《 ミミちゃん 》 後編

               文 だんごろう
               イメージ画像 June Jukes

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第7話:『気』は、気持ち良いの気?(前編)

連休、三日目。

汚泥の中に沈み込んでいる様な意識が時々浮上し、細切れになって半覚醒する。
混沌とした意識の中に、彼女の顔がうすぼんやりと映し出される。
そこに向かって手を差し伸ばそうとする。だが、体がまったく動かない。
彼女の名前、“ミミちゃん”と呼ぼうとする。だが、口が開こうとしない。
そして、力尽き、また、意識が汚泥の中に沈んでいく。
それが、何回も繰り返され、時間が継続性を失って過ぎていく。

唇に柔らかい感触があった。続いて、口の中が水で満ちた。それをゴクリと嚥下する。開いた目に彼女の顔がうっすらと見える。彼女が口移しで水を飲ませてくれていた。
可愛らしい口が動いている。何か喋っているみたい。でも分からない。おぼろげな意識を集める。
「達也さん、もう、大丈夫だから、達也さん、もう、大丈夫だから」
彼女は同じ言葉を繰り返していた。

彼女は、俺の意識が戻っていることに気付き、窓を指差してそっと声を出す。「ほら、見て、月が昇ったのよ」
部屋の中の明かりは消されたままで、窓には明るく輝く満月が昇っていた。
それを、瞳だけ動かして確認し、彼女に視線を戻す。
既に、次の日の夜になっていた。

月明かりが彼女の顔を照らし、泣き濡れている様な金色の瞳がその光を受けている。俺には言葉を出す力は残っていない。その瞳に向かって、微かに頷くだけで精一杯だった。
それでも意思は通じたみたいで、彼女が微笑んだ。そして、床に膝を着けていた彼女は立ち上がった。
「じゃあ、始めるね。でも・・・二人とも裸にならなければだめなの。それに誤解しないで、私、こういうことをするの、初めてだから」

俺の布団がめくられる。パジャマ代わりにしていたスウェットスーツを脱がされる。下着とパンツが脱がされる。俺は、力が入らない体で、成すがままになるしかなかった。
そして、まったくの裸になった。意識が朦朧としていて、恥ずかしさも感じなかった。ただ、裸になったことだけは分かった。

俺の服を脱がせ終わった彼女は、部屋の隅で、こちらに背を向けて服を脱ぎ始めた。
俺は、見てはいけないのかなぁと思い、目を閉じた。

やがて、彼女の声がした。
「とってもきれいな月。地球のたった一つの月もステキよね」
俺は、その声につられて目を開ける。
月が落とす明かりに、乳房が淡く反射し、彼女の肩までの短めな髪がキラキラと光っていた。そして、瞳が、命の息吹を感じさせる様に金色に輝きを増していた。

彼女は月を見上げ、神に祈るように両手を合わせ、ゆっくりと言葉を出し始めた。
「満ちせし月の光よ、地にいる我の元に来たらん
その優しき光り、我が身と我が心の全てに溢れさせん
 我、その光と一体となり、命の力を愛しい方と共有せり
 そして、我、永遠の愛をここに誓う」

その言葉と同時に、彼女の全身が月の光りの様に淡く金色に輝きだした。そして、ベッドに寝ている俺の顔を見て、ニコッと笑う。
「ウッフフ、変な呪文でしょ。これはね、結婚式の夜の儀式で使う言葉なのよ」

そう話す彼女の全身を眺めていた。丁度、窓を向いている彼女の側面が目に入っている。
華奢な体に、胸の膨らみとヒップの丸みが強調され、月明かりの中に金色に淡く輝く裸は、とてもきれいだった。朦朧とした意識の中で、薄暗い中に彼女の裸だけが存在をしていた。
その彼女が、体をこちらに向けて近づいてくる。そして、ベッドの横で身を屈めて、俺の耳元に甘える様な声で囁く。
「ねぇ、今だけで良いの・・・私のことを愛しいと思って・・・でなければ、うまく『気』を融合できないの」
俺は、『今だけじゃない、未来永劫、君を愛す』と言おうとした。だが、口が動かなかった。ただ、微かに頷くことしかできなかった。

彼女が、俺の顔の上に手を翳した。その手の平が光を帯びてくる。そして、その光が俺の体に吸い込まれていく様な気がした。
「これで、少しは、意識がはっきりとしてくるはずよ」

その彼女の言葉通りのことが起き始めた。拡散し、おぼろげだった意識が、集中されていき、考えがはっきりとしてきた。だが、体は、ピクリとも動かすことができなかった。
だが、はっきりとした意識は強烈に一つのことを思い出した。“セックス!セックス!セックス!やるんだ!やるんだ!もうすぐやるんだ!”

