!この作品中には過激な性描写、残酷な殺戮描写が多々含まれています。
御趣味に合わない方はお読みにならないことをお勧めします!
                           作者



  《 破壊神  友紀子 》 後編


                                 作  Pz



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機関砲を発砲した装甲車を暫く見つめていた友紀子。
瓦礫となったオフィスビルから脚をゆっくりと街道に向けた。
ズシン、と地面が揺れる。
装甲車はまた機関砲を発砲した。今度は友紀子が近づいてきたために顔を狙うことができなくなり、
足首に向けて発砲したのだった。街を震わせる発砲音。
 射場での実弾射撃ではコンクリート製の的をことごとく破壊する25ミリ機関砲。
しかし、乗員は目を疑った。
機関砲弾がみな、はじき返されているのだ。
東富士の射撃場では、標的となるスクラップの装甲車ですら、800メートルの距離で
穴だらけにしてしまう能力のあるスイス製機関砲だというのに。
巨大では在るが、元は人間であろう女性の肉体にその砲弾は傷を付けることもできない。

友紀子は地響きをたてながらその巨大な体を動かした。街道上を埋め尽くす
乗り捨てられた自動車を踏みつぶしながら。
 セダンタイプの乗用車、2トン積みのトラックが、まとめて四台、瞬時につぶれ、
アスファルトにめり込んでしまった。
街路樹を押し倒し、足の指に引っかかったガードレールは10メートル
ほど引きちぎられる。

倒壊を免れたオフィスビルから命からがら飛び出してきた
若い会社員風の男性。彼は運の悪いことに、友紀子の巨大な足がちょうど降りてくる場所に
走り出してしまったのだった。
 装甲車の乗員はペリスコープ越しにその男性が友紀子の巨大な足に
踏みつぶされてゆく瞬間を直視してしまった。
火災の炎で照らし出された道路上、彼は一瞬にして足の下に姿を消した。
巨大な女性の足に体重がかかり、アスファルトが陥没する瞬間、
足の下から真っ赤な血しぶきがあがった。
装甲車のエンジン音をかき消し、男の絶叫が乗員達にまで聞こえてしまった。

たったの三歩で友紀子は装甲車を股の下に見下ろした。
ゆっくりとかがみ込む友紀子。
大きな乳房がかがみ込むことによりゆさゆさと波打ちながらやや垂れ下がる。
片膝を付き、左足をあげ、股を大きく広げて装甲車の前に友紀子は座り込んだ。
またしても機関砲、同軸機銃まで発砲する装甲車。
今度はなんと、大きく開かれた友紀子の股間、女性の敏感な部分を狙ってきたのだ。
ビクンと一瞬体をふるわせる友紀子。右手で股間をおおい、顔を真っ赤にしてしまう。
 「なんてところを狙うのかしら!」
裸に慣れてきたところなのだが、友紀子は機関砲の直撃を敏感な部分に受けてしまった。
が、そのことに怒りを感じる以前に、装甲車の乗員に大きく開いてしまっていた友紀子の
秘密の部分をじっくりと狙い付け,、見つめられていたであろうことが
たまらなく恥ずかしく思えたのだった。
 ゆっくりと右手で大きなげんこつを作り、そのまま右腕を振り上げた。
そして、凄まじい速度と破壊力を持たせ、げんこつを装甲車に向かって振り下ろしたのだった。

装甲車の近辺に散開していた偵察連隊隊員はただ唖然とその様子を見つめていた。 
大音響と地響き、地面の揺動が一瞬伝わった。
次の瞬間、巻き揚がる埃の中に、地面に車体を半分埋め込んだ装甲車を
彼らは認めた。
 砲塔はつぶれ、車体にうまっていた。タイヤは一瞬で破裂し、
さらに車体の溶接もはがれてしまい、まるで壊れたプラモデルの様に見えた。

凄まじい巨大な女性の腕力。その力を見せつけられた緊急派遣中隊隊員であったが、
装甲車は一度の打撃ですまされなかった。

友紀子は自分の顔を狙って射撃したこの装甲車をどうしても許せなかった。
自分が巨大な怪物となってしまった、とは認識している。
だが、女の顔を狙う兵隊など友紀子は断じて許せなかったのだ。
さらに、自分の大事な部分、もう隠すこともしていなかったが、
そこを狙ってきたことも友紀子の怒りを倍増させた。

装甲がはがれ、半分地面に埋まった装甲車を友紀子は地面から掘り出す。
はがれた装甲板に爪を立て、簡単に装甲車を分解してしまった。
乗員は皆全く動かなかった。砲塔のなかにいた指揮官と砲手はすでに死亡している。
生きているのは操縦手だけだった。

友紀子は左手で装甲車の残骸を持ち上げ顔のそばにもってきた。
操縦席に座ったままのまだ二十歳そこそこの自衛官。
掌で握りつぶせそうな大きさの装甲車に乗っている小指の先ほどの兵隊。
しかし友紀子に慈悲 の心は毛頭なかった。
右の親指とひとさし指でこの若い隊員をつまみあげた。
 装甲車を投げ捨てる友紀子。顔をつままれ手足をばたばたとさせる
若い隊員。
「見なさいよ、私の顔!」
友紀子は目の前に隊員をつまみ上げ、大きな声でそう言った。
「傷が付いちゃった じゃないの!どうしてくれるのよ!」
首をつままれた隊員はすでにあばら骨を折られ、呼吸も難しくなっていたのだが、
友紀子は全く構わなかった。

掌の上に放り出され、隊員はようやく呼吸ができるようになった。だが、肺を傷つけたらしく、
せき込みながら血を吐いてしまう。
改めて若い隊員は友紀子、その巨大な女性の顔を恐怖におびえながら見上げた。
顔には少し赤い斑点がでていた。しかし数分で消えるだろうただの皮膚刺激程度のものだ。
色白でまるい少女のような顔立ち。サラサラとした少し茶色の髪、小さな鼻にピンクの唇。
目を落とせば、普通の人間女性なら、ブラジャーで合うサイズが在るのだろうか、と思える
まあるく張り出した大きな乳房。
 
まるで駅ビルの広告看板のグラビアアイドルみたいだ。可愛い女の子がこんなに大きい。
でも自分はこのままここで死ぬのか。
若い隊員は苦しみながら死を意識した。
 「ねえ、何か言いなさいよ。女の子に鉄砲撃つなんてなんてことするの?」
腰を抜かし、巨大な女性の掌の上で石のように固まる隊員。
雷鳴のような女性の声はビリビリと彼の体を震わす。しかし彼は、戦車帽と送話器を
つけたままだったので鼓膜を破らずにすんだ。
呆然と巨大な女性を見上げる若い自衛官。

甘い女の口臭が隊員の全身を包む。
髪からほんのり漂う洗髪剤の匂い、女性用制汗剤のほのかな匂い。
街ですれ違う若い女性の匂いが、この巨大な女性からもしている。
「怪物ではなく、女なんだ・・・」
恐怖に身をすくめながらも若い操縦手は巨大な女性を見つめた。

掌の上に載せられた隊員を見つめる友紀子。
少年の様な顔立ちをした自衛隊員。屈強な体はつまみ上げたときの感触で分かった。
子供っぽい顔立ちに似合わぬ頑強な体。腕に金色の桜の記章をつけ、山形の線が3本ついている迷
彩服。合成繊維製の弾帯を付け、よく磨かれた戦車靴を履いている。
精悍な男っぽい小さな人間だ。
友紀子は自衛官なぞ、今まで、間近に見たことも無かったのだ。
怒りにまかせ装甲車を破壊したが、少し落ち着いた今は観察してみたい、とも思った。

しかしながら、隊員の童顔とそれに似合わぬ屈強な体付きは友紀子にサディスティックな性衝動をまた
むくむくとわき上がらせていった。
自分を殺そうとした人間。許せない存在であったが、そのまま握りつぶす気にもならなかった。
さっきの高校生のようにかわいがりたかった。
数万人の人々に見られているのは分かっていたが、
友紀子は乳首が堅くなり、また、股間に熱い物を感じてしまった。
顔面から少し力が抜ける。
みだらな欲情が友紀子をまた支配しようとしているのだ。

そのとき、付近の自衛官が一斉に友紀子に向かって銃火器を発砲し始めた。
はっと、我に返る友紀子。
顔を真っ赤にしてしまう。
「あはは、あなた人質にもならないのね。」
少し照れながら、友紀子は隊員を見て笑う。
パパパ、という軽い爆竹のような小銃の発射音。
両方の膝をつき、踵をたててその上にお尻を載せ、自衛隊員を掌に載せている友紀子。
今度は両膝をぴったりと閉じた。
 また大事な部分を撃たれるのが何か恥ずかしかったのだ。
背筋を伸ばし、発砲を続ける自衛官を睨んだ。

25ミリの機関砲はこの巨大女性に傷を付けることすらできなかった。
それなのに、巨大女性のその背後から、さらに左側から近づいてきた、装甲車随伴の
一個分隊は射撃を始めたのだ。
新型の22口径自動小銃。ベルギー製の分隊支援機関銃。レンジャー教育課程を終えたことを
示す胸章を縫いつけた迷彩服をまとうレコンと呼ばれる偵察隊員達。
きびきびとした動作で瓦礫の中を散開、各自位置に着き射撃姿勢をとる。
二方向から12人の隊員は一斉に射撃を始めた。

街の外灯に照らされて小さな兵隊さんが小さな鉄砲を撃っている。
友紀子は何か可愛らしくも思えた。
22口径の小銃弾はあたったところでくすぐったくも無かったのだ。
しかも、友紀子の大きなお尻と大きな乳房を狙っている!
 「あら、ひょっとして私のボディーに興味在るの?」
巨大な乳房をわざと大きく揺らし、友紀子は膝をついたまま
発砲を続ける自衛官にむき直した。

まだ壊されていない5階建ての雑居ビル屋上に、友紀子は若い操縦手を
掌から投げ出した。
さらに屋上にびっしりと並ぶ空調設備、給排水設備を右手で押しのける。
屋上の階段室に通じる鉄扉を右手で軽くたたき壊し、逃げ道をなくすことも忘れなかった。
血を吐きながら転げ落ちる若い操縦手。口元に笑みを浮かべて操縦手を一瞥し、
地上を見下ろす巨大女性。栗色の髪がさらさらとなびいた。
全身をビル屋上のコンクリートに打ち付けられた操縦手は恐怖におびえ、
この美しい、しかし巨大な女性を見つめる。

何かわくわくとする友紀子。
新しいおもちゃ、それも壊してしまっても良いおもちゃを突然手に入れた友紀子。
屈強な兵隊さんをおもちゃにしてしまう・・・。
子供の頃のお人形遊びを思い浮かべた。
だが、大人の女の体、それも自分でも驚くほどのプロポーションを
手に入れたいま、友紀子の欲する人形遊びは少女時代とは
意味合いが違っていた。膝をついたままの友紀子。
膝の下のアスファルトがメリメリと陥没する。むっちりとした友紀子の脚は
街道いっぱいに広がり、信号機を押し倒しながらその向きを変えた。
高さ20メートルはある巨大な太股。幅が40メートルはある巨大なお尻は
友紀子が体を動かすたびにぶるぶると震え、雑居ビルの外壁を付き壊した。

