《 真夜中の体育倉庫 》 第33話

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 (巨人愛花の視点で)

 あぁ、始祖様! 復活をお待ちしていました。 喜ぶ私。



 私の頭の中で青い光である始祖様が言う。
{愛花よ、遊んでいる場合ではない、危機が迫っている。東の空を見るがよい}

 え、何かしら?
私は巨人の探査能力で言われた方角を見る。
無数の戦闘ヘリコプター部隊がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
大型の爆弾も装備しているのが分かる。

{この世界の戦闘兵器だ。人間たちは巨人のお前を総攻撃するつもりだ}

「笑ってしまいますわ。あんな武器で攻撃されても私は平気です」

{いや、お前が平気でも、空爆が始まったら健一の体が危ない}

「心配しないで下さい、始祖様。健一さんと貴方は私が守りますから」
 現在、始祖様は健一さんの体内にいる。私の力なら健一さんも始祖様も守る事ができる。
しかし、始祖様の言葉は私にとって意外なものだった。

{人間たちは覚悟を決めたようだ。都市の全てを灰にしてもお前を倒すつもりだ。
いくらお前でも、健一を守りきれないと我は判断する。
健一が人間の空爆をうけたら、始祖である我も、いっしょに焼きつくされる。
もはや健一の中に生きる我の破滅を回避するには、たった1つの道しかない!
愛花よ、お前の肉体を我に引き渡せ。
そして我はお前の脳を支配し、さらに巨大化させて完全な神となる}


「え、え、え、何を言っているのですか、始祖様??」
 始祖様の言葉に呆然とする私。


「ちょ、ちょと、待って下さい。始祖様。
私の肉体を貴方に渡したら、私はどうなるのですか?」

{もちろん、お前の精神は消滅する、まぁ、事実上、お前は死ぬことになる。
だが、偉大なる我が生き残るための尊い犠牲だ!
お前も我の下僕なら何の不満もあるまい}


「ふざけるんじゃないわよ!! なんでアンタに巨人の力を渡さなきゃいけないの!」

 私は始祖様が私たちの偉大な指導者だと思っていた。
だが違った! 始祖は過去の世界から甦ったバケモノだったのだ。

{お前の力は、我が与えたモノだ。我が必要な時に返すのは当然だ。
お前の意識など、消滅しても我は困らない。
お前も巨人となって、小人を潰しまくっているではないか。
強い者が生き残る。それが真実だ。 もう時間がない。
すぐに人間の空爆が始まる。そうなれば健一の中にいる我も燃え尽きる
愛花よ、さっさとお前の巨人の肉体を全て、我に渡すのだあああ!}


「い、嫌ですわ。この素晴らしい巨人の力は私のものよ!
むざむざ力を取られてたまるもんですか!」

 頭の中に始祖の力が侵入してくる、私の力を奪うつもりだ。
自分の意識が薄れていくのを感じる。

{ぬはははは、ついにこの日が来た。
我はよみがえる! 完璧な巨大神となり世界を支配する!
どれだけ、この日を待ち望んだ事か!!
我は愛花の肉体を乗っ取り、
健康で無敵の巨大娘になる!
我は永遠に生きるのだあああああ!}


 ふと空を見る。戦闘ヘリコプター部隊がすぐそこまで来ている。
この都市を燃やし尽くしても、私を倒すつもりだ。

 普通なら私の力で健一さんを余裕で守れるけど、
意識下で始祖と戦っている今は、健一さんを守る事は不可能だ。
人間の空爆が始まったら、健一さんも死んでしまうかもしれない。
私はどうなってもいい! 健一さんだけは守る。

 私は始祖に言う。

「こら、始祖! 今のままだと軍隊の空爆が開始される!
そうなったら健一さんといっしょにお前も滅びるのよ。
私の力は知っているわね、別次元の宇宙に移動できる力を」

 私たち一族は衰退して故郷にいられなくなり、その力を使って地球に来た。

「始祖! もう、ここにはいられない。
私といっしょに異次元宇宙に来なさい。
そこで二人きりで、正々堂々の勝負をするのよ。
私の力を奪えるのなら、奪ってみなさい!」

{だまれ! 愚かな小娘の分際で何を言うのか!
いいだろう、今のままでは健一がここで空爆されたら我も燃え尽きる。
愛花、お前と我と、どちらが真の正義か決着をつけてやる。
異次元宇宙に行こう。
そこで力ずくでお前のパワーと肉体を奪ってやるわ!}



  私は胸を押し当てたホテルのビルを見る。
建物はまだ崩壊していない。

 本当は、このホテルを健一さんにプレゼントして楽しく暮らす筈だったのに・・・。
でも、もうそれもできなくなった。

 そうだ、私は自分の好きな事だけを健一さんにしていた。
だから罰があたったの。 生まれ変われたら、もう一度、健一さんと・・・
普通の恋をしたい!

「健一さん、さようなら、
もう会えないかもしれないけど、
私の事を忘れないでね!」



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 轟音と閃光の中、巨人愛花の姿は異次元に消えた。

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