彼女が俺の上に乗ってくる。俺の胸に、彼女の胸がグニュっと押し付けられる。彼女のふくよかな胸の柔らかさを感じる。すぐに、唇が塞がれ、彼女の舌が、俺の口の中に入り、舌を絡めてくる。さらに、彼女の手が俺の下半身に伸びてくる。その手が俺の物に触れる。
“いよいよ!いよいよ!セックス!セックス!セックス!”
気持ちが高まってくる。だが、いくらそれに集中しようとしても、力がそこに入っていかない。

「ねぇ、達也さん、だめなの?・・・できなければ・・死んじゃうの・に・・」
彼女は、そう言葉を出し、その華奢な手で、さらに俺の物を優しく揉みほぐす様に撫でていく。
“かんばれ、俺!がんばるんだ、俺!、生まれて20年、初めてのチャンスなんだ!”と、俺の気持ちはどんどん焦っていくのに、意識だけの体ではどうしようもなかった。

彼女の顔が、仰向けの俺の顔の上にくる。
「だめな達也さん・・・・どうしよう?・・」
俺は、言葉を出そうとした。だが、言葉を出す力はなかった。
「そうねぇ・・・ねぇ、あなたを縮めても良い?私達、物の大きさを変える力を持っているの。だから、『気』をあげるために、あなたを縮めて、あそこに入れることができるの」
彼女は信じられないことを言い出した。
“俺を縮める!?あの中に入れる!?”

急に、彼女の金色の瞳の輝きが増した。そして、俺の目を覗き込んで悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「私の星では、男の人を縮めて、あそこに入れることは禁止されているの。だって、あそこでベチャって潰しちゃうかも知れないでしょ。だからやってはいけないことになっているのよ」
さらに、彼女は俺の顔から視線をずらし、窓に映る月を眺めながら言葉を続かせる。
「でも・・・ねぇ、女の子は内心、みんな、それをやってみたいと思っているの・・・それにここは、旅先で私の星じゃないから・・・それができちゃう・・・」
そして、彼女は「ウフ」と笑い、視線を俺の顔に戻して話しかけてくる。
「ねぇ、こういう場合、ここでは、『旅の恥はかき捨て』って言うんでしょ?」

俺は焦った。そんな無責任な言葉をここで出さないで欲しかった。元はと言えば、彼女が持ってきた病原菌が原因じゃないか。その言葉通りだったら、縮められた俺は彼女の好奇心を満たすために使われ、最後に旅の恥としてかき捨てられちゃう・・・!
違う、絶対に違う。なんだっけ、鳥がらみで適切な言葉があったはずだ。**鳥、**を汚さず・・・みたいな・・・『焼き鳥、皿を汚さず』・・・だたっけ?
適切な言葉が思い出せず、俺は無性に腹立たしくなり、全精力を唇に集め、言葉を放った。
「いやだ・・・」
だが、そこで力尽き、その後に言葉は続かなかった。

彼女は、その俺の声を聞きつけ、「『いやだ』って言っても、あなたはこのままでは確実に死ぬのよ」と言い、さらに、俺の下半身のフニャフニャの物をさわり、言葉を続けた。
「ほら、だめでしょ。ウッフフ、どう、私の中で『気』をもらってみない?」
“何で、楽しそうにそんなこと言うのかなぁ。『ウッフフ』じゃないだろう。せめて笑わずに言ってくれよ”そう思ったが、まともに声が出せない状態では抗議もできなかった。
だが、どちらにしても、俺は、究極の二者択一を迫られていた。『このまま成すべきもなく、猿のおケツ病と言う恥ずかしい病気で死んでいく』か、『縮んだ体で彼女のあの中に入り、潰れるか、それとも『気』をもらって助かるかに賭ける』、そのどちらかの選択だった。だが、選択肢は初めから決まっていた。助かる方に賭けるしかなかった。俺は、彼女に向かって、“分かった”と、目で頷いた。

