投稿者:警告
この作品の翻訳にあたり、作者の意図する作品イメージを最大限に引き出し、和文小説としても違和感ない品質に仕上げる為、リアルで迫力ある翻訳再現致しております。
したがって、原文に含まれる残酷描写等、過激な表現も多分に含んでおりますので、御理解頂けない方は拝読されない事をお薦め致します。



 キャトリン - 残忍な女 -



アトゥラミメンバー作



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ブランドンのピックアップトラックは猛スピードで走っていた。

彼の高校から必死に遠ざかろうとするように。

カースピーカーからは大音量でデイドリー・イン・フレンズの『Man in the garden』が流れていた。ブランドンが曲に合わせて頭を振るたび、耳にかかるほど伸びた茶色の髪が揺れた。彼は片手を伸ばしてボリュームつまみを最大まで廻しきった。背後でカーステレオのアンプがビリビリと音を立てた。

町外れの一本道を走っている限り、どんなにスピードを出そうと大音量で音楽を聴こうと、まず捕まることはない。ブランドンは乱暴にハンドルを切って二台のスクールバスを追い越し、また元の車線に戻った。彼がアクセルを踏み込めば、それに応えてトラックのエンジンは唸りをあげる。早く、一刻も早く家に帰りたい。今日はまったく散々な一日だった。いつにも増して最悪だった。ブランドンが望む事はただひとつ、丸一日惨めな気分で過した場所から少しでも遠くに離れることだった。

幸運にも、デイドリー・イン・フレンズの音楽はブランドンの苛立った心を鎮めてくれた。
さもなければ自棄になって猛スピードで車道から外れ、トラックごと木に激突していたことだろう。カーステレオが沈黙した。数秒後、別の曲が流れ始めた。彼の一番気に入っていた『My world』だ。ハンドルを握ったブランドンの指は、曲のイントロと共にリズムを取り始めた。

ああ、このバスラインが堪らないよな…。

一人っきりの車内で、彼は自分に向かって呟いた。

その曲の流れるまま、ビートに乗るように、ブランドンはその後2キロ、

景気良く飛ばした。

「うわっ、たまげた、何なんだ!」

両足が慌ててブレーキを踏みつけた。

後輪がスリップし、トラックの尻部は激しく流れた。

ようやく止まった車の中で、ブランドンは呆然と目を見開いていた。

彼の視界に広がっていたのは、黒い壁。

巨大な黒い壁のみだった。

それはブランドンの行く手を遮るように聳え立っていた。一体どれくらいの高さがあるのか、フロントガラス越しに壁の天辺を見ることは不可能だった。

ハンドルに圧し掛かるようにして身を乗り出し、彼は恐る恐る視線を壁の上部へと這わせていった。

そうして気づいたのは、これは壁なんかじゃない、巨大な黒いブーツだということだ。

厚底ハイヒールのプラットフォームブーツが、上空へと聳え立っていた。

黒いブーツの上部に、網タイツに包まれた蒼白な肌が覗いた。

そんな、バカな事が――

何かの間違いだ?

これはだ。

ブランドンの目を釘付けにした肌はすぐに黒いスカートに包まれ、それより先はもう見えなかった。

いや、手のようなものが――

そうだ、抜けるように白い肌。

どう見ても、女性の手だ。


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キャトリンはすっと立って、農場で埋め尽くされた辺りの景色をじろじろ見ながら微笑んだ。

それは、広大な農場の続く、いわゆるアメリカ中心部でよく見られる風景とは似ても似つかないように思えた。

彼女にすれば、目の前にあるのはせいぜい中ぐらいか小さな農家くらいで、その為、家や車やその他の細々したものまでよく見渡せた。

彼女の両手はうっすらと透けた白いブラウスをすばやく探り当てると、表面のしわをすっと伸ばした。その手は次に、まっすぐ伸びる首にかけられた黒いビョウ打ちのネックレスに触れた。ネックレスは、彼女の透き通った白い皮膚に当たってくすぐったかったが、不思議と気持ちを落ち着かせてくれた。