自動小銃を連射する分隊隊員達。 弾倉を交換し、瓦礫を利用し上手く隠れながら発砲する。
友紀子からは小銃の発砲炎がちらちらと光るのがはっきりと分かった。
街の照明に照らし出された友紀子の巨大な体は白く光り輝いている。
 陰影が体と顔につき、その巨大な体を強調する。
自衛官からはいっそう怪物のように見えてしまった。
銃身が焼けないよう断続的に、しかし、部隊での射撃訓練では滅多にやらないような
自動小銃の連続射撃を続ける小銃小隊分隊員達。
手持ちの弾薬を半分も使った分隊隊員。もともと市街戦で有効な自動小銃であったが。
だが、あの巨大な怪獣女に5.56ミリの小銃弾が通用するものか!
しかし、受けた命令どうりに彼らは行動する。破壊されたビル群から巨大な女性に
向かって射撃する彼ら。

彼らが標的としていたのは想像を絶する相手であった。
一撃で装甲車を破壊した腕力!高初速の機関砲をはじき返す強固な肉体。
彼らの任務はこの怪獣女による破壊行為の阻止であったのだであったが。
 作戦を立てる。とにかく、弱そうな部分を狙って大型火器を撃ち込む・・・。
考えられるのはそれだけ・・・。
そのために、各小隊は一台ずつの装甲車に随伴して、この巨大な女性に近づいていったのだ。
 自動小銃、軽機関銃、ドイツ製の大型対戦車ロケット弾。さらに、装甲車に搭載されている
大型の対戦車有線誘導ミサイル。
本来、戦車を相手にする火器ではあるが、今、彼らが頼れる物はこの二つの重火器しかなかった。

巨大な女性は彼らの前に、四つん這いになったままその顔を近づけてきた。
膝をついた状態の長い足は膝がアスファルトを突き破り、5メートルほど沈み込んでいる。
彼ら小銃小隊を意識してだろう、おおきなお尻は空に向かって突き出すようにしている。
そのお尻だけでまだ壊されていない8階建ての雑居ビルと同じおおきさだった。
重力によって、垂れ下がった巨大な乳房は釣り鐘状になり、その高さは六階建ての
マンションとほぼ同一であった。
 多分、巨大女性は意図的にであろう、その大きな乳房を5階建ての
小さなオフィスビルに押し当てた。
重く垂れ下がる二つの巨大な乳房。巨大女性が体を動かすたびにぶるぶると
揺らぐ。
あまり聞いたことのない出版社、怪しげな事務所が入居するそのビルは
巨大な乳房の直撃を受け、瞬時に外壁を崩され、次の瞬間、崩壊してしまう。
またもうもうと埃が舞い上がった。
軽量コンクリートでパネルを組むようにしてたてられている低層ビルは
巨大女性の乳房の圧力に耐えられる物ではなかった。
 少しだけ自分の胸元を見た巨大女性は顔に笑みを浮かべ、小銃分隊を見つめた。
乳房だけでオフィスビルを瞬時に破壊する・・・。
この力の差は克服できるのか?
自衛官は手持ちの弾薬を半分消費しながらその不安を増大させる。

 分隊の通信手が小隊長からの無線を受ける。「分隊は後退せよ。」
分隊長は各班長に手信号で後退を指示する。
射撃を中断し、さっと後退を始める分隊。
ベルギー製の軽機関銃は最期まで発砲を続ける。
が、やがて、機関銃手も一目散に後退した。

笑いながら巨大女性は分隊員を見やった。一斉に兵隊が逃げ去る様を見て、
何かおかしくなってたまらなかった。
街道を四つん這いのまま、分隊を追いかけた。
膝と掌が代わる代わる信号機をちぎりとばし、自動車群を押しつぶしていった。
街の中をはじき飛ばされ、押しつぶされる自動車群の破壊音が響き渡る。
 逃げる分隊長は各自建物の中に飛び込むよう手信号を送る。
地響きをたて、アスファルトを陥没させて迫ってくる巨大女性。
「まーてー!隠れたらつぶしちゃうぞー」
可愛らしい声で不気味な台詞を吐く巨大女性。
巨大な乳房は大きく揺れる。ブルンブルンと波打ち乳房同士がぶつかり合う音が聞こえた。
小さな兵隊をゆっくりと追い回し、巨大な女性は本当に楽しそうな表情をしている。
各分隊員は何時踏み壊されるか分からない雑居ビルに逃げ込む。
彼らは中隊主力の作戦が成功する事を祈った。

ズバン、という爆発のような音。それも一斉に複数箇所から同時に友紀子の耳に入った
一瞬後に、友紀子はお尻と、またしても友紀子の秘密の部分に強い衝撃を感じた。
はっとして首を後ろに向ける。
なんとお尻に大きな火柱が上がり、真っ赤な炎が吹き出していた。さらに
真っ白な煙が友紀子の大きなお尻を覆った。
「きゃー!」
驚いた友紀子。さすがに悲鳴を上げる。
「なんてことすんのよ!」
両手をお尻にあて、上半身を起こす友紀子。
ドイツ製大型対戦車ロケット弾が12発、さらに大型の対戦車ミサイル2発が友紀子のお尻、
その肛門と、女性の秘密の蜜壺めがけて一斉に発射された。
四つん這いで小銃分隊を追いかける友紀子はまたしても恥ずかしい部分を
大きくさらけ出していたのだ。

もっとも弱い部分を集中して攻撃。
戦術の基本であった。揺動で目標の向きを変えることにも成功していた。
まだ、損害は装甲車一台だった。
ここまでは大成功であったのだが。
 友紀子の肉体が普通の女性と一緒で在れば、ここで作戦は終了したことであろう。
「もうゆるさないから!」
立ち上がった友紀子は路地に散開する偵察中隊主力をにらみつけた。
お尻と股間をさする友紀子。
友紀子にしてみれば、秘密の部分に対する攻撃は、エッチの時、ちょっと激しく攻められたのと
変わりないショックだった。
 
「この怪物!」
分かり切ったことを中隊長が叫ぶ。
彼は中隊に後退を命じた。が、逃げ切れるかが不安であった。
巨大な女性は怒りに満ちた表情で彼らをみつめ、大股を開いて立ちすくんでいる。
じっと、中隊隊員がどこに逃げるかを確かめているのだ。
巨大ではあるが、怪獣ではない。知能は普通の人間と同じ。
だが、理性は消し飛んでいた。

装甲車は街道上を切り返して向きを変えようとした。他の隊員は一斉に駆け出す.
駐屯地をでたときに乗ってきた3トン半トラックが停車している出撃発起位置に向かって
走り出したのだ。
だが、トラックに戻ったところでトラックは走り出せるのか?
道路は乗り捨てられた車でいっぱいだった。さらにこの巨大な女性の足跡で大穴のあいている
部分も在ったのだ。渋滞は朝の首都高並だった。
 
三方向に分かれてビル街を逃げてゆく自衛隊員たちを友紀子は目を凝らして見つめていた。
 ゆっくりと歩き出す。小さな雑居ビルをまたぎ越し、地響きをたて、彼ら偵察中隊を追いかける。
たったの4歩で最初の装甲車に追いついた。
中隊の各隊員は友紀子が地響きをたて自分たちの方向に向かってくるのが分かると
建物の中に逃げ込んだ。
装甲車は隠れるところも無く、渋滞する街道を走らねばならなかったのだ。

装甲車の車長は巨大女性の足が大きな行き先案内標識を蹴り飛ばし、道路を塞いでいる自動車を
まるで紙細工のように踏みつぶし道路に埋め込む様を見て「総員下車」を命じた。
装甲車を見捨てるのだ。二本の白い巨大な足が自分たちに向かって
歩いて来るのがはっきりとわかった。
だが、車長の判断は瞬時の差で手遅れとなった。
ハッチを開けて半身を出したとき、巨大な女性はその右足を大きく振り上げていた。
 街の灯りに照らし出され、巨大な建築物のようにそびえ立つ女性の脚。その根本には女性の秘密の
部分がぱっくりと口を開けている。大きな乳房がゆっくりと揺れていた。
恐怖のあまり、乗員達は硬直してしまった。

あわてて車内に逃げ込みハッチを閉めたのと同時に巨大女性の大きな、15階建てオフィスビルと
変わらぬ大きさを持った脚が装甲車めがけて振り下ろされたのだ。
 ドカン、という爆発音、あたりを揺るがす空気の波動、地面は大きく揺れる。
まだ破壊を免れていた周囲のビル群はそのガラスにヒビが入る。
巨大な女性に踏みつぶされ、蹴散らされていた自動車群が一メートルほど跳ね上がった。
建物の中に逃げ込んだ小銃小隊隊員は脚をすくわれ、床に倒れ込んでしまう。
巨大な怪物・・・。
 その怪物の様な女性の足はくるぶしのあたりまで地面に埋まっていた。
もうもうたる砂塵が街頭に照らされ漂う。
装甲車はどうなったか?小隊はおそるおそる窓に近づいた。
 巨大女性の足がゆっくりとあがって行くのが見えた。おそらくはあの穴の中に
バラバラになって埋まっているのだろう。
車両部隊の同期隊員もぺっちゃんこにつぶれているに違いない。
市街地に入ったとき、巨大女性に踏みつぶされ、街道上に張り付くようにして
死んでいた市民達のように。
 隊員は皆そう思った。
事実、巨大女性の大きな足跡の底では装甲が剥がれ、バラバラになった装甲車の残骸が
埋められていた。八メートルはある深さの穴の底、凄まじい圧力で踏みつけられた装甲車は
とても地上に持ち上げるのが不可能だった。
 巨大な女性の攻撃はこれで終わらなかった。

低層ビルが多く連なる街道裏のビル群、友紀子の膝ぐらいの高さのビルが多い。
古い鉄筋コンクリート作りの雑居ビルに友紀子は右足を突き立てる。
一階エントランスの時代物のガラス扉が友紀子の大きな脚の親指で突き破られ、同時に
右の膝が最上階の回転窓を突き破る。
 古いコンクリ製の外壁に張られていたタイルが一斉に剥がれ落ちた。
友紀子はまるでそこにビルなど無いかのごとく、右の脚をゆっくりと前に出す。
ガラガラと埃をあげて崩れ始める雑居ビル。
まだ避難せずにビルの中に残っていた人もいるというのに、
右足に体重をかけ、左足を半壊したビルに突き立てる。
僅かに4秒ほどで雑居ビルは跡形も無く消え去った。

さらに友紀子はこの付近のビル群を徹底的に破壊し始めたのだ。
「女の子に大砲を撃った兵隊さん!でてきなさい!」
友紀子の声が街にとどろく。
半狂乱になってビルから飛び出した小隊隊員が二人。
友紀子は地響きをたててその二人の前に大きな脚をおろした。
目の前に振り下ろされた脚を見て、二名の隊員は腰を抜かしてしまう。
まだ、自動小銃はしっかりと持っていた。
弾倉に弾は28発入れている・・・。だが、それがなんの役にも立たないことは
はっきりしていた。
友紀子は無言でその脚を二人の頭上に持ってゆく。
這いながら道路上を逃げる二人。
 10トン積みのトレーラーよりも大きな足の裏が彼ら二人の真上に翳され、
二人の隊員は悲鳴を上げた。自動小銃を足の裏に向けて乱射する。
巨大な女性はくすぐったくもないのか、その足はゆっくりと二人をとらえ、
彼らを地面に押しつけていった。
アスファルトに強く押しつけられ、二人の隊員は絶望する。