それに気付き、彼女が声を出す。「そうよ、それしかないのよ。でも、良かった。決心してくれて」
さらに、俺に軽く口付けをして「達也さん、楽しんでね。私も思いっきり楽しむから」と笑った。
だが、俺にはそれを楽しめない様な気がした。そして、それ以上に、彼女にあまり楽しんで欲しくなかった。特に、『思いっきり』は止めて欲しかった。
彼女は、さらに、独り言を言う。「友達に自慢しちゃおうっと。地球の男を縮めてあそこに入れたって」
俺の頭の中に、星に帰った彼女が友達に向かって、『地球でね、猿のおケツ病の男を縮めて、あそこの中でヒネリ潰しちゃった』と、楽しげに話している姿が浮かんでくる。周りの彼女の友達も、『そうよね、お猿のおケツ病の男なんか、潰して当然よ』と笑っている。そのイメージが暗く心に圧し掛かり始めた。

だが、そんなイメージに耽っている場合じゃなかった。彼女は、俺を縮めるサイズを考え始めていた。
「どのくらいに縮めちゃおうかなぁ。初めてだし、大きいと痛いでしょ?」
“それを俺に聞くなよ。少しくらい痛いのは、この際、我慢しろよ”そう言いたかった。だが、言葉は出ない。
「そうねぇ〜、これくらいが良いかな」
彼女は、俺の目の前に指先を持ってきて、その大きさを示した。その手の親指と人差指の間は1センチも離れていない。“やばいだろ!そんなに小さけりゃ、確実に俺、潰れちゃうだろ!”
俺はその瞬間、あそこがガバガバで、大きな物でも楽々入ってしまう中年のおばさんに憧れてしまった。

「でも、こんなに小さくしたら、入れた途端にどこかになくなっちゃいそうだし・・・だけど、痛いのも嫌だし・・・そうよね、いくら人助けって言っても、痛いのは・・・」
俺は、“そこを何とか!お願いします!そこを何とか!お願いします!”と、心の中で何回もお願いをした。
彼女は、俺の顔をチラッと見て、「・・・・よし!決めた・・・・ウッフフ」と声を出した。
“決めちゃったの!?で、どのくらい?どのくらいの大きさなのよぉ?”
彼女は、その大きさを俺に示していなかった。俺は、とても不安になってくる。それに、彼女、『ウッフフ』と笑っちゃてるし・・・・不安は増すばかり。いったい、俺、どうなっちゃうの?


第8話:『気』は、気持ち良いの気?(中編)

俺は、ベッドに寝ている。意識はしっかりとしているが、動くことができない。
彼女は、ベッドの横に立っている。二人とも全裸。
彼女の体は、金色に淡く光っている。そして、瞳には金色の輝きがある。

彼女は、両手を前に突き出し、手の平を下に向ける。その下に、丁度、俺のお腹がある。
そして、そのポーズで俺に話し出した。
「ねぇ、地球にハムスターって動物いるでしょ。私の星にも同じ様な生き物がいて、子供の頃に、そのオスとメスを飼っていて、そのうち、赤ちゃんが生まれて・・・思い出しちゃうなぁ、とっても可愛いの、その赤ちゃん。手の平に乗せると、ヨタヨタしながらそこを這うの。こんなに小さいのよ」
彼女は指で大きさを示した。3センチぐらい?4センチはない様な気がした。
「私の小指よりも小さくて、とっても可愛いの・・・・・」
話しながら、彼女の全身が輝きを増す。俺を縮めるための力を蓄えている様子だった。

俺は、彼女に、赤ちゃんじゃなく、せめて、その親の方を思い出して欲しかった。
だが、その俺の想いに関係なく、下に向けられている彼女の手の平から、金色の光が毀れ、俺の身体に注がれ始めた。
途端に、シーツの上で、体が中心に向かって滑っていく感触が起こる。見えている周りのものが遠ざかりながら大きさを増していく、不思議な感覚が起こる。
俺は、その感覚に耐えられず、思わず目を閉じてしまった。