キャトリンはいとも簡単に身長150メートルになってしまっていた。

そして、この奇妙な出来事を終わらせる方法はまだ見つかっていない。

だが、

”いつでも自分の意志で身体の大きさを変えられる”

ということだけはよく分かった。

それに、大きくなろうが小さくなろうが、そんなことは大した問題じゃない。

彼女は顔にかかったブロンドのドレッドヘアの1本を、爪を黒く塗った静脈の透けそうな手で脇へ流し、他の黒く染めたドレッドと一緒にした。

そして、燃えるような紅の唇になまめかしい薄笑いを浮かべて、

”さて、まず何をしようかしら”、

と辺りを眺めまわした。

何か、あるいは誰か、少しでも見覚えのあるものを探して、

彼女のまるで海を彷彿させる澄んだ碧い瞳が、家々を次から次へと鋭い視線で貫いて行く。

こんな大きな身体になってしまっては、地上の物音など殆ど聴こえない。

にも拘らず、爆音で響くカーステレオの音が、彼女の耳に届いた。

最初、何のバンドの音楽かまでは分からなかったが、やがてすぐに思い当たった。

”デイドリー・イン・フレンズ”。

”ブランドン”だ!

ぱっと右に振り向くと、ちょうど彼女の右側を走る幹線道路をブランドンの車が疾走してくるのが見えたので、彼女はなるべく自分の気配に気付かれない様に注意しながら、そっと後ろに下がった。

そして、彼が近付くや否や、彼女はブーツを履いた脚を、道路の真ん中に思いっきり振り下ろした。

巨大な脚で力いっぱいに踏み付けられた部分から、夥しい量のコンクリートの破片が周囲に飛び散る。

ブランドンのトラックは、彼女の脚からやっと数メートル、だが、彼女にしてみれば僅か数センチといったところで、辛うじて止まる事が出来た。

それを冷静に見つめながら、彼女は言った。

「こんにちは、ブランドン。」

そして、彼女は道路際にしゃがみ込んだ。


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ブランドンは、巨大な人影が近付いてきて、しゃがみ込んで来るを見た。

そいつは道路の真ん中から脚を戻すと、道路脇で寛いでいる。

(その道路際へと離れた事により)
彼には、ようやく人影の正体がキャトリンその人だという事実を知った。


キャトリン。

新入生の年にこの町へ越してきて以来の友人。

彼はどうしようもなく彼女に惹き付けられていたが、
結局、二人きりでデートなどを出来る関係までは至らなかった。

彼女は美しすぎた。

彼女は、周りのかっこいい奴らを皆、自分の虜にしていた。

彼女にとっては、(どうにでもなる様な都合のいい)そういう奴らが結構大事なのだ。

それから、彼女が相手にしてたのは、「自分以外の」全てのゴス系の男達。

直感で、ここは逃走するべきだと彼は悟った。

理由は、彼女の大きく広げられた手のひらが、
こちらの方に向けられている。

一体全体、彼女は何をしようとしているのか。

可愛い悪戯か?

それとも、

凶悪な企みなのか!?