パン、と乾いた銃声がした。友紀子は構わず脚に体重をかける。
また銃声がした。脚のしたでなにか柔らかい物がつぶれる感じがする。
人間を踏みつぶしたときの独特の感触・・・。
友紀子が巨大化してからの僅かな時間に数百回経験した感触・・・。
アスファルトが沈み込み始めたので友紀子は脚をあげてみた。
 人型になっているピンク色の血だまり。ヘルメット、サスペンダーなど兵隊らしい
装備がはっきりと分かる。
友紀子はさっきの銃声がなんだったのか二人の死体を見て気がついた。
小銃の銃口を口にくわえて死んでいるのだ。
 巨大なあしの裏に押さえつけられ、圧死するよりかはいくらか楽な死に方かも
知れない。恐怖と戦った上での選択だったのだろう。

死体をじっと見つめている友紀子。
僅かに残った理性は自分の行為を少しでも正当化しようと勝手な理屈を考えつく。
「私は怪獣なのよ。だってあなた達も私を殺そうとしたじゃないの。」
友紀子の頭の中でそんな台詞がぐるぐると回っていた。
そして、「あなた達が小さくて弱いから・・・こうなるのよ・・・。」
これまた勝手な理屈が友紀子の頭に浮かび上がる。

暫くしてまた友紀子はビル群にむき直し、破壊を続ける。
残った自衛隊偵察隊を、一人残さず捕まえるつもりなのだ。

膝にも届かないオフィスビル群、テナントビル、商用ビルを見下ろし、
友紀子はその足をビルに突き立てた。
瀟洒なガラス張りの貴金属店が入っているビルが瞬時に倒壊する。
さらに、友紀子はビルを蹴り壊しながらビル群の中を歩き出したのだった。
友紀子の白くきれいな脚は代わる代わる前後し、せいぜい10階建てのビル群を
一気に壊させてゆく。
あまりに簡単に崩れてゆくビル群。
小さな悲鳴を上げ、足下を逃げまどう小さな人間達。
友紀子の歩いたあとは、瓦礫の山ができあがり、小さな人間達が
アスファルトに平たく潰され張り付けられてゆく。

 残りの二台の装甲車が乗り捨てられた車両群のなかに停車していた。
友紀子は低層ビルを粉々に蹴り壊しながらその装甲車をつかみあげた。
まるでプラモデルのように片手で軽々と。
機関砲を装備した旋回式の砲塔を簡単にひっこぬき、まだ中に残っていた
乗員を掌の上に放り出した。
空っぽの装甲車を放り出し、さらにもう一台の装甲車を拾い上げる。
掌の上の3人の乗員を暫く見ていた友紀子は、片手で装甲車をつかんだまま
歩き出した。
まだ破壊されていないビル群を選び、またしてもそれらを蹴り壊しながら
無言で歩く。
 
手の上に載せられた装甲車の乗員達はこの凶暴な、しかし美しい巨大な怪物を
為すすべもなく見つめていた。
巨大な乳房はこの美しい怪物が歩くたびにゆさゆさと揺れる。乳首は勃起してるように見えた。
この怪物は破壊と殺戮に性的興奮を感じているのか。
掌の上から、足下をのぞくと、巨大な建築物のような白い脚が、せいぜい10階建ての
オフィスビルに衝突し、ビルにめり込み、考えられない強大な脚力で
ビルを引き裂き、その脚を抜き去るときには
ビルが土砂崩れのように倒壊している。
乳房の間から見える美しいこの巨大な女性は表情を全く変えもせず歩き続ける。

ビル街の隘路を逃げまどう小さな人々は、この巨大な女性の姿を直接見ることが難しかった。
ビル群が死角を作り、只、大音響と地響きがこの巨大な女性の存在位置を
示すばかりであったのだ。
 ビル群の隘路から、地下鉄の駅入り口に殺到する人々は地響きと振動を伴い、
爆発するように崩れてゆくテナントビル、雑居ビルから、高さ60メートルは在ろう、きれいな女性の足が
突き出してくるのを見た。同時に、崩れてゆくビル群の上空に、巨大な乳房を揺らし、
髪を靡かせる美しい巨大女性の上半身が、ぬっと現れるのを認める。
 しかし、その直後、小さな人々は瓦礫に埋もれ、巨大女性に踏みつぶされる恐怖に
さらされることになるのだ。
地響きを上げ、ビル群を粉々に砕き蹴散らし、巨大女性は歩く。
逃げ遅れた小さな人たちを瓦礫ごと踏みつぶしながら。

偵察中隊が展開していた地区のビルをほぼ破壊しつくし、巨大女性は最初に装甲車搭乗員を
屋上におろした雑居ビルにやってきた。
あばら骨を折り、全身に打撲を負った操縦士は火災の炎に照らし出され、白く輝くように見える
巨大女性を見上げる。
 ビルの屋上は彼女の膝ぐらいの高さしかなく、この巨大女性の表情までは見て取れなかった。
掌に何かを載せている。
手がゆっくりと屋上に近づく。バラバラと、同僚隊員が屋上に投げ出された。
さらに、片手に持っている装甲車の砲塔を、この巨大な女性は引き抜き、
車内の乗員を屋上に放りだしたのだ。
 都合7人になった自衛官達は巨大女性を呆然と見上げていた。

両手を腰に当て、少し足を開き、膝下高さの雑居ビルを見下ろす巨大女性。
火災の炎で彼女の体は白く輝くようだ。まるでガスタンクのように丸く張り出した乳房。
その谷間から、女性の顔がはっきりと見えた。
表情を少しも変えず、巨大女性は雑居ビルをまたいだ。
ズシン、と地鳴りをたてて、巨大な足がビルの反対側の狭い道路に降りる。 
7人の自衛官は、次になにが起こるか想像がついた。
そう、この巨大女性はゆっくりと腰を雑居ビルにむかっておろし始めたのだった。

直径四十メートルは在ろうか、雑居ビルよりも遙かに大きいお尻が隊員の上にゆっくりと
降りてきたのだ。
白く、ぷるぷると柔らかそうなお尻ではあるが、空を覆いながらゆっくりと降りてくると
恐怖と絶望が隊員の間にわき起こる。
この女性が普通サイズであった頃は秘密にしていたであろう女性の部分を
大きく彼らにさらけ出し、ゆっくりと押しつける巨大女性。
ぷるぷるとしたお尻と女性の持つ秘密の丘、、足の付け根が作る複雑な肉体の造形。
巨大建築物のようにそびえ立つ巨大な足はビルを簡単に押しつぶすほどの
大きさだ。黒々としたヘアーはまるで本物の林のようだ。
ぱっくりと女性の秘密の丘が口を開く。鮮やかなピンク、ややくすんだ肌色と
複雑な色彩をもったその部分はそれ自体が生き物のように思えた。

腰を抜かし、屋上に力無く横たわる自衛官たちの上に、巨大なお尻はゆっくりとのしかかって
いった。悲鳴と絶叫。彼らの視界は大きなお尻で一杯となる。
屋上の空調設備はメリメリと押しつぶされていった。
7人の自衛官は、まったく無駄ではあるが両腕と両足で、巨大なお尻を押し返そうとしていた。
白く、柔らかな女性のお尻。しかし、彼らの体のサイズからすれば、高層ビルを
7人で持ち上げようとするような物であった。

巨大なお尻は屋上にぴったりとくっついた。
7人の自衛隊員からの悲鳴が消えた。
鉄筋構造の5階建て雑居ビルは友紀子の体重に耐えられる物では無かった。
友紀子のお尻だけで、雑居ビルと変わらぬ大きさがあったのだ。
 ビルのガラスが砕け散り、外壁にヒビがはいり、次の瞬間ビルは一気に
友紀子のお尻の下に消えていった。
粉塵を上げ、粉々になりながら倒壊する雑居ビル。

「あん、やだな。」
いきなり腰掛けていたビルがつぶれ去り、友紀子は思いっきり尻餅をつく。
大股を開いて両手を後ろについてしまう。
ビルの瓦礫と粉塵。火災があたりをなめ尽くす。
その光景は友紀子をますます興奮させていった。
自分を殺そうとした自衛隊員は、すべて踏み殺し、押しつぶしてしまった。
友紀子は自分の巨大な体と力を再認識する。

またしても、不運な小さな人間を友紀子は見つけてしまう。
この破壊の惨禍のなかから、生きてでてきた希有な人間。
だが、友紀子に見つかってしまったことは最大の不幸、
彼の人生はそこでストップしてしまうのだ。
目の端に、チョコチョコト動く人影を見た友紀子。
ゆっくりとその人影に顔を向ける。
初老の会社員風の男性だった。
どことなく、友紀子の会社の上司に似ている。

つぶしてしまわないように、友紀子はそっと、その初老の男性を
つまみ上げた。
両足をぺったりと地面につけて、女の子座りのまま、瓦礫の中に
呆然と立ちつくす男性をつまみ上げ、顔の前に持ってきた。
 友紀子は心臓が一瞬止まるかと思った。
その男性は間違いなく、友紀子の上司、総務課長その人だったのだ。
とうとう、自分がだれだか分かる小さな人間と出会ってしまったのだ。

「あ、あの、島田課長ですか・・・?」
数千人にも上る人々を踏み潰し、数百棟のビルを破壊した巨大な
女性は、小さな初老の男性におずおずと話しかけた。
友紀子に平常な心が戻ったのか。
だが、友紀子は指先につままれ、苦しそうに両手、両足をばたばたと
しているこのコビトに払う敬意どころか、慈悲の心すら持ち合わせていなかった。
「課長、よく私の胸をご覧になっていらっしゃいましたよね。」
そう言うと友紀子はあいている左手で大きな乳房を抱き寄せた。
小さなオフィスビルぐらい在りそうな巨大乳房が、ぐわっと寄せられる。
「私の胸のなかに、入れて差し上げます。」
くすくすと笑いながら友紀子は小さな初老の男性に向かって言う。
島田課長、と呼ばれた小さな男性は胸を友紀子の巨大な指で押しつけられ
苦しくて一言も声を出せなかった。

朝、通院のために病休を取った部下の女性社員。昼過ぎからニュースで
信じられない報道を知り、全社員に自宅に帰るように指示し、彼もまた、
自宅に帰る途中、避難する大群衆に巻き込まれ、自衛隊の反撃の
現場に居合わせてしまったのだ。
豊満な肉体を惜しげもなくさらけ出し、さらにその巨大な美しい肉体で
破壊を繰り返す部下の女の子。
初老の男性会社員、島田は意識が遠のいていった。目の前に近づけられた
自分の体の20倍は在りそうな、佐藤友紀子の巨大な顔。
 
相変わらず、美しい女性らしさを持った顔だった。
薄いピンク色の唇は、島田に皮肉な、不気味な言葉をはくたびに、なまめかしく動く。
六本木の外人ホステスにも滅多にいないくらいの巨大な乳房、垂れ下がることもなく
まあるく挑発的につきだしている美乳だ。
その、男なら思わずむしゃぶりつきたくなりそうな巨乳は、実際巨大だった。
おそらく、乳房だけで5階建てのオフィスビルと同じ大きさが在るだろう。
 ぺったりと地べたにつけた大きなお尻はさらに巨大であった。
雑居ビルを押しつぶし、瓦礫の山すらお尻の外に逃がさなかったのだ。
あの自衛官達はどうなってしまったのか。だが、人の心配より自分の運命を
案じるべきだった。
佐藤友紀子が片腕で寄せあげた 乳房の谷間は深く、暗闇を作っている。