***

「ウッフフ、カワイイ!」
拡声器を通した様な彼女の声が聞こえ、俺はそっと目を開ける。途端にハッ!とする。見慣れている自分の部屋の天井がなくなり、視界全てに巨大な物が入っていた。さらに、そこに二つ、金色に輝くものがあり、驚きの中で、それが彼女の顔だと分かった。
彼女は身を屈め、小さくなった俺を覗き込んでいた。さらに、彼女が体をおこしたらしく、彼女の顔が遠ざかり、代わりに、斜め上空から、淡い光を出すものが近づいてくる。
俺は、それに視線を向ける。それは、『彼女の手』だった。その指が広げられ、二本の指が俺の身体の両側に降りてくる。そして、その指が俺の身体を挟もうとする。
俺は、迷路の様にくっきりと指紋がついている、その指の巨大さに愕然とし、さらに、おれ自身が、彼女の指で簡単に摘まれてしまうぐらい小さくなっていることに唖然とした。
俺の体は、その指に挟まれる。一瞬、虫の様に潰されることを思い、恐怖が湧いた。だが、巨大な指に胸から下が挟まれ圧迫されたが、まったく息ができない程ではなく、少しホッとした。

そのまま、体が持ち上げられ、上空にある彼女の顔に近づけられていく。彼女はニコニコ笑っている。その顔だけ見れば確かに可愛いのだが、その大きさは決して可愛くはなかった。
俺の目の前に、彼女の大きな瞳がくる。俺は、彼女の顔の前に運ばれていた。

「少し、縮めすぎちゃったかなぁ・・・でも、やり直しは面倒だし・・・」そう話した彼女はクスッと笑って、俺の顔を見ながら「ごめんね」と声を出した。
“そんなぁ、『ごめんね』じゃないだろ、縮めすぎちゃったら、やり直すべきじゃないの!”俺は切にそう思った。だって、さっき彼女が示した大きさは、3センチはあったはず。それでも“小さすぎる!”と思っていたのに、今、俺の体を挟んでいる指と比べると、全然その大きさではなかった。せいぜい2センチって所だ。この大きさの違いが生死を分けることだって充分ありえる。
“やり直して、頼む、やり直して!”俺は、そう思い続けた。だが、そんな俺の思いは無視され、彼女の話しは次に進んでいる。

「ねぇ、達也さん、女の子の身体って、急に男の人を受け入れることができないの。ちゃんとその準備が必要なのよ。分かる?」
その話しの最中、周りの景色が回転していく。彼女が、俺の代わりにベッドの上に乗ろうとしていた。
やがて、その動きが止まり、彼女の顔の後ろに見える景色で、ベッドに体を乗せた彼女が、そのボードに寄りかかったことが分かった。
その姿勢で、彼女が声をかけてくる。「その準備に協力して欲しいの」
“準備って何?”俺には、彼女の言っていることが理解できなかった。

「恋人だったら、当然のことをするだけよ。先ずは、キスをするでしょ」
そう話し、彼女は、俺を唇に近づけていく。形良い唇。だが、俺の体よりもでかい。その巨大な唇の中央に俺の顔は押し付けられる。さらに、俺の頭から胸にかけて、弾力がある唇に挟まれる。途端に息苦しくなる。

俺は、直ぐに唇から離され、下に向かって移動させられる。
「次は、胸を触って」
彼女のその言葉と同時に、視界に山の様に大きな胸が入ってくる。それは憧れの巨乳。だが、これだけ大きいとさすがに引いてしまう。
右胸の乳首が近づいてくる。乳首は、俺の上半身ぐらいの大きさはある。それに、顔がギュッと押し付けられる。
苦しい!その苦しさで、両手でその乳首を離す様に押した。だが、その努力はまったく効果がなく、顔がゴリゴリと押し付けられていく。ただ、その苦しさの中でも、“えっ?動いた!”と、自分の手が動いたことに驚いていた。さらに、足に力を入れてみようとしたが、まったく反応がなかった。下半身側はまったくだめだった。
両手が動く様になった理由は良くは分からなかったが、体を縮められた時に彼女から送られたエネルギーに関係していると思った。