そう、友達ではあったけれど、彼女は時々意地悪をしたがった。

彼を連れ出して

「こんにちは。」

だけ言うかもしれないし、

車ごと押し潰すかもしれない。

彼には分からなかったが、ちょっとでも危険を冒すことはしない。

私はここからスッ飛んで出ようとして、車のドアを早く開けさせた。

しかし彼が足を出すか出さないかのうちに、
彼女は人差し指と親指でトラックを掴んだ。

人差し指はドアを叩きつけ、押し付けて内側に曲げてしまった。

親指は他のドアを掴んだが、押し潰さなかった。

ただ、彼を上に持ち上げた。

彼女の頭全体を見ることができるところまで、
ブランドンのトラックは遠くに押し留められた。

ただフロントガラスを通して彼を見詰めている、
海のように澄んだ青い目。

なんとなく微笑をしているような魅惑的な唇。

彼は覚えていた。

彼女とは自分と同様の価値観をもち、吸血鬼だの 魔物 だのといった化け物に魅入られていたのだ。

突然このことに気付くと、ブランドンは途端に恐怖で身がすくんだ。

すぐさまキャトリンは彼に話かけた、
ブランドンは彼女の歯が時折ちらりと見えた。

「ねえブランドン。あのね、あたしちょうどあなたに声をかけようとしたのよ。」

ブランドンは、これを聞いて気持ちが和らいだ。

理由は二つ。

@彼女の声が素敵で優しくて、どちらかと言うと気持ちを和らげるような雰囲気だあった事。
A彼女がちょうど「こんにちは」と言おうと思っていた。

という事実だった。

車の中から、ブランドンは応えて手を振った。

彼女は指でサイドガラスを粉々にしていたので、ブランドンはガラスの破片で怪我をしないよう気をつけながら、頭を突き出し叫び返した。

「一体ぜんたい、何が起きたんだ?!」

彼女は肩をすくめた。

ブランドンは寸前のところで車から転がり落ちるところであったが、かろうじで車内に留まる事が出来た。
彼女はこれを見て、もう少しばかり彼を揺さ振ってくすくす笑ったようだった。

彼が完全に車内後方へ戻ったのはその時だった。

「ねえねえ、どこに行くのよ?」

キャトリンはもう一度なだめたが、脅かすような声音で、
見覚えのあるに微笑を浮かべていた。


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キャトリンはもう一方の手を前に伸ばして、人差し指をトラックのリアウィンドウに深く入れ、ソーダ缶のプルタブを思いきり開けるように、上へぐいと引っ張った。

そして素早くその金属片を捨て、ブランドンを見て動かなかった。

「何てことすんだ! お前、一体何をしようというんだ。これは俺のトラックだぞ! お前のじゃないだろ!」

キャトリンには、たった今自分がしたことにブランドンが激怒しているようで、彼女に向かって怒鳴るのが聞こえた。

友達か、否か。

「いいえ、これはあたしのトラックよ。あなたがすぐ俺のものだと言い張るようにね。」

彼女はもう一度くすくす笑い、ブランドンが車から落ちるのを止める物が何もないまま30mの高さに宙ぶらりんで、落ちまいとして座席ににしがみつくのを見た。

やがて彼女の動きが止まった時、ブランドンの顔に困惑の表情が表れた。

キャトリンは、人差し指と親指で彼のシャツの背中を掴んで座席から引き離したのだ。


彼女は自分の顔の前で彼を抱きかかえ、

彼に優しくキスした。

彼女の官能的な深紅の唇は、

彼の体の大半を覆い尽くしてしまったが、それが彼を傷つけることは全くなかった。

そして彼を胸ポケットのところまで下ろし、彼女が言うまでポケットの中にいさせることにした。

彼女が手でほんの少し弾くと、トラックは地面に叩きつけられ、衝撃で爆発した。


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ブランドンは自分が無力な存在に感じることに嫌気が差して必死であばれた。

しかし、すぐに自分が実際に無力な状態で、どこへも行くことが出来ないことに気付いた。だから彼はただポケットの底に座った。

ポケットは滑らかな材質で、

キャトリンの胸のぬくもりで十分に暖かかった。


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彼女は微笑みを浮かべた。

自分が誰かを所有していることや、
彼の運命が自分の手中にあるということ、

彼が自分のものでそれについて彼はどうすることもできないという事実が嬉しかったのだ。彼女が最初に沢山の車が並んでいるのに気付いたとき、何台かはもと来た方向へと向きを変え、彼女から逃げ去っていった。