 島田は、佐藤友紀子の目が、もはやいつも会社で見ていた可愛らしい、女性社員の
物では無いことに気がついていた。
何か小動物か、昆虫でも見ているような、優越感に裏打ちされた観察する
人間の目、そんな印象を受けていたのだ。
そして、彼の観察力は、佐藤友紀子の行動を予見してしまう。

乳房の作る深い谷間に彼は放り込まれ、さらに佐藤友紀子はその巨大な
乳房を両手で押し寄せ、彼をもみしだいたのだ。
 「課長、いかがです、気持ちいいですか?私の胸。」
笑いをこらえるよな佐藤友紀子の声が聞こえた。

友紀子は一気に自分の乳房を押し寄せた。何か柔らかい物がつぶれる感触が胸から
伝わる。お腹の上に暖かい物が、ちょっとだけしたたり落ちた気がした。
両手を乳房から離す。ブルン、と両方の乳房が揺れハの字に広がる。
胸の谷間を見下ろす友紀子。
大の字になり、平べったくなってしまった課長の残骸が右の乳房に
張り付いていた。
「あら、死んじゃったの?課長?」
左手の指先で、ぺちゃんこにつぶれた島田の死体をはぎ取る友紀子。
「もう、汚れちゃったわ。サイテー」
指先にへばりつく島田の死体を指ではじき飛ばし、友紀子は毒づく。
友紀子はとうとう会社の上司まで昆虫なみに扱ってしまったのだ。

 友紀子ははっとして、足下を見渡した。
もしかして、同僚の社員が足下にいるのでは、と思ったのだ。
 「課長なんて、虫みたいな物よ、でも、先輩や後輩の女の子にこんな格好で
遭いたくないな・・・。」
今更ながら、自分が裸でいることに恥ずかしさを感じる友紀子。
足下を見つめるが、そこにはつぶれた車の残骸と、鮮やかなピンクの内蔵を
はみ出し、真っ赤な血だまりをつくって横たわる小さな人間の死体が在るだけだった。

「信二が見つかったら、どうしようかしら。」
友紀子はちらっと考えた。やはり欲望のままに乳房か、さらに敏感な
友紀子の秘密の部分でいじりつぶすか・・・。
淫らな性欲が友紀子の感情を狂わせてゆく。
信二を愛し、結婚を夢見ていたのはほんの数時間前だというのに。
「私がなぜこんなに大きくなったのか、それを聞かないといけないな・・。」
友紀子はなぜ、自分がここまで巨大に、さらに強固な肉体を持ったか信二を問いつめたかった。
信二のことを思い出したとき、友紀子は一瞬自分を取り戻していた。
あらためて、あたりを見回す友紀子。
瓦礫の山となったビル群、あちこちで火を噴く踏みつぶされた自動車群。
暗がりの中で、火災の炎に照らされ逃げまどう小さな人々。

「破壊願望・・・。」
また、友紀子は昼に読んだメールの一文を思い出していた。

足をすり寄せ、腰を上げる友紀子。お尻にこびりついたままの
自衛官の圧死死体をパンパンと手で払い、立ち上がった。
「破壊願望って、もしかしてこのことかしら。」
 友紀子は自分が破壊してまわった 街を見下ろした。
チョコチョコと逃げ回る小さな人間を、おもしろ半分で
踏みつぶしてまわった市街。
瓦礫の山となったビル群は、すべて友紀子が蹴り壊した結果だった。
小さな人間は人間ではない。
「人間は私のほう。足下をチョコチョコと逃げ回る小さな生き物は
人間じゃないの。」
勝手な理屈であった。だが、彼女を止めることができる人間は
一人もいない。

友紀子はこれで満足したのか?
否。
友紀子はまたしても、まだ煌々と灯りをともしているビル群、
ヘッドライトを点灯し走り続ける自動車群に向けて歩き出したのだ。

オレンジ色の道路灯に照らし出される高速道路。ヘッドライトを点灯し、
赤いテールランプを灯す自動車群。
高速道路上は時速5キロの渋滞となる。
ドライバーはラジオでこの信じられない事態を聞いていたのだが、
巨大な怪獣と化した女性がもう自分たちの乗っている高速道路に迫ってきたとは
思いもしなかった。高速道の各ランプで、警察が一般道に車を誘導し、
路肩にとめ、歩いてドライバーを避難、誘導し始めていた。

オフィスビルが林立する地区では、地下鉄の駅へ避難する人々が歩を進めている。
交通機関が麻痺し、地下鉄道の軌道上を人々は歩いて郊外へ避難し始めていた。
身長120メートルはある女性が市街地を破壊してまわる・・・。
SF映画にしかあり得なかった事態が、いま、目の前で現実となっている・・・。
警察官の誘導は大勢の人々を手際よく地下鉄の駅から軌道上にすすめ、
郊外への避難を進める。
だが、巨大な女性の歩く速度は彼らの予想を遙かに超えていた。

友紀子は、高架式の高速道路にぎっしりとつまった自動車群を見下ろし、
地響きをたてながら、明るく光り輝くオフィス街に入ってきた。
避難中の人々は、オフィスビルから上半身をぬっと露わして自分たちのことを
冷たく見下ろす巨大女性を認める。
ビルが倒壊する大音響と共に、そこにビルなど有りもしないかのごとく建築物を
蹴り壊しその全身を表す巨大女性。
人々は地下鉄の駅入り口に殺到した。
 だが、地下鉄入り口は、多くの人が一度に入れるほどの広さが在るわけでは無かった。
逃げ切れない人々が街道上にあふれ、乗り捨てられた自動車群の中を郊外に向け
避難し始めたとき、巨大な女性はその高層マンション並の大きさの足を
小さな人々の上に踏み降ろしはじめたのだ。
数百トンはある巨大な女性の脚は、無慈悲に小さな人間達を踏みつぶす。 
言いようのない恐怖が小さな人々を襲う。
避難する人々は街道上にあふれてしまっているのだ。一カ所の地下鉄駅に
彼らは殺到してしまったのだから。


友紀子は街灯に照らされている街道上の避難民を見下ろしていた。
テナントビルを蹴り壊し、ビルの瓦礫を踏みしめながら 、その巨体をゆっくりと街道上に現す。
もうもうたる埃をたて、崩れ去るビル。
人々は悲鳴を上げて逃げまどった。
地響きをたて、街道上に歩き出す友紀子。
小さな人々は自動車の車列に邪魔され、一気に走り出せず将棋倒しになってしまった。
 ゆっくりと、巨大な友紀子の足は4トン積みのトラックを踏みつぶす。
友紀子は足の下に堅いがもろい感触を得ながら、体重を足にかける。
ちいさな、ミニカーのようなトラックだったが、つぶれるときの音響はかなり大きかった。
道路上に将棋倒しとなり、身動きがとれなくなった人々は、この無慈悲で巨大な女性を
恐怖に満ちた目で見つめる。
 
冷たい目つきの巨大な女性。足は踏みつぶしたトラックごとアスファルトにめり込み、
また反対の足をゆっくりと持ち上げ、彼らに向かっておろし始めていたのだ。
友紀子の足が踏み出された。
乗り捨てられた乗用車とワゴン車が、ボッフと音を立て、フロントガラスを砕き飛ばされ  
つぶれ始める。金属のつぶれてゆく音が街に響く。
逃げられない人々の絶叫がそれをかき消す。
巨大な女性の足は無慈悲に人々を踏みつぶしてゆく。
あらゆる絶叫、巨大な女性を呪い、罵声する声、鳴き声。
メリメリ、と骨が砕ける音と共に、絶叫が消える。

 巨大な女性は只の一人も逃がすつもりが無いのか。足下を逃げまどう人々を
次々に踏みつぶしてゆく。
小さな人たちが、この巨大な女性を見上げたとき、その口元は少し笑っているように見えた。
ドシン、ドシンと地響きが続く。街道上は友紀子の足跡ででこぼこになってしまった。
深くくぼんだ足跡の底にはぺしゃんこにつぶれた人たちの死体が
堅いアスファルトにへばりついている。
足下をチョコチョコと、悲鳴を上げながら逃げまどう、小指の先ほどの人間達を
あらかた踏みつぶし、街道上に動く物がなくなった時、巨大女性は悪魔的な
行動をとった。
友紀子は、OL時代にこの地下鉄をよく利用していた。
戦前から開業していた古い地下鉄で、その深度はあまりない事も知っていた。 
足を振り上げ、地下鉄のホームが在ると思われるあたりに踏みおろす。
大音響と共に路面が深くへこむ。
そして、ドーンと大音響がとどろき、付近の地面は陥没した。
地下鉄の駅が落盤により、倒壊してしまったのだ。
むろん、友紀子はそうなることを期待していた。
 
地下鉄の入り口からは、悲鳴を上げて小さな人々が走りでてきた。
無言で友紀子は彼らを見つめる。
 小さな人々は巨大な女性を見上げた。まるで蟻の巣を蹴り壊し遊んでいる子供のようであった。
彼らは自分たちがこの巨人の前で、虫けらになってしまったことを、実感する。
次の瞬間、やはり女児が蟻の群に対して行うとおりの行動を巨大女性はとった。
彼らの上に振りかざされる巨大な女性の足の裏。彼らが最期に見た物。

 街道上は踏み殺された人々のつぶれた遺体で路面がピンク色に染まってしまった。

さらに、友紀子は市街から逃げだそうと、運河にかかる橋に殺到する小さな人間の群を
見つけてしまう。
ようやく、自動車で逃げることを諦めた人々。
警察官が、車を放棄して徒歩で歩くことを強要しているようだ。
首都高速道路上でも、次々に車のライトが消え、ハザードランプを点滅させながら
人影が道路上を歩いてゆくのが見えた。
友紀子が街を破壊しているのとは反対方向へと避難する人々。
 だが、彼らの足の速さは友紀子の40分の一だ。
乗り捨てられた自動車群を踏みつぶしながら、運河に向かう友紀子。
 「あは、速く逃げないと危ないですよ、皆さん・・・」
地響きがとどろき渡り、車が踏みつぶされ、信号機、道路案内標識、渋滞表示板が
蹴り飛ばされてビル群にあたり、また大音響をとどろかせる。
巨大な女性は物の数秒で橋に殺到する小さな人間に追いついてしまったのだ。

またしても将棋倒しとなる人々を跨ぎ、腰に手を当て足下を彼らを見下ろす
友紀子。
じっと小さな人間達を見つめる。小さな人間達も道路上に押し倒されながら友紀子を
見上げた。
暗闇にそびえ立つ巨大な女性。その脚がゆっくりとあがる。
人々の絶叫が街に響き渡った。巨大な女性の意図ははっきりとしている。
道路上に横たわる 自分たちを踏みつぶすつもりだ。
なんの躊躇もなく、その振り上げた足を一気に振り下ろすのだろう。
 彼らの予想は的中する。
頭を抱え、小さくうずくまる人々、仰向けになり、両腕を翳し巨大な足をよけようと
言うのか振り回すひと、何とか足の真下から逃げ出そうと、倒れた人を踏みつけ
走り出す人。