「次は、あそこ・・」
その彼女の言葉と同時に、俺の体は胸から離され、彼女の体の上を運ばれていく。眼下にへそが見え、次に、淡い色をした陰毛が見えてくる。
その陰毛が途切れた所で、動きが止まった。そこには、俗にクリトリスと呼ばれる物があるはずだった。そして、そこから下側に、複雑な肉ヒダが続いていた。
上空から、彼女の声がする。「やだ!恥ずかしいから見ないで」
俺は、彼女の顔を見上げる。彼女はそう言いながらも、その恥ずかしい場所と、その直前で指に挟んでいる俺を、目を光らせて見つめていた。

「ねぇ、お願い、そこにキスをして」
その言葉の直後、俺は、彼女の肉ヒダに押し付けられた。顔がムニュっと圧迫される。
正直に言えば、俺は、その時、興奮し始めていた。確かに、ありえないぐらい巨大な陰部だが、そこは初めて見る女性のあの部分であり、さらに、彼女は宇宙人でも可愛かった。その可愛い彼女のあそこを見せ付けられ、俺の男の本能が目覚めたのだ(ただ、相変わらず下半身側には、俺の想いは伝わっていなかったが)。それに、彼女にやられっ放しは我慢できなかった。せっかく両手が動く様になっているのに、これを使わない手はなかった。
俺は、押し付けられている顔の周りの肉ヒダに手を伸ばし、そこを弄っていく。彼女が感じているのか、顔が密着されている部分が隆起してくる。俺は、それが例のクリトリスだと直感した。そして、そのクリトリスを両手で抱える様にして、自分から顔を押し付けた。彼女が「うっ!」と声を出す。
クリトリスを覆う皮膚を左右に押し広げて敏感な部分を露出させ、さらに、その先端に唇を押し付け、何とか動く舌でベロベロ舐め始めた。

彼女が声を出す。「うっ、うそ、な、何、してるの・・うっ・・・ねぇ、何してるのよ・・・うっう・・なに?なに?・・」
彼女は感じてきていた。クリトリスは、俺の頭よりも大きくなり、さらに充血して硬くなる。俄然ハッスルした俺は、そこに力の限り両手で抱きつき、その先端に唇を押し付け、舌で舐めまわしていった。彼女の吐息が途切れ途切れに続いていく。
“どうだ!気持ち良いか!ざまあみろ!”俺は、彼女を征服した気分になる。
だが、直後、俺は絶叫した。気持ちが高まった彼女が、俺を挟む指に力を入れてきたのだ。俺は、瞬間、その指に体が強く挟まれてしまった。
直ぐに、彼女は指に力を入れてしまったことに気付き、慌てて、顔の前に指を持ってきて、俺の様子を窺った。

「大丈夫?ごめんね、気持ち良過ぎてつい力が入っちゃった。でも・・ウッフフ、それって、達也さんのせいだからね」
俺は、ゼイゼと息をし、胸の痛みに喘いでいた。ひょっとしたら、肋骨が2,3本、折れているかも知れない。
彼女は、その俺の痛みにお構いなしに、「ちょっと待って」と声を出し、何かをし始めた。少し、間があって、彼女の左手の人差し指が(俺は、彼女の右手に挟まれている)、下から上がってきて、俺に近づけられる。
その指先を見て、彼女が声をだす。「ね、濡れているでしょ。これで準備完了ってこと」
俺は、ようやく準備の意味が分かった。そして、次に行われることが思い付き、ハッとした。彼女の指のほんの少しの力で肋骨が折れてしまう様な体で、あの中に押し入れられるのだ。
「やっぱ、無理!やっぱ、無理だよ!」俺は、力の限り声を出した。だが、なんとか出たその声はあまりにもか細く、巨大な彼女の耳に聞こえる様なものではなかった。
彼女は『ウフ』と笑うと、「じゃあ、達也さん、行ってらっしゃい!がんばって!」と声をかけ、俺を摘んでいる手を股間に向けて動かした。


第9話:『気』は、気持ち良いの気?(後編)