何台かは溝にはまり、また、他の何台かの車から興奮した人達が飛び出して逃げていった。

嘗ては優しい心の持ち主であったキャトリンは、

今が変わるときだと心に決めた。

「遊びの時間よ」

彼女は一言呟いた。

それはこのとても小さな人々にとって雷鳴のごとく響き、
パニックが巻き起こった。

そして逃げ惑うために彼らは2倍の労力を費やした。しかし、こうした不毛な努力によって彼らが安全な所へ逃げのびることは決してできなかった。

その黒いブーツが道路に覆い被さって来た、その時、何台かの車の集団は逃げるには互いに近すぎる距離にあった。

運転手は皆何とか抜け出して逃げようと懸命であった。

しかし、誰も成功した者はいなかった。

そして彼女の足が降臨した。

彼女の靴底は、車をペシャンコな金属のシートへと化してしまった。

火の手があがる一瞬の隙すら与えられなかった。

車から逃げ遅れた何人かは、押し潰され息絶えた、

彼女の足元に小さな真っ赤な水溜りを残して・・・。

彼女は素早く一方の足を回転させ、
地面に散らばるゴミの上へと置いた。

もう一度足を引くと、いくつかの破片があちこちにくっついてきた。

「あー、やだー。ブーツにガラクタがくっついちゃった。もう。」


彼女は不満気に言った。

するとまもなく人や車のいない道路に差し掛かった。

彼らはこの道路を通って進んでいたのだ。

彼女は素早くブーツを後ろに擦り付け、

屍残骸や鉄屑をブーツから歩道に削ぎ落とした。

するとブーツのハイヒールが何人かの人間を捕らえた。

彼らはブーツの下敷きとなり、踏み躙られ残骸と成り果てた。

残骸へと変えてもなお、彼等の上に踏んでいる足を退ける事なく踏み締めたままで、考え一言、

「さぁー、これからどうしょうようかな?」

「ちょっと、おなかがすいたわ。」

「だけど・・・、もう、こんなに大きくなってしまっては、レストランにも行けやしない。」


「自分でなんとかするしか、なさそうね。」

彼女の声からは、容易く皮肉な調子が感じとれた。

そのうえ、口元に広がった意味深なつくり笑いは、
彼女がこれからしようとしていることを、いっそう明らかにしていた。

轟く様な声の大きさだけでも、小さい人々を十分脅えさせていたのに、彼女が言っている内容は、まさしく彼らの肝を潰させた。

道路の両側に片方ずつ膝を着いて座り込むと、スカートの裾が、彼女の下から走って逃れようとしている人たちの逃げ道を塞いだ。

燃えさかる車の山に退路を断たれ、人々は今やその場に閉じ込められたも同然だった。
彼女は左手を地面に伸ばし、道路の上を必死で逃げまどい、隠れ場所を探している人々を

一人ひとり摘み上げ始めた。

拾い上げられた人たちは、もう一方の手の平に無造作に乗せられ、15人程になった。

地面で逃げ延びた人たちは、もはや彼女の眼中にはない。

彼女の関心があるのは、今や手の平の上の人たちと、

勿論、ポケットの中のブランドンだけだ。

彼女は開いた手を水平に保ち、目のすぐ下の位置へ留め、
2つの青い海のような澄んだ瞳で手のひらの上の人たちをじっと見詰めた。

突然、彼女はそのうちの一人を知っている事に気付いた。

学校で一緒だった性悪娘、”エイミー”その人だった。


「あら、エイミーじゃないの。お会いできてうれしいわ。」

その声には、またも皮肉な響きがこもっていたが、今度は以前にも増して強烈だった。

エイミーが叫び返す暇すら与えず、キャトリンは親指と人差し指で彼女を摘み上げた。

シャツを摘んでぶらさげるのでなく、

キャトリンは指の間にエイミーの体を直接挟んで持ち上げたのだ。


”エイミーなんて、あたしに食べてもらえるほどの名誉にも値しないわ。”