ズシーンと、轟音が響き渡る。埃が舞い上がると同時に、真っ赤な血しぶきもあがった。
 わっと、小さな人々は橋に殺到する。とてもこの巨大女性の足下をかいくぐって
逃げ出す事などできそうも無かった。さらに、多くの人が河に飛び込む。
逃げまどう小さな人間を跨ぎ、友紀子は彼らを見下ろした。
そして友紀子は、またゆっくりと腰を彼らの上におろしはじめたのだった。
大きなお尻が逃げ場を失った人々の上に迫る。巨大な脛が人々を蹴り飛ばし、
太股が逃げまどう人々を押しつぶしていった。
 
女性のお尻が地面にぺったりとくっつく。丸く、白いお尻の下からは暫く
絶叫が続いていたが、女性が体重をお尻に載せるとそれも途絶えた。
アーチ式の鉄橋にゆっくりと手をかける巨大女性。
両手でつかんだ橋梁をグイッと自分の体に向けてひきよせた。
轟音と共に橋は垂直にめくれあがった。橋の上に殺到していた人々は
みな橋のたもと、女性の太股の間に転がり落ちてしまった。
多くの人は全身打撲で息絶えてしまう。しかし辛くも生き残った人々は
巨大な太股の壁の間に横たわりこれから始まる残酷な仕打ちを只待っていた。

 巨大な女性は橋の残骸を放り出した。河に凄まじい水しぶきが上がり橋の
残骸は姿を消す。
太股の間に転げ込んできた数百人の小さな人間を巨大な女性は見つめる。
巨大女性はおもむろに腰を上げ、膝立ちの姿勢をとった。
小さな人々はそびえ立つ巨大女性の肉体の壁を見上げ、悲鳴を上げる。
巨大な乳房の間から見える女性の顔。冷たい目つきが恐怖を倍加させる。
そして、夜空を覆う巨大女性のお尻が、一気に彼らに向かって降りてきたのだ。
ドシン、という音。

 複雑な形をした女性のお尻と足の付け根は、僅かな空間を作りだしている。
幸運な人はその空間に入り込み、このときは助かった。
だが、女性の肉体の壁とコンクリートとの間に挟み込まれ、呼吸すらできない。
さらに、この巨大女性はお尻を前後に動かし始めたのだった。
アスファルトが陥没し、僅かに生き残った人もここで絶命してしまう。
自分の顔が少し赤らみ、目がトローンとしてしまっていることに
巨大な女性は気がつかなかった。
友紀子はまたしても性的な欲求を破壊と殺戮で満たしてしまった。

友紀子の凄まじい破壊は深夜まで続いた。
街は破壊され、火災はより一層激しくなり、市街地を焼き尽くす。
 友紀子は少し疲れを感じ始めてきた。
欲望のままに街を破壊してまわったが、灯りを灯し、煌々と輝く夜の街は
遙か地平線まで続いていた。
夢中になって、足下の小さな人々を踏みつぶし、建物を蹴り壊してきた友紀子。
 オフィス街の真ん中で、座り込んでしまう。
「ちょっとつかれたな・・・。」
飲み物もなければ、食べる物もない。
日が昇れば、体を陽からよける場所もない。今更ながら、友紀子は
巨大になった自分の体を見つめ直す。
「私、まだ人間なのよね・・・。」
地下の水道管が切れたのだろう、路面に水柱があがっていた。
友紀子はビルの給水タンクをむしり取り、小さなコップ変わりにして、
その水を飲んだ。甘く感じた。

 気の向くままに小さな人間を踏みつぶし、街を破壊してまわった自分。
大きなお尻で10階建てオフィスビルを押しつぶし、座り込む友紀子はここで初めて
今の自分と、これから先のことを思いやった。
「私、この先どうなるのかしら。自衛隊に殺されちゃうのかな・・・。」
お尻の下で倒壊したビルの残骸から、埃だらけになったスーツ姿の男性が転げ出す。
膝を抱え、その小さな男性を見つめる友紀子。
腰を抜かし、路上にへたり込む男性。友紀子は右手の人差し指でその男性を
そっとつついた。
 凄まじい圧力が男性にかかる。つぶすつもりは無かったのだろうが、友紀子の指の
力は男性の骨を砕くのには十分な力であった。
悲鳴を上げる小さな男性。
道路上に仰向けになり、引きつった表情で友紀子をみあげ、両足をばたばたとさせている。
友紀子は指に少しだけ力を入れた。
ブチャッ、っと小さな音が聞こえたような気がした。
「つぶれちゃった・・・。」
まるで虫ケラのように小さな人間を指先で潰してしまった友紀子。
自分がこの世界には住めないことを本能的に感じとっているのだ。
 言いようのない不安が、友紀子を襲う。
自衛隊の攻撃など、物ともしなかった強靱な肉体は、友紀子に生存の可能性を
約束する物だった。
 だが、孤独であること。これが友紀子の不安を徐々に大きくしていった。
「このまま、こんな体のまま一生過ごすのかしら。日本中の街を壊してまわって・・・。」
燃えさかる炎が街を飲み込む。
その炎を見つめ、友紀子はうとうとと眠り始めた。


「ひどいもんだな・・・。」
瓦礫の山となったオフィスビル街。火災の炎と煙があたりを覆う。
スーツ姿の若い男は、瓦礫と、巨大な女性の足跡でできた大きな穴をよけて歩く。
「生きてる人間は一人もいないか。」
幅八メートル、長さ十五メートルもの足跡、二メートルは道路を陥没させている。
 彼はその陥没した足跡の底をのぞいた。
タクシーだったと思われる乗用車が平べったく潰されてアスファルトに埋め込まれている。
さらに、真っ赤な血の溜まりをつくってピンク色の平べったい肉のかたまりとなってしまった
人間の死体。
黒い革靴が、その死体が男性であったことを示していた。
さらに、別の穴の底には男女数人分と思われる圧死死体・・・もはや死体というより
人間の煎餅か干物のような・・・を見つける。
彼は街を見渡した。
 炎と煙、無傷で建っているビルは500メートル四方見渡しても見かけなかった。
「予想以上だよ、友紀子・・・。」
木村信二はつぶやいた。

膝を抱え、うとうととしている友紀子。
どこからか、自分の名前を呼ぶ声がしている。が、体が動かない。
「あーん、ちょっと待って!いま、そっちに行くから。」
夢の中で友紀子を呼ぶ声に答える。
「そう、ではこっちにおいで、ゆきちゃん。」
聞き覚えのある声だ。この声は信二の声ではないか。
「信二!どこにいるの!」
はっと目が覚める友紀子。
燃えさかる市街地と、瓦礫の山。
夜間に飛び回るヘリコプターの群。
目を落としたとき、友紀子は自分の腰すぐ脇に小さな人間を見つけた。
「まだ私に近寄ってくるなんて、馬鹿かしら。このオチビさん。」
友紀子の体の近くに寄ってきた小さな人間を、友紀子はことごとく
踏みつぶし、指で押しつぶしてきた。
友紀子は彼女の体をなめるように見上げるコビトの視線がたまらなくいやだったのだ。
しかし、当の小さな人間はこの高層ビルのような巨大女性に対し、性的な欲求を交えた
視線でなど、見つめる余裕は無かった。
そんなことにお構いなく、友紀子は小さな人間を踏みつぶし、握りつぶしてきた。

そっと腕を伸ばし、そのコビトをつまみ上げようとした、そのとき、
そのコビトが木村信二であったことに友紀子は気がついた。
「信二!」
大声で叫ぶ友紀子。
道路にかかるオービス装置を蹴り飛ばし、小さな雑居ビルを肘の一撃で倒壊させ、
大きな乳房をぶるぶると震わせ、友紀子は四つん這いになる。
 
信二から見れば自分の住んでいる5階建てマンションくらいの大きさの友紀子の顔が
ぐっと近づいてきた。
巨大な乳房は路上に乗り捨てられている4WDクロカン車両をその乳首だけで
半壊させている。
信二はその迫力に少しとまどった。

「あなた、何者なの?私になにをしたの?」
友紀子は胸の動悸が早くなっていることに気がつく。
頭に血が上り、目がクラクラとする。
「興奮して、信二を潰しちゃったらだめ・・・!」
自分に言い聞かせる友紀子。
とにかく、信二が何かを知っているのは間違いない。
今更元の生活には戻れないこともよく分かっていた。
信二が立っているすぐ脇に乗り捨てられているステーションワゴンを
友紀子は怒りにまかせて叩きつぶした。
腕を大きく振り上げたが、信二が近くにいることを思い、
ゆっくりとおろす。
それでもズシーン、と大きな音がした。
もうもうと埃が舞い上がる。ワゴン車は鉄板のように平たくつぶれてしまった。
 小さな信二は相変わらず笑顔を浮かべたまま友紀子を見つめる。

涙を浮かべ、小さな信二をにらみつける友紀子。
いつも通りの笑顔で友紀子を見上げ、信二は言う。
「僕たちの家においで!」
キョトンとする友紀子。
「家?なんのこと?あなたのマンションのこと?私が踏みつぶしてなければ
良いんだけど!」
言い終わらない内に紫色の強い閃光が友紀子の体を覆った。
「きゃ、なに?なにしたの?!」
友紀子が叫んだ。
 友紀子の意識が急速に遠のいていく。
浅い眠りにつく寸前のような心地よさを感じて友紀子の全身の力が抜けていった。



河のせせらぎだろうか。
心地よい水の音が聞こえる。何か、甘い、いい匂いがする・・・。

はっと、友紀子は上半身を起こす。
あたりを見渡し、驚きの声を上げる。
見たこともない部屋、それも洋室とも和室ともつかない、
石と木で作られた部屋の中に寝そべっていたのだ。
天井全体が明るくひかり、ベッドのような長方形の石段の上には
柔らかくふかふかとした白い布が敷かれていた。
友紀子は思わずその石段の上に横たわる。
 また深い眠りに落ちそうになったのだ。
が、先ほどからのいい匂いが気に掛かった。
さらに、体全体が汗でべとべとだ。
「シャワー在ると良いな・・・。」
匂いのする方を見ると、そこには四角い金属製の箱と、
木製の皿が在った。
プルーンのようなゼリー状の物が箱には入っており、
皿にはコンソメスープのような液体が入っている。
あっという間に友紀子はそれを平らげる。
熱いコーヒーが欲しいところだったが、変わりに冷たいお茶のような
液体が石のカップに注いであった。
友紀子の空腹はなんとか満たされた。

ふと見ると、部屋の一角に浴室らしき物が在るでは無いか。
 その浴室に近づき、中をのぞき込むと、そこに在る石造りの湯船は
暖かなお湯で一杯に満たされていた。大きな石の簀の子状の物は
まるで山奥の秘湯の物のようだった。
体を流し、湯船につかる友紀子。
「はー。これって、夢かしら・・・。今日は悪い夢見続けてるのかしら・・・。」
 だが、友紀子は湯船のお湯に波頭が立っているのに気がつく。
そして体を動かすたびにお湯が白く波立っていることにも。
「まるで小さな湖みたい。でもこれって・・・。」
友紀子はその先をなにも考えないことにした。
 