俺は、彼女の股間の直前に、指で挟まれている。俺の両側には、淡く輝くむちっとした太股が丸みを持った双璧をなし、正面には、あの部分がさらけ出されている。
目の前に広がる光景はその巨大さで現実性が欠けているが、両側のすべすべの肌の太股にしても、縦に溝が入っている正面のあそこにしても、とてもキレイなものの様に見えてしまう。
以前にインターネットで、女性のあの部分を見たことがある。パッカリと口を開いた洞窟の奥では、濡れてテカテカした赤い肌が拉げていて、その周りを囲む様にどす黒いビラビラの肉ヒダがあり、さらに全体をグルリと囲んでいるのは、猛々しいモジャモジャの陰毛って感じで、見ていると、臭ってきそうな思いがした。
あの悪夢の様な映像と、彼女のその部分はまったく違っていた。淡い色の陰毛は、恥骨を覆っているぐらいで全体をグルリと囲んでいないし、少し垣間見える肉ヒダにしても、どす黒さはまったくなく、淡いピンク色をしている。ほんの少し開いているあの部分にしても中はピンク色で、その周りのふっくらとした肌も含めてとてもきれいだった。
もし、俺が通常の大きさだったら、その部分に躊躇なく頬ずりしていただろう。だが、今の俺には、そこは、きれいと思えども、その巨大さは圧倒されるものだった。

彼女が少しトロンとした瞳で上から覗き込み、話しかけてくる。
「恥ずかしい・・・見ないで・・」
そう言いながらも、そこを見せ付ける様に、さらに俺を挟む手を股間に近づける。
アルカリ飲料の様な匂いがしてくる。それに、たぶんフェロモンが含まれているのだろう、頭がぼーっとしてくる。同時に、気持ちが高まってくる。彼女に対する愛しさみたいな感情が湧き起こる。
少し上ずり気味の彼女の声がする。俺に見られていることで興奮している様子だった。
「ねぇ、もう少し、あなたを入れるのを・・楽にした方が良いでしょ?」
その言葉と同時に、空いている方の左手が彼女の陰部に降りてくる。さらに、その中指がふっくらとした割れ目の中央にくちゃっと軽く差し入れる。
俺は、目の前に行われていることに息を呑んで見つめる。
その中指が粘性の液体をまとわり付かせ、割れ目に沿って上昇し、肉ヒダの一番上で止まった。例のクリトリスがある場所だ。
「ね、こうすると、もっと、楽に入れられる様になるのよ」と声を出し、彼女は、そこを中指でネチョネチョと上下に擦り始めた。

さらに、俺の体が運ばれる。「ほら、見て」の言葉と同時に、擦り続ける指の傍らに持ってこさせられた。彼女の指が触れているクリトリスはさらに隆起していて、俺の両手では抱えきれないぐらいに大きくなっていた。彼女は、それを、巨大な指の腹で、ネチョネチョと音を立てて擦り続けていく。
俺の身体は、さらにそこに近づけられていく。彼女はあえぎながら、「いや!・・見ちゃだめ・・恥ずかしい・・あっ!・だめ・・見ちゃ・・」と、言動が不一致している言葉を繰り返す。
俺は、そこから、彼女の顔を見上げた。俺と、指で弄んでいるクリトリスを見詰める彼女の瞳が、遥かな高みにあった。そして、快感に喘ぐ彼女の顔は、表現もないほど魅力的だった。
俺は、その顔に魅せられていった。

さらに、彼女の声が高まってくる。同時に、俺を挟む指の力も強まってくる。このままだと、かなりヤバイ状態になりそうな気がした頃、俺の体は下に向かって運ばれた。
「い、いきそう・・・ね、私の中・・そこ、そこに!」

快感を求める彼女の魅力的な顔、そして、とてもきれいな陰部。おれは、彼女のあそこの中に入れられることに、恐怖ではなく、誇りみたいものをより強く感じていた。
『彼女の(気持ち良さの)ためなら、俺は死ねる』と、実際に死ぬかどうかは別にして、そんな想いで心が満たされていた。

