《 ユイとリエさん 》 第6話

               文 だんごろう
               イメージ画像 June Jukes

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ユイは、自分の分の動きを見つめていました。
そして、何かを思いついた様に、ふっと笑い、ゆっくりと、彼らの進む方向と平行に、四つん這いになっていきます。

逃げている人々は、「あっ!」と声をあげ、足が止まってしまいました。
巨大な彼女が動き、その身体を長々と床に伏せたのです。
ゴールである境界線は、その彼女の顔辺りにあります。
横には垂直に立つ壁があり、そこに行くには、

長々と伸びる巨体
に沿って進むしかありませんでした。

彼女が、顔を彼らの方に向け、話しかけてきます。
「うっふふ、ほら、こっち。ここにこないと助からないのよ」

人々は絶望的な表情を浮かべ、山脈の様に長く伸びる彼女から目を逸らし、ゴールを目指して駆け出しました。

ユイは、身体の傍らを必死に走る人々を見やります。
人々の足の早さに違いがあり、縦にばらけ始め、一番後ろは、怪我をしているらしく、びっこを引きながら懸命に走っていました。
ユイは、その様子を見ながら、彼らを、自分の身体の下で走りさせてみたくなりました。
そして、彼らに、「ほら、早く走って」と声をかけ、片膝を上げて、一番遅いものをその膝で押し潰し、そのまま身体を横にずらし、彼らの上で四つん這いになります。

ユイは、その姿勢で、身体の下を覗き込みます。床に着けている両膝から、ヘソの下辺りにかけて、20人近いちいさな人々が、ゴールを目指して走っています。
彼女の身体の下で走る、そのけな気さに笑いが誘われます。
ユイは、その笑いを口に含み、床に着けている片方の膝を、ゆっくりと前に滑らせます。その膝の下で、小さなものがプツリ、プツリと潰れていく、微かな感触をユイは感じます。

膝で押し潰されて数が減り、残っている10人あまりの人々は、四つん這いになった彼女のヘソから乳房の下に点在し、さらに走り続けています。
彼女は、膝を戻して、片手を浮かせて彼らに伸ばし、後ろを走る者から順に、指先で潰していきます。

ユイの身体の下で、先頭を走っている者がいました。頭上を覆っている巨大な身体を見ない様に、真直ぐに前を向き、駆け続けていました。
後ろから、悲鳴と、ズン!とした衝撃が何回も聞こえました。それが、仲間が潰された瞬間だと直感しました。でも、振り向くことはできません。ただ、恐怖の中、前だけを見て、走るしかなかったのです。

その彼の目にフロアーのつなぎ目が見えました。そこがゴールです。もうすぐです。
その時、彼は頭上から迫るものに気づきました。さらに、彼女の声が聞こえます。
「もうすぐゴールなのに、残念よね」

彼は、ゴールを目前にして、迫るものを見上げてしまいました。


それは、巨大な彼女の指先でした。

彼の体よりも遥かに大きなその指先が、彼を押し潰すために降ろされていました。彼は、上空の彼女の顔に向かって、声を張り上げました。

「も、もう、ゴールなんだ!もう、ゴールなんだ!た、頼む!頼む!見逃し・・・」
でも、彼は、言葉を最後まで言うことができずに、上から圧し掛かるものに絶叫してしまいました。

ユイは、自分の分を全て潰し切ってしまいました。
物足りない思いでリエを振り返ると、彼女はユイと同じように四つん這いになり、指で小さな人々をもてあそんでいます。

***

リエは、先ほど、逃げ出している人々の流れを止めるためにサンダルを踏みつけ、彼らをそこに踏み止まらせました。
そして、そこから逃げようとするものを爪で弾いて悲鳴をあげさせ、その悲鳴に耳を傾けていました。

罪もない人たちに悲鳴をあげさせて嬲り殺す。それは、今までの彼女の経験にはないことでした。
そして、それはとても背徳的でした。
サディスティックな気持ちで心が満ちました。
あそこが、ジュッと潤ってくる想いがしました。

やがて、20人近い、怯えきった彼らは、まったく動かなくなりました。
リエは、それを見下ろします。たぶん、その内の5,6人は、指で弾いた時に殺してしまったと思いましたが、残りは、まだ生きていると思えました。