湯船からあがり、髪を洗い、体を洗う。石鹸のような固形物、洗髪剤のような液体が
小さな器に入っている。さらに、手ぬぐいのような布も。
お湯で泡立てると、それはかいだこともない、良い匂いをたてる。
体を洗い、そっと女性の部分を洗おうとしたとき、友紀子はその部分に何か異物感を感じた。
「?」
指でその異物をつまみ出す。
その指先には、小さな人間の上半身がくっついていた。
泡にまみれ、うつろな目つきの死に顔がはっきりと分かった。
駅を破壊したとき、おもちゃにしたあの高校生。
友紀子の顔が青くなる・・・。
「夢・・・、じゃなかったんだ、やっぱり。」

友紀子は秘密の部分をごしごし洗い、湯船に飛び込む。
体を拭い、髪を乾かすと、柔らかなベッドに横たわった。
「ここどこ・・・。信二、どこに行っちゃったの・・・。」
自分の体の大きさはやはり、百メートルを越えている。
今、彼が現れたとして、信二は小指の先ほどの大きさなのだ。
巨大な怪物になった自分・・・。
涙があふれ出す友紀子。結婚と当たり前な家庭を約束してくれる筈の
信二はやはり小さな人間・・・。
友紀子が数千人と踏みつぶしてきた虫のように小さな人間。
 平然と人々を踏みつぶし、建物を破壊してまわった数時間を友紀子は
思い返した。
「なんてことしちゃったのかしら・・・。でも、みんなは私を戦車で殺そうとしたじゃない。」
自分を必死で弁護する事しかまわらない頭。
ベッドの上、体を横にして、声を上げて泣き出した。
どうしようもない孤独感が友紀子を不安にし、また恐怖をも引き連れてきたのだ。

数十分も経ったろうか。
「泣き虫ゆきこ!」
ベッドの下から小さな声がした。
がばっと、半身を起こす友紀子。
「シンジ!シンジでしょ!」
喜びと怒りが混じった複雑な感情はそのまま友紀子の表情に表れている。
ベッドから足をおろし、床を見渡した。
信二がまた笑いながら床に立っていた。
さっきと全く同じ服装で。にこにこ笑いながら。
 ベッドから飛び降り、床に四つん這いになる友紀子。
信二を顔の真下にして、にらみつける。
涙が乾ききらない顔を、ぐっと信二に近づける。
「もう逃がさないわよ!あなた、私の体になにしたの!ここはどこなの!」
 
 両耳を手で塞ぎ、友紀子の大音声から鼓膜を守る信二。
友紀子はさらにその顔を信二に近づける。肩まである少しだけ染めた髪の毛が
ばさっと、床に着く。風圧で信二が少し後ずさりした。
「ちゃんと説明してよね!あなたがこうしたんでしょ!」
 信二は友紀子の顔を見上げる。きれいなピンク色の唇がきゅうっと曲がっていた。
「そんなに怒らないで。こんなに可愛いユキなのに。」
 いつも通りに冷静にかわされ、友紀子は少し拍子抜けする。
そっと友紀子の顎に手を添える信二。
友紀子はさらに顔を下げ、唇を信二の前に持っていった。
熱い友紀子の吐息が信二の全身を覆う。

友紀子の唇が少しとがり、彼女が目を閉じてるのに信二は気がつく。
そっと友紀子の唇にキッスをする信二。
友紀子の目からまた涙が流れる。
唇を信二の前につきだし、信二の小さな唇の熱い感触を確かめる友紀子。
暫くそのままの形で動かなかった。

しばらくして、上半身を起こし、両腕をたてて友紀子は暫く信二を見下ろした。
巨大な乳房がゆさゆさと揺れる。
友紀子は意識的に揺らしているのだろう。

信二自身、これほどまでに巨大な女性を見るのは初めてだった。
さらに、この巨大な女性はほんの数日前に自分の腕の中に抱かれていた女だ。
目の前で、高層マンションなみの大きさの足で床を踏みしめ、
地鳴りをあげて歩く美しい彼女。
 足を床にぺったりと付け、両腕で上半身を起こしている真っ白な高層建築物なみに
大きな美しい女性。まるでガスタンクのような巨大な乳房が威圧的に突き出ている。
その乳房の山を見上げれば、信二は自分の大きさが昆虫並だということに気がつかされる。
子供のように甘えた目つきで信二を見下ろす友紀子。
エッチに誘う時の友紀子の表情と、すぐに判断つける信二。
予想どうり、友紀子の大きな腕がゆっくりと動き、大木のような指が信二を
つまみ上げた。
 細心の注意を払い、小さな信二をそっと持ち上げる友紀子。彼女は、自分の爪すら、
小さな人間には凶悪な武器になることを自衛隊の装甲車をバラバラに分解したときに学んでいた。
そっと、掌の上に信二を載せる。 
床から立ち上がる友紀子。一気に百メートルの高さに持ち上げられた信二は
生きた心地もしない。高速エレベーターでさえ、こんなに早くは動かないのだ。

信二は彼の種族が目覚めさせた神の力を骨身に感じたのだった。
街ごと踏みつぶされていった人々に比べ、優しく愛に包まれた形で。

どすん、と友紀子がベットに座り込む。両足を開き、信二を載せた掌を
そっと股間に持ってゆく。
「私の体をこんなにした訳話してくれないと、ここで潰しちゃうぞ!」
語尾を上げる若い女の子特有の話し方。今年25才とはいえ、彼女はまだ、自分の事を
女の子と思っているらしい。
 
友紀子は信二をそっと女性の秘密の部分に押し当てた。
ワイヤーロープ並に堅いヘアーをかき分け、友紀子の秘密の部分にそっと
キスする信二。
 機関砲弾ですら、はじき返す友紀子の強固な肉体だが、愛する小さな男性の
優しいキッスには敏感に反応した。
「あん!・・・。」声を上げる友紀子。
両足を広げたまま、掌のうえの信二が落っこちないように注意する。
信二は懸命に友紀子の大きな肉のフリルをかき分けようとしたが、
小山のような友紀子の女性の丘部分はぴくりとも動かない。
友紀子の左手が突如現れ、秘密の丘をそっと押し広げる。
鮮やかなピンクの蜜壺が信二の目の前に現れた。
友紀子の巨大な指は友紀子の巨大な花芯を信二の目の前でいじくる。
さらに、信二は友紀子の蜜壺のなかに押し込まれてしまったのだ。
 
「スーツがだめになったな・・・。」
信二はそう思った。
大きな友紀子のあえぎ声が聞こえてきた。
5メートルはある友紀子の女性のクレパスに押し込まれ、透明な液体で
全身を覆われ、信二は生きた心地もしない。
だが、呼吸の続く限り信二は友紀子の肉の壁をひっかいてまわった。
友紀子のあえぎがそのたびに大きくなる。
上半身を起こしたままの友紀子は乳房の谷間から
トロンとした目つきで信二を見下ろしていた。
 信二の身長の二倍以上はある友紀子の指。
その動きが早くなってきた。グチャグチャと、何ともいやらしい音が
次第に大きくなった。

数千人の小さな人間を踏みつぶし、市街地を廃墟にしてしまった巨大な女性は
ここでも絶頂を迎えてしまった。
友紀子は、女性の深いクレパスから愛液を30メートルほど吹き上げてしまい、果ててしまった。
信二はその愛液の直撃を受け、掌に倒れ込んだ。
そっと、信二の濡れた体を友紀子は拭ってやった。


「ねえ、あなた何者なの?これって夢じゃないみたいだし。あの光はなに?」
ベッドの上に横たわり、枕元に小さな信二を置いて友紀子は言う。
いとおしそうに見つめる友紀子の目を見て、信二は少し安心した。
巨大な女性は公平だ。気まぐれに信二をもみ潰す可能性もあった。

「僕たちはね、この星の先住民なんだよ。ユキ。」

きょとんとする友紀子。
「え、なに?」
聞き返す友紀子。
「10万年前に、地上を追われた地球人なんだよ。」
いとおしい表情は、訝しい表情に急速に変わる。
「あら、そう。あなたは異次元人?で、私はなにかしら?新種の怪獣?」
横にした顔をそっと信二に近づける友紀子。
友紀子は信二の言う事など、信じる気もしなかったが現実を振り返り
その先をきく。
「友紀子は地球の守り神だったんだ。地球人の、ではなくてね。」
スーツを脱ぎ捨て、真っ裸で友紀子の目の前に立つ信二。

男性の象徴がいきり立っているのに友紀子は目がいって仕方なかった。
「あら、光栄ね。でも私は昭和52年生まれの横浜出身の只のOLでーす!」
舌を出してわざと意地悪く言う友紀子。
「いいや。ユキは女神なんだよ。この世に出現するには人間の形で出てこなくては
ならなかったから・・・。」

友紀子は彼女の目を見つめながら訥々と話す信二をまじまじと見つめた。
「狂人かしら・・・。」
だが、今彼女の置かれている状態を考え、それもまたあり得るかもと
考え始めていた。
悪夢としか思えない現象が友紀子の既成概念をつき崩してゆく。
「ね、あなたって、・・・」
友紀子が信二に向かって言いかけたそのとき、また紫色の光が友紀子の全身を
覆った。
意識が急速に遠のいてゆく友紀子。
「また、またこれなの・・・。」
深い穴に落ちてゆくような感覚。
友紀子の意識はとぎれてしまった。

友紀子が目覚めたとき。そこは見たこともない大都市の真っ直中だった。
友紀子は普通サイズの、OL時代の服装でそこに立っていた。
見上げるばかりの高層建築。どの建物も企画化され、まるで自然の作った
造形のようだった。
 「わたし、元に戻ってる!」うれしさのあまり、大きな叫びをあげる友紀子。
周囲の人々を見て、今度は驚きの声を上げる。
どこから見ても日本人に見える人々が、見たこともない服装で歩いているのだ。
どこか優雅な、ゆったりとした生地の和服のような衣装。
髪は男も女も長くのばし、優雅に巻き上げている。
車道には自動車が走っていた。だが、排気ガスもエンジンの音もしない。
タイヤは地上に着いているが、いやな音も、匂いも出していなかった。
 「へー、未来都市かしら。でも、もしかしてここって・・・。」
「そう、僕たちの住んでいた世界なんだよ。10万年前に。」
信二の声が 耳元でする。
「また私に幻覚見せてるの?あなた何者?」
友紀子はきょろきょろと声のする方を見渡した。

「僕たちの作った世界もね、理想は高かったんだよ。
でもね、あらゆる理想は争いを生み出し、理想が放棄されると
宗教がそれに変わり、生まれた地域による人種、民族の間には憎しみが広がった。」
 
世の中、どこでも同じみたいね、と友紀子は思った。
「それでも科学は進んだんだよ。憎しみと、暴力と、増え続ける人間。
科学はそれらを増長させてゆくばかりだったんだ。」
 でも、科学が進むのは良いことでしょ、と友紀子は思った。
が、すぐに広島と長崎の原爆を思い浮かべた。
科学の負の産物。兵器。