先程からの薄ら笑みを浮かべたまま、キャトリンは心の中で思った。

どうやらキャトリンは、

突如として自分がいかに優越した存在かということに思い至ったようだ。

暫し、満足した思いにふけった後、

彼女は”はっ”と我に返った。

2つの目の焦点は、エイミー一人だけに向けられた。

何の前触れもなく、

親指と人差し指が強く押しつけられ、

エイミーの華奢な身体は突然の重圧に砕け散った。

指の間には、僅かな血の滴だけが残され、

彼女はそれを素早く舐め取ってきれいにした。


「さあて、今度はあなたたちの番よ──」

2つの目は手のひらの上の人たちを見詰めたが、

もう面識のある顔はなかった。


彼女は手を口元へ持って行き、

手のひらの片側をびったりと唇に押し付けた為、

深紅の巨大な唇が、

人々の信じられないほど近くに迫った。

人々は一塊に身を寄せあい、

避けるように手のひらの反対側の方に移動し始めたが、

そうすることができずにいる者が一人だけいた。

キャトリンの舌がズルズルとのびて来て、

一人の女性の背中に押付けられ、

女性の体はたちまち張付いてしまったのだ。

彼女が身悶えして、唾で覆われた筋肉から体を剥がす事が出来ないうちに、キャトリンの舌は口の中へと引っ込み、

たちまち呑み込まれてしまった。

噛まずに、丸のみだった。

「本当においしい。」

「実際、人間がこんなにいけるなんて今まで考えもしなかった。」

「ずっと損しちゃった。」


今度は幾分穏やかな声だったが、遠慮する様子ではなかった。

殺戮を。

そう、彼女は止めなかった。

どうやらイライラしてきたようで、ゆっくりとであるが深く息を吸い始めた。

小さな人間は皆吸い込まれまいと逆らい、

もがいたが吸い込まれる力には勝てなかった。

次々と彼女の口の中へと吸い込まれ、ついに全員が舌の上に座らされる状態になってしまった。

この人々は神が創造した人類最初の女性イブよりも短時間で亡くなるだろう。

キャトリンはその事を確かめてみたくなった。

舌で皆を横に追いやり、

歯の上に並べてみた。

舌を中央に戻し、

そして、

かなり強く噛んだ。

奥歯に押し潰され全身が砕け散ってしまった人もいれば、

噛まれて体が真っ二つになり苦痛で叫びながら亡くなった人もいた。

追い討ちをかける様に、数回噛み砕くと彼らの身体は泥のような状態に変わり、

彼女はそれを貪る様に飲み込んだ。



急に退屈になって、ひと遊びすることにした。

キャトリンが見回すと、木の後ろに隠れようとする人、溝の中に隠れようとする人が目に入った。数人であるが家の中に逃げ込む人もいた。

木の後ろや道路脇の深めの溝に隠れた人はかなり苦しい死に方をすることになった。

なぜなら一思いに逝かせてもらえる事はなかったからである。

彼女の指が一人の頭の上に覆い被さり、ゆっくりと下がって来て、

青白い指の腹が彼らの頭の天辺を押した。
勿論、すぐに指を押し下げて跡形もなく潰す事が出来た。
だが、ゆっくりと押す力を加える事を試みた。

キャトリンにはそのうちの一人が苦痛でもがきながら、

必死で指の下から逃れようとしているのが見えたが、無駄な足掻きであった。

遂に上へ必死で押しのけようとする力と、
キャトリンの下へ押す力に耐え切れずに足がポキッと折れてしまった!?