蹲っている、1センチの身長の彼らは、数ミリの大きさにしか見えません。
リエはその小ささを見下ろし、少し散らばっている彼らの中に、二本の指、人差し指と中指を降ろしました。
そして、その指先で歩くように指を交互に動かしていきます。蹲る小さなもの達の間を歩く二本の指が、巨人の足の様に見えました。
リエの喉が、抑えた笑いで、クックックと鳴ってしまいました。彼女の心は、罪のない人々を嬲る快感で溢れていました。

リエは、蹲る一人の横で、指の動きを止めます。その小さなものが、傍らに聳える彼女の指を、恐怖で見上げていると思えました。
彼に、囁く様に声をかけてあげます。「うふふ、どう、怖い?」
蹲り背中を上にしている小さなものに指を近づけ、その背中に爪の先を軽く押し付けます。悲鳴があがります。さらに爪を押し付けると、一段と大きな絶叫の後、何も聞こえなくなります。
指を上げると、その小さなものは、腹部辺りで圧断され、上半身と下半身の二つに分かれていました。
その横にも、怯えた様子で蹲っているものがいます。リエは、それに、「次は、あなたの番」と囁いて、その上に指先を降ろしていきます。

丁度その時、リエは、ユイの声を聞きました。
「リエ、まだ残っているの?私、もう、全部使っちゃったよ」
リエは、ユイが横に来て、四つん這いになっていることに気づきます。

リエは、ユイが小さなものを、どう、残酷に扱っていくのか見たくなります。
指先で軽く触れていた小さなものを爪の先で立たせ、そのまま爪で押して、ユイの方に向かって歩かせます。それは、嫌がる素振をしていましたが、抵抗できないまま、歩かせられていきます。

リエが手を引きます。歩かされた小さなものは、ユイの床に着いている手の平の近くで、怯えた様に立ち尽くします。

ユイはそれを見下ろし、何かを思いついた様に、クスッと笑います。
そして、片手を上げて、その彼の前に、爪を下にして人差し指を降ろし、声をかけます。
「さぁ、指に乗って」
小さなものは、その指におどおどと登ってきます。

ユイは、その指を、リエの顔の前に持ってきます。
リエの目に、指に乗る、四つん這いになっている小さなものが見えます。それに、顔の近くなので彼の声も聞こえます。

リエは、ユイに声をかけます。
「ねぇ、この人、『助けて』って言っているよ」

ユイは笑いながら言葉を出します。
「うっふふ、助けない。・・・それより、リエにイリュージョンを見せてあげる」

「イリュージョン?」

ユイは、笑いを抑え、もっともらしく声を出します。
「そう、彼を消し去ってみせます」
直後、ユイは、リエの顔の前に浮かせている人差し指に親指を重ね、その指を強く擦り合わせます。そして、指を開き、言葉を出します。「ほら、消し去りました」。
そこにいたものは、彼女の指の皮膚にすり込まれてしまったらしく、何も残っていませんでした。
リエは、「ユイ、上手。手品師みたい」と笑います。
ユイも、「イリュージョンって言って」と笑います。

リエは、このことが印象に残ったらしく、後年、彼女の夫である達也に、初めて縮めた人々を見せた時に、ユイがやった様に、彼の目の前で、指の間で小さな人をすり潰して見せています。

お笑いが収まったリエは、指で、蹲る一人をユイの方に弾いてやりました。
ユイは、自分の近くに転がった小さなものに爪を押し付け、悲鳴をあげさせながら、思い出した様に話しかけます。
「ねぇ、今日、晩御飯、何、食べよう?」

リエは、その言葉で、先ほど、達也に言われたことを思い出しました。今日の晩御飯はユイと一緒に食べることになっていました。
リエも小さなものに爪を押し付け、悲鳴を上げさせながら、返事をします。
「そうねぇ、中華なんてどう?」