「そう。人間が成長仕切らないうちにね、科学がね、人間を支配してしまったんだよ。」
 目もくらむ閃光が友紀子を襲う。あわてて地面にうずくまる。
おそるおそる目を開けたとき、友紀子の周囲は一変していた。
広大な瓦礫の山と炭のような人間の死体。
「バカな事の繰り返しだったんだ。それでも僕たちは未来を作っているつもりだったんだよ。」
 瓦礫の山を見て、友紀子は自分が破壊してしまった街を思い浮かべた。
「でも、人間は増え続け、兵器の進化はとどまるところを知らなかったんだ。」
 今の私たちは、もう少し頭良いわよ・・・。多分。と、友紀子は思う。
「そしてね、とうとう僕たちが地球からあふれ出し、この地上を食い尽くそうとしたときに
友紀子が生まれたんだよ・・・。」
大笑いする友紀子。
「あら、私10万才だったの!どうりでこのところ疲れやすくなったと思った!」

「友紀子はね、このとき生まれた人類を間引く為の女神だったんだよ。」

目の前が真っ暗になる友紀子。人類を間引く・・・。なんて台詞だ。
「ねえ、でもあなた、私の事探していたんでしょう?あなたと私は同じって、
どういうことだったの?あなたの世界を滅ぼしたのは私なんでしょう?」
友紀子は姿の見えない信二に向かって叫ぶ。

「僕たちの一族はね、友紀子を目覚めさせる為だけに生き延びさせられてきたんだよ。
地球の為にね。この星は2回目の巨大文明を栄えさせてきた。
けど、とうとう友紀子を目覚めさせないといけなくなったんだ。」

地面に座り込む友紀子。自分の人生を振り返る。母親、父親、弟、同級生、初恋の人、
友人、同僚、上司、後輩、仕事の得意先、仕入先。街ですれ違う数千の人たち。
そして、今の恋人・・、いや、今でも恋人といえるのか。
「ねえ、何で私だけ・・・?」
 「友紀子以外にも女神は数人いるよ。今から目覚めさせるんだ。また地球を
まっさらにするためにね。」
スカートのポケットからハンカチを取り出し、涙を拭う。
「信二、あなたたちって、死刑執行人を何万年も続けてきたの?私たちを
正しい方向に導いてくれるとか、考えたことないの?」

「そんなに大それた力は僕たちには無い。自然崩壊しない不自然な文明が生まれたとき、
その文明を破壊する、友紀子を目覚めさせてね。そのためだけに生きてきたんだ。」

「私はどうして生まれたの?」 
 力無く友紀子はつぶやく。
「友紀子、女神自身が人間の崩壊現象そのものなんだ。友紀子は本物の女神だよ。
でも、人間からすれば悪魔だけどね。」
「私、・・・、私まだ人間よ!」
少しだけ語気を荒げる友紀子。
「友紀子がどこからきたのか分からない。旧世界でも友紀子は突然現れた。
神の使いとしてね。」

ぼんやりと道端に座り込む友紀子。自分は人間なのか。
信二の言っていることは本当なのか。
これは全部夢で実を言うと、まだ自分は自宅のベッドに寝ているのでは無いか・・・。
頭の中をいろいろな考えが巡る。
そのとき、大きな地響きと共に、人々の悲鳴が聞こえてきた。
はっとしてその音の方向を見やる友紀子。

まだ焼け残った市街地にそびえ立つ全裸の女性が友紀子の目に飛び込んできた。
大きい。その身長はおそらく300メートルは在るのでは無いだろうか。
高層建築物が彼女の股にも届かない。
大きな乳房、くびれた腰、長い足に形のいいきゅっとしまったお尻。
髪を長くのばし、腰までたらしている。水着モデルにもいないくらいのプロポーションだ。
友紀子はその女性の顔を一瞥すると、下を向いてしまう。
そう、その巨大女性は友紀子と同じ顔をしていたのだ。

市街地を破壊し続ける巨大女性。さらに、女性が歩いたあとには凄まじい爆風が吹き荒れ、
ことごとく建築物を破壊しているのだ。
逃げまどう人々は、踏みつぶされ、爆風に巻き込まれ、瓦礫の下に埋められていった。
そう多くはない人々が友紀子の脇をすり抜ける。
 地鳴りが近づいてきた。友紀子はまだぼんやりと自分そっくりの巨大な怪物女を見つめていた。
全裸で恥ずかしげもなく、大股を開く巨大な女性。
「みんなからはこう見えていたんだな。」
日頃のむだ毛の手入れを欠かさなかった事にほっとする友紀子。
巨大なもう一人の自分も、綺麗にむだ毛を剃っているようだ。
のんきに構える自分が少しおかしくなる。
 巨大な足が建物を踏みこわし、次の一歩が友紀子の目の前に降りてきた。
優雅なシルク風の生地をまとった若い女性が悲鳴を上げて、巨大な足の下の下敷きになる。
突き飛ばされるように倒れ込み、四つん這いになって足の下から逃れようとしている。
だが、巨大な足は彼女を逃がさなかった。ゆっくりと地面との距離を縮めてゆく。
骨の砕ける音と絶叫が聞こえ、さらに肉のつぶれる音。大量の鮮血が足の下から流れ出る。
友紀子は只ぼんやりとその様子を見つめていた。

巨大な女性はぴたりと歩くのをやめた。
足下を見下ろす。両腕を後ろにつき、上半身をそらし見上げる友紀子と目があった。
 「遠い未来の私。これが私とあなたの運命なの。そして足の下の小さな人間もね。」
優しい笑顔で友紀子に語りかける、もう一人の友紀子。
巨大女性の大きな声は、しかし何か懐かしくも感じられた。
ぼんやりともう一人の巨大な自分を見上げる友紀子。
また、ゆっくりともう一人の巨大な友紀子は歩き出す。
悲鳴を上げ、逃げまどう旧世界の小さな人々をぺしゃんこに踏みつぶしながら。
 「ゆきちゃん、新しい世界を作るときだよ。」
信二の声。
また友紀子の意識が遠のいた。
 

友紀子が再び目を覚ましたとき、そこはさっきの石作りの部屋の中だった。
自分が何者であるかを知ってしまった友紀子。
その衝撃は計り知れない物があった。
ベッドの上にまた横たわる。
 目をつぶると、友紀子が破壊してしまった街の惨状が目に浮かぶ。
巨大な友紀子は足下に広がる小さな町並みを見て、どうしようもない
破壊衝動が彼女自身を支配していくのを自覚していた。
さらに小さな人間を踏みつぶし、おもちゃにすることで彼女の
性的な欲求が高まり、満たされていくのもまた分かっていた。
女性としての恥じらいや慈しみ、人間としての慈悲の心など
消し飛んでしまっている巨人となった自分を思い起こす。
 女神は淫らな女だ。
崇高な神のイメージとはほど遠い。だが、友紀子自身が思い描く神の
イメージもまた、先入観で形作られた物では無かったか?
神が人間を導き、信仰の対価に繁栄を約束するなど、人間の都合で
勝手に作られたイメージだったのでは無いか。
友紀子は自問する。

「人間の為の神ではなく、地球のための女神・・・。
つまりは人類の敵であることもあり得るわけなんだ。」
また信二の声がする。
「あなた、私のことを操り人形にしてるんじゃないでしょうね。」
力無く友紀子は言う。
信二が本当の神で、自分はその道具では無かろうか。
そんな気もしてきたのだ。

 「ははは、僕たちはそんな大それた物じゃない。ただ、次に友紀子が
目覚めるときまで生き延びさせてもらってるんだ。おそらくはこの星の
持ち主にね。」
「この星の持ち主?へー。大家さんが居たんだ。こんなに壊しちゃ、
敷金はかえってこないわよね・・・。」
口をとがらせて嫌みを言う友紀子。
信二の苦笑いが見えた気がした。
「大家さんは本物の神だ。地球自身の意志だと思う。」
「10万年もつき合ってて相手がだれかも分からないの?」
信二が突然、ベッドの上に現れた。
「ゆきちゃん、神はゆきちゃん自身でも在るんだよ!」
 また閃光が友紀子を覆い、友紀子の意識は薄れていった。


巨大な女性が突然出現し、市街地を破壊してまわった都心では、全国から
消防、警察、自衛隊が出動し消火、被害者の救出にあたっていた。
 巨大女性が市街地を破壊する様子は、海外メディアによって、全世界に放送されていた。
アメリカ政府はすかさず在日米軍の出動を日本政府に打診した。
日本政府も自衛隊に戦後初めての防衛出動命令を下す。
巨大女性が市街地を破壊中に、陸上自衛隊東部方面群は隷下の全部隊に出動準備を
下命していた。富士学校、駒門の第一戦車大隊、練馬の普通科連隊、千葉の第一ヘリ団、
習志野第一空挺団、その他各支援部隊。
 実弾が各駐屯地に弾薬庫から搬送され、各部隊に供給される。
自衛隊員は機関銃の弾帯を懸命に作り、信管を取り付け、戦車、自走砲はトレーラーに載せられ、一
路都心に向かう。
だが、都心ではなによりも消火と救助作業が優先された。
忽然と消えた巨大な女性。
消火と救助をやるなら今しかない。

街道は巨大女性の足跡で、自動車が走れなくなっていた。足跡がそのままクレーターとなり、
犠牲者の遺体がその底にぺっちゃんこにつぶれてアスファルトに張り付いていた。
巨大女性の膨大な体重は地下の水道管も切断してしまっていた。
消火栓は使えない。もっぱらヘリからの消火剤散布しか打つ手は無く、
タンク式の消防車が数台倒壊したビルに放水をするのみであった。

 まだ送水可能な消火栓がいくつか残っている。
ポンプ車がホースをつなぎ、アンカーとなって放水を始めた。
道路を使用可能状態にするため、ブルドーザーが集められ、乗り捨てられた自動車を
押しのけ、大きな足跡を埋めようとしたのだ。
 一刻も急がねばならない作業では在ったが道路上の遺体の回収は困難を極めた。
クレーターの底に張り付く圧死体。消防、警察、自衛隊の他果敢にもこの地にとどまり
救助にあたる一般民間人。

クレーターの底に角形スコップをもってすべりおり、、アスファルトにこびりついた死体を剥がし
ガラ袋と呼ぶ建築廃材を入れる為の大きな袋に一体一体入れてゆくのだ。
袋に油性マジックでナンバーを振る警察官。
やりきれない表情だ。
遺体の回収が終わり、道路が復旧されると、ようやく救急車、消防車が救助活動を
始めることができた。

大型の90式戦車がようやく富士学校より市街地に到着した。トレーラーの台数が
揃わず、その数僅か8台。現在最強のラインメタル120ミリ滑空砲を装備した
電子装置の固まりである90式戦車.それらは被災地の後方に集合している。
駒門の部隊からは74式戦車が12台搬送され、さらに60式装甲車が4台随伴する。
テッコウ弾を積んだ75式自走砲も富士学校より8台送り込まれ、90式と共に
後方に集結していた。ほぼ垂直に砲身をあげることのできる自走砲は
 巨大女性の陰部に テッコウ弾を撃ち込む事ができる筈だった。
展開した自衛官は気になる部隊を発見した。
大宮に駐屯する化学防護隊の姿だった。
さらに、所属部隊不明の対戦車ミサイル。ミサイル本体にはまだ乾ききっていない
OD色のペイントが光って見えた。
化学兵器・・・。
 ミサイルの中身はおそらく化学兵器であろう。
信管も特別な信管をつけている。
警察、消防は知る由もなかった。
また、自衛隊員もそれを話すことは無かった。
市街地後方にこれら自衛隊機甲兵力が展開する。
空では航空部隊が爆装状態で常時旋回していた。
攻撃ヘリも前線補給所を開設し、巨大女性の出現を待った。