その者は地面に崩れ落ちて、痛みで絶叫した。

予想だにしていない、突然の押し返す反動が消滅した事により、彼女の指は一瞬で最下部迄進んでしまった、

その者は即死だった。

指に付着した小さな血糊は瞬く間に舐め尽されてしまった。

暫らく遊んだ後、キャトリンは立ち上がり、

オーシャンブルーの目で物珍しそうにじろじろと見回した。

「外にいる人間もみんな殺しちゃいたいな。」

「でも、どの家に逃げ込んだかなんて、いちいち覚えていないわね。」


ほんの少しの間考えていたようで、それから残忍な結論に達した。

「目に入る家や家畜小屋なんかみんな壊しちゃえばいいのよ。」

まさに直感通りの行動だった。


上げ底ブーツを家畜小屋の上に持ち上げ、勢いよく踏み下ろした。

突然強大な力が加わった事で、
家畜小屋の屋根全体に踏む力が広がり、
ペシャンコになって、四方八方に木の破片が飛び散った。

まるで手榴弾が爆発したようであった。

例えこの家屋内に、人間、馬、牛、などがいたなら
そこにいたものすべてが今、死滅した。


キャトリンは、次に農場の近くにある家に集中した。

見たところ、農場の主の家らしい。

「今度は中に人間がいるに違いない。」

誰かに向かってというより、独り言のように呟いた。

また例のブーツが、家の真上に来て動きを止めるのだ。

ただし一気に踏み潰したりせず、
キャトリンはじわじわと力を加えていった。

足下で家が変形しはじめるのが感じられた。

梁がたわみ、彼女の体重に耐えかね、ついにぽっきり折れるのが。

「なんだろう。」

家がもう少しで崩れ落ちる
まさにその時、

人間が二人、
表玄関から走り出た。

そこまでだった。
キャトリンの足が方向転換し、ブーツのハイヒールが彼らの真上にきた。

次の瞬間、

踵が地面に打ちつけられ、

二人は自分たちが立っていた地面との間で押し潰された。

「哀れな奴等。」

そうして二、三分もすると、周囲1キロ半ほどにある家は一軒残らずひしゃげていた。

彼女から逃げられた者など一人もいなかったろう。

「うるさい役人達がじきにやって来るに違いない。どうしようかしら。」

何食わぬ顔で家に帰り、体を元の大きさに戻すこともできたし、
そのままそこにいて、やつらを叩き殺すこともできた。

巨大化して人間を殺すのは間違いなく愉快だったが、
もはや彼女にはそんな時間も、その気力も残っていなかった。

キャトリンは自分の家の方向にのっしのっしと歩き始めた。

彼女の家は農家の造りになっていて、そこから5キロと離れていない。

一歩足を踏み出すたびに、彼女は体のサイズを少しだけ小さくしていくのだ。

ついに家に帰り着いたとき、

”身体は普通の大きさになっていた。”

「ふふっ、結構おもしろかったわ。どこに行ったか見られたり、やつらがここにきたりしなければいいけど。ブランドンはまだ学校かしら。そうだ、ブランドン。」

すっかり忘れていたキャトリンは、急いで胸のポケットを覗きこんだ。

”何てことだろう。”

ブランドンも一緒に縮んでいたのは、考えてみれば奇妙だ。

ブランドンは3センチ足らずから、せいぜい5センチぐらいになっていた。

見慣れた作り笑いが彼女の顔に浮かんだ。

と思うと今度はブーツを乱暴に脱ぎ捨て、寝室のドアの脇に立てて置くのだ。

彼女は親指と人差し指で用心深くブランドンを摘み上げ、
ブーツの片足のところまで持っていって、ぽとりと中に落とした。

「今夜はそこにいるのよ。」

大きく声に出して言ったが、ブランドンの応えを期待しているわけではなく、

灯りを消すと、

そのままベッドにもぐりこんでしまった。






あとがき


この、作品の最大のポイントは普段は心優しい人物でも、圧倒的に優位に立てる優れた能力をもつとどうなるのか?

社会的権力や拘束力、職業や経済感、私達をとりまくすべての日常から解放されるなら人はどう変わるのか?

社会的通念、常識は勿論、倫理感、全てからの開放。
“真の自由”これこそが物語の主題に思うのです。
読む人の深層心理に問いかけ、目覚めさせる力を感じさせますね。
主人公、キャトリンの様に。究極の自由の仮想体験。

現在のストレス社会において、究極の“癒し”の作品ではないでしょうか?
「あり得ない」、「馬鹿馬鹿しい」と頭から否定的に考えるのではなく、
もしも、〜だったら〜と想像力を活かし肯定的な考えでご拝読頂く事。
これが、物語を最大限に楽しむ秘訣でしょう。


ぎゅうたろう



投稿者注: - 記 -

1、実在アーティスト名処理。
原文では、実在するアーティスト名と曲名が掲載されていた為、
デイドリー・イン・フレンズの『Man in the garden』『My world』という架空の名前に加工処理。御了承を。

2、単位変換。
和文小説としてより、違和感なく、且つ拝読者が理解し易い為、
本作品翻訳では完全単位変換(英→和、mile、feet→m,cm) 表現を実施しています。
1mile=1609.31m、作品中「約2キロ」と表現。

身長500フィート=身長150メートル(152.4m) 0.3048m/1feet 換算 桁端数切捨て

3、付加表現について
直訳では、狭義表現で状況理解し辛い場面においては、
翻訳者の計らいにより、あえて原文には含まれない表現を
”( )”にて付加表現させて頂いております。
これにより、より迫力あふれる情景描写を実現しています。


以上








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