女のバストは、単純に二倍の計算でも、一メートル八十センチになるのだから。

 しかも、それらはルイーズのものだった。
彼と結婚したときと同じ、美しい牛角形をしていた。

 もう我慢できなかった。
両手を大きく開げると、衝動的に、ルイーズの腰に抱きついていった。


「きゃっ」
 ルイーズは小さく叫んだが、それ以上に拒むような動作は何もしなかった。
彼は、左右の手を、両の太股に回して抱くようにした。

 
二人の女の腰を、同時に抱くようなものだった。

 顔を両脚の間に捩じ込むようにしていった。
目と鼻を、陰毛に押し付けるようにした。 まぶたにちくちくと刺すような感触があった。
外性器の突端に、唇と舌を押しあてた。 湯に溶けた、シャンプーの石鹸の苦い味がした。

「……ああん……」
 再び、遥か頭上からルイーズがあえぐ声が、こもって降ってきた。
舌を窄めて固くすると、出来るかぎりカメレオンのように伸ばした。
大陰唇に沿って、舌を這わせた。

 親指の先端ほどの固い肉の隆起に、舌先が触れた。 クリトリスだった。
そこをさらに強く舐め上げた。
全身は、女の両脚の間に、サンドイッチされている具のような状態になっていた。

 彼女の身体を流れ下ってきた湯が、彼に降り注いだ。
内腿の滑らかな絹のような肌が、頭部から肩までを、両側から挟み付けるように抱いてくれていた。
その感触は、まったく素晴らしいものだった。

「スコット、私、仕事が……」 
 彼女の声が、水音に紛れて遠くから聞こえていた。
しかし、言葉とは裏腹に両脚の二つの塔を、さらに開き気味にしていってくれた。

 さらなる行為への明確な招待状となる動きだった。
それだけでも、自分の仕事が、はるかに容易になるのを感じていた。

 クリトリスに唇で濃厚なキスをした。 乳首であるかのように舌の先で回した。
上下の唇で銜え込んだ。男の亀頭であるかのように、膨張し勃起してくるのだった。

 随分と皮肉な発見であった。
小さいということは、何と便利で、かつ可笑しなものなのだろうか。

 上と下の唇の粘膜で、マッサージしてやった。
舌で周囲に円を描きつつ、強く力を入れて吸い、そしてなぶってやった。

 ルイーズは、以前は、ここへの強すぎる刺激を嫌っていた。 彼の指先から逃げていった。
しかし、今は、歯をやさしく立てることまでしているのに、全く腰を引かなかった。

 むしろ前に突き出してきた。
それに応えて、彼女のあの匂いが、濃密になってきた。 湯とは異なる味がした。
彼は、砂漠で水に飢えた男のように、それを飲み干していった。 音を立てて貪っていった。

「おお、おお、おお」
 ルイーズは、今では声に出して、何を臆する事も無く叫んでいた。



 豊潤な愛液が、性器からなまぬるく溢れだしていた。

 彼は、それが自分の顔から首筋を下り胸に流れるのにまかせていた。

 湯とは異なる、ぬめりがあった。


 異状な圧迫感の変化があった。ちらりと目だけで上を見上げた。
巨大な肉体の上半身が、聳えるように自分の上に暗く覆い被さって来ていたのだった。

 
乳房がずしりと重く眼前に垂れていた。
巨体の途轍もない重量が、彼女の膝を折った下半身に、徐々に下降してきているような状態だった。

 ルイーズの肉体は、彼の両肩に、鉄を担いでいるようにずしんと重くなっていた。
が、それを言うよりは、押し潰されて死んだほうがましだったろう。

 彼女も、白いタイルに両肘をついて、自分の身体をなんとか支えようとしているのだ。
髪の毛の先端から、シャワーの雫が無数の玉になって降り注いでいた。

 彼に体重を掛けていることは、意識もしていないだろう。
ルイーズとしては、ただわずかに腰を押し付けてきているだけなのに、過ぎないのだろう。

ただ身長が二倍ということは、縦、横、高さが二倍ということである。
体積は八倍になっている。体重も、その割合で、増えていることになるだろう。
ルイーズは、五百キログラムの女なのだ。


「やめないで。 スコット」
 彼女は、そう命令していた。
 半トンの女の声は、シャワー室の内部に、轟くばかりだった。

 それで彼も、舌と唇の繊細な作業と、全身の肩から腰、
そして足の、重量揚げという力技の作業の双方を、同時に続行していった。

 彼女の身体は、途方も無く巨大で、かつ重量感にも溢れていたので、
彼は滑りやすいタイルの床の上で、足をとられないように、渾身の力を振り絞っていた。
 ルイーズの息が荒かった。