ユイは、爪の下にいる者を、そのまま潰しきって答えます。
「中華・・ねぇ・・・あっ!ステーキじゃだめ?最近、良い店がオープンしたのよ」

「ステーキ?そう言えば、最近、食べてないなぁ」
リエは、そう話しながら、悲鳴を上げさせていたものを押し潰してから、ユイの方に、また一人、弾いてあげました。

ユイは、転がってきた小さなものに爪を乗せながら、話します。
「そうかぁ、お兄ちゃん、草食だものね。お兄ちゃんと一緒だと肉を食べること、ないでしょ?」

リエは、ユイの言葉を聞きながら、爪先を、次のものに移しました。すると、その小さなものが立ち上がり、両手を振り回して、その爪に殴りかかってきました。
リエには痛みどころか、殴られている爪に何も感じません。
その小さなものに顔を寄せます。彼は、必死に彼の体の数倍もある爪を殴っていて、すぐ頭上に来ている彼女の顔に気がつきません。
リエに彼の声が聞こえます。「ちきしょう! ちきしょう! ちきしょう!」
若い男の様です。泣きじゃくりながら、声を出し、必死に両手を交互に繰り出していました。
リエは、その小さなものの懸命な素振に、小さく「ふふ」と笑ってしまいます。
彼は、リエの笑い声に驚いた様子で、頭上を見上げます。そして、「あっ!あっ!あっ!」と意味不明な声を漏らし、後ずさりし始めます。
リエは、彼が必死に殴りつけていた指を持ち上げ、その指先で床を軽く叩きます。床が振動します。転がった小さなものは慌てた様子で立ち上がり、逃げ始めます。
その彼を、指で追いかけ、その小ささものの後ろで、指先で床を叩いて転ばします。
それを続けながら、ユイに声を出しました。
「そう、そう、でも、ダイエットになるしね。達也さんといると太らないから良いの」
その言葉で二人は笑います。

ユイは、散々、悲鳴を上げさせていた爪の下の小さなものに、力加減をコントロールして最後の絶叫をさせてから潰しきり、話しました。
「でも、たまには、肉を食べなきゃ。だって、私たち・・・」ユイは、そう話しながら、リエが指で追いかけているものに顔を近づけ、「肉食だぞ! ガォォー!」と声を出し、その小さなものを舌で掬い取る真似をしました。

リエが声を上げて笑い出します。ユイは、ふざけて、小さなそれを本当に食べてしまおうかと一瞬思いましたが、やはり、虫を食べるみたいで汚さがイメージされてしまいます。
食べる代わりに、口の前にいる小さなものに向け、息を強く吹きかけます。弾けとんだそれは、宙を飛び、転がり、1メートルぐらい先で、動かなくなりました。

リエは、ユイに向け、次のものを爪で軽く弾いてあげます。
そして、可笑しそうに声をだします。
「うっふふ、そうよね。私たち、肉食系だもんね。たまには、肉、食わなきゃね」

ユイは、自分の所にきた、ちいさなものに爪を乗せ、楽しそうに声をかけます。
「その店って、ビルの最上階ですごく夜景がきれいなのよ。それに、美味しいし。絶対、リエも気に入るって!」
さらに、ユイは、爪で小さなものを一気に押し潰し、「買い物もしたいし。・・・・ねぇ、リエ、もう行かない?」と声を出します。

リエは、ユイの方を向いてニッコリ笑い、その返事を言葉で出す代わりに、残っているものをまとめて潰すことで示そうとして、彼らの上に手を持ち上げました。

7,8名の蹲っている者たち、上空に轟いている言葉で、最後の瞬間が訪れることを理解し、すぐに、彼女達の顔を見上げ、必死の命乞いを始めました。
「た、助けてください!お願いです。助けてください!」
全員で、声を張り上げます。
ですが、彼らの命乞いを無視する様に、彼らの頭上は巨大な手の平で覆いつくされてしまいます。

そして、その手の平が、彼ら目掛けて降りてきました。

リエは、手の平で、残っているものを押し潰しました。そして、立ち上がりながら、埃を払う様に、手を軽く叩きます。
横では、同じように、ユイが立ち上がって、手を払っています。

リエは、ユイに明るく声をかけます。
「さぁ、行こう!」
ユイはリエに向かって笑いながら頷き、「まずは、バックを買うでしょ・・」と、買う物を話し始めました。

彼女達の足元に広がる床には、潰れた小さな塊や、赤い小さな染みが点々としています。所々に、不自然な方向を向いた四肢を動かして、床を這っているものもあります。

リエとユイは楽しげにお喋りを続け、床に残る小さなものや痕跡に、もう注意を向けることもなく、それらを踏みつけながら部屋を出て行きました。





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