だが、彼らの努力は全くの無駄となった。

強烈な閃光と共に、また巨大な女性、友紀子が現れたのだ。
人々は目を疑った。
身長が300メートルほどに、また大きくなっているのだ。
救助にあたる隊員は呆気にとられた。
出現したのは巨大女性が消えた地点から北西に5キロほど行った
商業地帯だった。
 日が昇り始めた。避難民の脱出は遅々として進まない。
そこへ巨大女性の出現。またしてもパニックが巻きおこる。
戦車、自走砲の機甲戦力は巨大女性の出現方向へ進撃を始めた。

友紀子は足下に広がる風景を呆然と見つめていた。
「またちいちゃくなってる!」
驚きの声を小さく上げた。
地平線まで続く小さな建物。それは友紀子の足首ほどの高さが大部分だ。
友紀子がよく知っている高層駅ビルも、やっと股に届くぐらいだ。
小さな雑居ビルは友紀子の足の下で瞬時に潰されてしまった。
避難を終えた市街は、警察と消防、自衛隊の三つの組織が活動しているだけであった。

戦車、自走砲が敏捷に行動を取り始めた。各普通科連隊も一斉に市街地に散開する。
攻撃ヘリは荒鷲のごとく飛び立った。ロケット弾、TOWミサイル、機関砲を能力一杯に搭載して。
弾薬だけで8億円以上の費用が掛かったこの攻撃は、友紀子出現から僅か15分後に
開始された。


友紀子は朝日に照らされた東京の市街地を見下ろしていた。
小さなビル群を見下ろすと、またどうしようもない破壊衝動が沸き起こる。
逃げまどう小さな人間はどこに行ったのか。
友紀子は地上を見渡した。
小さなビルは、地上を埋め尽くし、地平線まで続いている。
その一軒一軒に、人が家庭を持ち、生活をしているのだ。

ディーゼルエンジンの音が、街に響く。友紀子は進んでくる戦車群を
初めて認めた。
さらに、遠方より飛来するヘリコ、高空に位置する戦闘爆撃機をも。
少しだけ不安になる友紀子。
戦車は友紀子自身、不思議なほど間抜けな存在だった。
道路上を列をなして進んでくるのだ。
その大きさは、指でつまみ上げられるほどのもの・・。
 友紀子は怪獣並の体の大きさだが、頭は普通の人間だ。
友紀子に向かってまっすぐに進んでくる74式戦車を暫く見つめていたが、
小さなビルを蹴り倒し、戦車の進む道の一つ裏道を歩き、戦車隊に近づく。
そして、少し腰をかがめて、戦車の進むビル群の脇からビル群を押し倒して
戦車を瓦礫の山に埋めてしまったのだ。
四台の戦車が生き埋めとなる。友紀子はさらに、瓦礫の山を踏みつける。
ビシッ、と友紀子の踵に痛みが走った。
「いったーい。」
踵をおさえ、友紀子は振り返った。
ふと見ると新手の戦車が友紀子の足首に狙いを付けて、街道に
並んで居るでは無いか。
戦車砲の発砲は続く。
だが、90式戦車の120ミリ砲ですら友紀子の足首に傷を付ける事が
できなかった。
街のなかに戦車砲の発射音がこだまする。
さらに、攻撃ヘリの対戦車ミサイル、ロケット弾が発射され、
自走砲は黄燐弾を友紀子の顔面めがけて発砲した。
 全身を爆煙に包まれる友紀子。
「また女の子に大砲を撃って!顔を狙ったわね!」
友紀子の怒声が街にとどろく。
列線を敷く戦車群を端から蹴り飛ばし、ビルをその上に倒し始めたのだ。
そして、おもむろにビルの残骸をつかみミサイルの照準をつけるヘリに向かって
投げつけた。散弾のように飛び来るコンクリートの破片は対戦車ヘリを一撃で撃墜する。
さらに、友紀子は狙いをつけてビルの残骸を投げつける。
ヘリコは数分でその姿を消した。真っ黒な煙を地上に突きつけて。

友紀子の巨大な体による凄まじい破壊が続く。展開した自衛隊機甲戦力は瞬時に
殲滅された。
ビルに埋もれ、巨大な足首に蹴り飛ばされ、さらに踏みつぶされて。


自衛隊の最終反撃手段が実行された。
友紀子は小さな自衛隊員が、ガスマスクを着用しているのに気がついた。
残った戦車がハッチを閉め切り、ぴたりと動かなくなったことも。
瓦礫ごと戦車を踏みつぶし、随伴歩兵を捻り潰していた友紀子は自衛隊の
動きを訝しがった。
「・・・毒ガスね・・・。」

おおよその察しがつく。
そして、友紀子の予想は的中する。
重MATと呼ばれる有線誘導ミサイルは友紀子の顔面めがけて2発、同時に
発射された。レーザー誘導で進む高速誘導弾は性格に友紀子の鼻先に数秒で到着する。
電波信管により、友紀子の顔面直前で破裂するミサイル。
その中身は、ゲル化された、青酸化化合物・・・。
友紀子の皮膚にべったりとこびりついた。
気化し、呼吸器をとおり窒息させ、皮膚呼吸からも神経を麻痺させる青酸化合物。

友紀子は立ちつくしたまま暫く動かなかった。
おもむろに顔を拭い、顔面のゲル状物質を取り去る。
「やったわね!」
身長300メートルの巨体は信じられないほどの機敏な動きを見せる。
歩くたびに道路を10メートル近く陥没させ、地下鉄道を踏み抜き、10階建て程度のオフィスビルは
巨大な足の下に踏み壊され、消えていった。
青酸化化合物も友紀子には通用しなかったのだ。
対戦車ミサイルを発射した大型四輪駆動車を友紀子はつまみ上げる。
乗員は逃げ去ってしまっていた。
親指と人差し指の間に挟み、クシャ、と潰してしまう。

自衛隊戦闘団の活動は、この巨大な女性の怒りを倍増させるのみだったのだ。
 市街地ごと、残った自衛隊連隊戦闘団の残部隊は次々に踏みつぶされていった。
巨大な怪物にはなんの役にも立たないことが分かっている自動小銃を撃ちまくりながら、
残った自衛官は郊外に後退する。
 消火活動にあたっていた、消防も活動を中止し郊外へ脱出を始める。
警察は、巨大女性を囲むようにして瓦礫の山の中を、無線機を担ぎ、ついてまわった。
随時、無線で巨大女性がどこにゆくのかを内閣対策本部に通信しているのだ。
一部の自衛隊偵察部隊もこれに続く。
小さな人間の組織的な攻撃はわづか30分で終わってしまった。

 瓦礫を踏みしめ、その雄大な肉体を惜しげもなくさらす美しい女性。
朝日を浴びてそびえ立つ巨人は、神々しく見えた。
東京タワーとほとんど変わらない背丈の女性。
大きく張り出した乳房は真下から見ると、彼女の顔を隠してしまうぐらいの
大きさだった。その乳首だけでも、人間と同じ大きさが在るのでは無いか?
きゅうと、引き締まった大人の女のお尻は歩くたびに雄大に波打つ。
女性独特のエロチックな曲線を持つ白い二本の脚は地上に踏み降ろされるたびに
大災害を巻き起こす。その脚だけで、50階建て高層オフィスビルと同じ高さだ。
歩幅はゆうに150メートルを越えている。
人間が必死に走ったところで、彼女の巨大な足から逃れるのは至難の業であった。
 瓦礫の中を、命からがら逃げ出した小さな人々を、友紀子は容赦なく踏みつぶし始めた。

「ごめんなさい。でもこれが皆さんの運命なんです。」

小さな人間達が友紀子を止める手だては無くなった。
彼女はその欲望のままに破壊を続ける。
もはや、人間には神に祈るしか手だては無いのか。
 アメリカ政府より、在日米軍が半ば公然と配備していた戦術核ミサイル使用の
通告が日本政府にもたらされた。
まだ、関東中に避難民が居る。日本政府はこれを拒否した。
多分、核攻撃すらあの怪物には通用しないだろう。
核攻撃の二次被害のほうが深刻な事は間違いなかった。


友紀子は地平線まで続く街を見つめ、頭の中で破壊のイメージを描き
街のなかを歩き始めた。
10万年前に出会った、巨大な自分自身がやっていたように。
津波のように波動が続き、市街地が粉々になり、その残骸が空に巻き揚がる。
小さな人々もそれに巻き込まれていった。
地平線まで続く市街地が廃墟になったのは、友紀子が破壊のイメージを思い描いてから
僅か5分後のことであった。
 「私の仲間、どこにいるのかしら。もしも私と同じくらい大きな女の子がいたら・・・」
友紀子は少しとまどう。
「世界中を半年ぐらいで壊しちゃうかも・・・。」

炎につつまれ、黒煙を上げる廃墟となった東京に立ちつくす友紀子。
瓦礫を踏みしめ、さらに破壊すべき市街地、踏み潰さねばならない小さな人間を
求め、歩き出す。
友紀子はこれから続くであろう、小さな人間の反撃を思い浮かべていた。
これから友紀子に対し使われるであろう核兵器の事も。

見渡す限り、地平線まで廃墟、瓦礫は続く。
ぼんやりとその惨状を見つめる友紀子。
遙か古代からの記憶が頭の中に現れる。
破壊神である自分自身と、彼女と同じ、破壊の女神達。
 ゆがんだ文明、増えすぎた人間。
地上で廃墟の中にもがき苦しむ小さな人間達の苦しみ、怒り、悲しみは
友紀子にも伝わってきた。
だが、それ以上に友紀子に強い感謝と喜びの念が伝わってくる。
 
何か懐かしく、暖かな気持ちが友紀子に伝わる。
「これが地球の意志?」
強い喜びと感謝、そして小さな人間達への怒り。
強烈な波動となって友紀子の頭の中に伝わってくる。
「これから、仲間を見つけて・・・。この星を元にもどさなくっちゃ。」
友紀子は自分が破壊の神である事に気がつかされた。 

地響きをたて、地面を陥没させ、歩き出す友紀子。
友紀子以外の破壊の女神はどこに居るのだろうか。友紀子はふと思う。
さらに地上世界を破壊しつくした後の事も。
また数万年の眠りにつくのか。
「今度、目が覚めたときは・・・。もう少し人間達が謙虚になってると良いんだけどな・・・。」
地球の生命である自分に気がつき、平穏な世界を築く人間世界。
破壊の女神としての自分ではなく、人間としての生活が送れる世界。
友紀子は数万年未来を少しだけ思った。

「ごめんなさい、皆さん。でも、皆さんはもっと賢く生まれ変わらないといけないんです。」
市街地を破壊しながら、友紀子はそう呟いた。
悲鳴をあげ、逃げ惑う小さな人間達。
その巨大な足は道路をはみ出し、両側の建物ごと、彼らを踏みつぶす。
「皆さんはこの星にとって、悪い人たちなんです・・・。」

小さな命が、自分の足の裏で消えてゆくのが感じられた。
あと、何万回繰り返すんだろう、この殺戮を。

友紀子は遙か未来の地球を思い、その世界が清浄であり地球生命にとって
平和な物である事を祈った。
「次の世界では信二と普通の家庭をもてるのかしら・・・。」
少しだけ、自分の平穏な生活も望む破壊の神だった。

                                            破壊神  友紀子 完



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