「おう! おう! おう! おう! おう! おう!」
 絶叫が、壁に反響していた。巨大な音量と激情が、彼の苦闘を支え、励ましていた。


 やがて、彼女の肉体が、緊張し、震え、そして、ついにタイルの床にズズンと崩れ落ちる時がきた。
スコットは、ルイーズが膝を折り曲げて、タイルに尻を付いて座り込んだ、両脚の間に立っていた。

 彼の呼吸は荒かったが、自分が男としてのプライドを完全に回復していることを、股間に悟っていた。

 この女は、俺の二倍のサイズがある。 体重は八倍だ。
それでも俺は、この女を征服したのだ。 彼は、そう、誇らしげに考えていた。
巨人を倒した、騎士の気分だった。

 彼女は今でも俺の妻だ。 俺は、この女を愛している。


「神様……。 スコット……」
 ルイーズも、荒い息をしていた。春の嵐のような吐息だった。

 彼女が床に尻をついているので、二人の目の高さは、同じぐらいの位置にあった。
ルイーズのそれが、彼の目と合った。

 彼女は、両手に彼を抱き締めた。 
巨大な乳房に彼を押し付けた。


「すてきだったわ……」
 彼女は、彼の濡れそぼった頭部の全体に、熱烈なキスをしていった。
長い右手の指を伸ばしてきて、彼の股間に触れた。


「あらあら、ここも、このままじゃ、たいへんなことになってるわね」
 ペニスは、根元から先端まで、巨大な掌に、すっぽりと包まれていた。
シャンプーで泡立つ指の筋肉の力は、途方も無く強かった。 しかし、強すぎはしなかった。

 新婚の頃に、彼が教えた指使いそのままだった。
彼女が掌を彼のコックに、前後に強弱を付けながら、スライドさせるのを眺めながら、深呼吸をしていた。

 ルイーズのつんと上を向いた乳首を、一度は口に含んだが、つるりと跳ねるように唇から逃げていった。
彼女が、乳房を動かしたのだ。 胸の谷間の奥まで顔が滑っていた。
そのまま滑らかな皮膚に、歯を立てていた。


 
彼女は、自由な左の手のひらうえに、彼の尻を乗せると、赤子のように抱き上げた。
なんと、彼女の手は、彼の臀部の両半球を一度に乗せるのに、充分な面積があったのだ。

 スコットのペニスが、さらにその容積を高めた。 ルイーズも敏感にそれを察知していた。
もう一方の指の、すばやいしごくような動きは、止まらなかった。

 
そのまま、彼を乳房の谷間へ挟むようにして、さらに強く抱き締めた。
爆発するような勢いで、彼女の腹部に射精していった。



 しばらくの時が過ぎた。
「……とっても、良いアイデアだったと思うわ……」

 彼女は、そう彼の耳元で、囁いていた。 そして、唇にキスをしてくれた。
彼はまだ、なんとか呼吸を整えて、言葉をしゃべろうと努力していた。重労働だったのだ。

「私……今日、一日は……、とっても、リラックスして……、過ごせると思うわ」
 それから、彼女は顎を、彼の頭上で持ち上げた。 天井を見つめた。


「いけない、出社の時間が……」
 全身を、真っすぐに伸ばすと、立ち上がった。
その長身が再び、シャワー室の中に塔のように聳えた。

 すばやく髪のリンスを済ませた。 狭い室内で、身体の向きを変えた。
大きなお尻の頬の肉が、彼の顔を、愛情をこめた動作で、一回だけポンと押すようにした。

「お先に、ごめんなさい……。 ゆっくり入っていらしてね」
 大股で、シャワー室から出ると、後ろ手で静かにドアを閉めた。


 彼はシャワーの暖かい湯の流れる床に、座っていた。
重い疲労感から、タイルの壁に背中をもたせかけていた。

 膝はまだ笑うように、ガクガクしていた。 立てなかった。
こんな風に「いった」のは、久しぶりだった。 まるでたましいが、身体から飛び出したような気分だった。


 ガラスを透かして、
ルイーズが身体を拭いている、長身の青い影を眺めていた。
テリー・クロスのタオルを肩に掛けている。 彼女は穏やかな調子の曲をハミングしていた。

 彼も好きなブラームスの交響曲第一番の第四楽章のコラール主題だった。
生き生きとした女の喜びを、感じているようのだった。


 しかし、今起こったことは、果たして全部が全部、彼のアイデアから出た事なのだろうか。
スコットは、やっと不審に思い始めていた。


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マチスンの主題による変奏曲第1番 (八十五センチメートルの頃に) (了)




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