《 お日さまと、競争した女の子 》

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 むかし、むかし、ある町に
大きな女の子が住んでいました。

 どのくらい大きいかと言うと、ビルよりも大きいのです。

 彼女はお散歩が大好きでした。
今日も雨の中、彼女は散歩に行きます。

 やがて、空は晴れ、輝く
太陽が雲の間から見えました。

「こんにちは、お日さま!」

 元気な彼女は、太陽に挨拶をします。
雨上がりの太陽は、とても綺麗に見えました。



 その時、彼女は考えました。
「私と お日さまと、どちらが速いのかしら?」

 普通の女の子なら、そんなコトを考えもしないでしょう。
でも、彼女は普通の女の子ではありません。 巨大な女の子なのです。

 彼女はとても大きくて、強いのです。

 大型のトラックでも、彼女は指一本で、ひねり潰せるのです。
彼女がそのお尻で座ったら、どんなビルでも潰れてしまいます。

 自衛隊だって、彼女には勝てないでしょう。
彼女に逆らう者は、誰もいません。

 遊び相手がいないので、彼女は、ちょっと退屈していました。
それで、今日は、太陽と競争をすることにしたのです。

「お日さま、お日さま、私と
競争しましょう!」

 彼女はそう言うと、傘を捨て、太陽の進行方向に向かって走り出しました。

 巨大な彼女は、歩幅も大きいので、とても速いのでした。
すぐに町を出て、村を走ります。

 山脈の前に来ました。
普通の人が苦労して登る山も、彼女は楽々と飛び越えてゆきます。

 しかし、お日さまには追いつけません。
今まで誰にも負けたことのない彼女は、驚きました。

 巨人である自分が、敗北するなど、信じられないことでした。
なおも、太陽を追いかけて、西へ、西へと走って行きます。

 やがて、海岸に着きました。太陽はまだ向こうです。

 ここでやめるわけには、いきません。
服を脱ぎ、美しい裸身をさらし、海へ飛び込みます。

 広い海を楽々と泳ぎ、中国大陸に上陸します。
人々が驚くのを気にもせず、彼女は街を、草原を、そして、砂漠を走ります。

 やがて太陽が沈み、夜になりました。

「まぁ、なんてことなの! お日さまも、なかなかやるわね」

 夜の闇の中、彼女は、どんどん走って行きます。
さすがに大陸は広いらしく、彼女の前に、もう海岸は見えませんでした。

 朝になりました。 太陽が東から昇ってきます。
西に向かって走っていた彼女は、後ろをふり返ります。

 彼女の後ろには、朝の太陽が輝いていました。

「あらら、いつのまにか、お日さまを追い越していたわ!」

 巨大な彼女は微笑みます。

「やっぱり、私の方が、お日さまよりも速いのね!」

 太陽との競争に勝利した彼女は、満足して、日本に帰りましたとさ。

 (おしまい)

 (江戸笑話の一説を引用させていただきました。)


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