少しだけピンク色の内壁が覗いているあの部分に、俺はべちゃっと押し付けれ、胸までがその中に差し込まれる。粘性の液体で顔が覆われる。
そして、俺の体を挟んでいる彼女の指が離れ、続いて、俺の体を、彼女の指先がギュッと中へ押してくる。彼女の「うっ!」とあえぐ声とともに、俺はさらに奥にぐぐっと入れられた。

ドン!
突然だった。
その瞬間、俺の体を何かが貫き、その貫いたものが体の内側で熱い塊に変わっていく。
そして、それが、『力』となって、体を活性化させ、また、身体の隅々にその勢いが広がっていく。そんな感覚が、俺の体にきていた。
これが『気』!そう思った。

彼女の秘肉が俺の体をギュッと圧迫している。それを感じる。だが、俺の中に入った『気』が体中を駆け巡り、それに耐える力を与えている。
さらに『気』が体に注がれる。高揚しきった意識は暴発している様に拡大され、恐怖にも似た歓喜で体が震えてくる。
『気』は彼女の意識の断片に形を変え、俺の意識の中で光となってスパークする。そして、二つの意識が交じり合っていく。

そして、何故、この行為が結婚式の中の儀式なのか、彼女の先ほどの言葉を理解した。俺は、彼女が生まれた時からの経験とその思いを、コマ落しの映像を見ている様に理解し、同時に、彼女も、俺の意識を共有し始めていた。

俺は、彼女のことが分かっていく。彼女は、彼女にとって異星であるこの地球を研究するために来て、さらにそこに住む人間を観察するために猫に化けた。だが、彼女は体の大きさを自由に変えられるが、実際に猫になれる訳でなかった。例の猫耳風のヘッドキャップと、お尻に付けている尻尾の作用で、体を猫ぐらいの大きさに縮めると、人間には猫に見える様になっていた。そして、彼女は、うちのミミになっていたのだ。

色々なことが、体に溢れる『気』がもたらす快感と共に分かってくる。
俺がこんなに小さくさせられたのは、『気』を送った瞬間に耐性ができるので問題はないと、彼女が思っていたからだった。でも、その根拠を知って俺は唖然とした。彼女が『私が失敗をするはずがない』と思っていただけだった。俺はよく助かったと、自分のことながら、運の良さを感じてしまった。

さらに、彼女の星にいる恋人のことを知り、その彼と、将来の結婚を誓い合っていることを知った。だが、その瞬間、とんでもないことに気付いた。

−止めろ!止めるんだ!だめだ!こんなことしちゃだめだ!
俺の意識と融合している彼女の意識に、慌てて、そう言葉を告げた。

−分かっちゃったの?でも、止めちゃったら、あなたは死んじゃうのよ

−だが、乙女は純潔を大事にするもんだ

彼女の星では、結婚式の晩にこの儀式をする。そこで、お互いに『気』をやり取りして、お互いの全てを理解し合う。結果的に、自分の過去が全て相手に分かってしまう。そのため、男女ともに純潔であろうとする。それが、彼女の星の人々の生き方だったのだ。
だが、今の俺たちの行為は、その純潔を失うものだった。それは、彼女の星で待っている、普通の常識を持っている『彼』には許されないことだった。
そして、彼女は、『彼』のことを諦めてまで、俺を助けていた。それが、俺にわかってしまった。

−達也さんは私の命の恩人。それにとても優しい人。大丈夫、私、後悔しないから

俺は、彼女に向かって、“止めろ!”と叫び続けた。だが、その俺の意識は、彼女の意識に飲み込まれ、つながり一つになり、さらに、拡散し、瞬時に一点に収縮し、混ぜ合わされ、より強く結合してしまう。
何も考えられなくなっていた。肉体的な結びつきよりも、より強固な『愛』の快感に溶け合っていった。


第10話:待ってくれ・・・ミミちゃん!

連休、四日目。

俺は、目を開けた。窓の外には、太陽の光が降り注いでいた。
「ミミちゃん!?」
次の瞬間、跳ね起きた。体は元の大きさに戻り、胸の痛みもなく、さらに、動けるまでに回復していた。直ぐに、狭いベッドの上に二人で乗り、横に裸のままの彼女が寝ていることに気付いた。
彼女は、背中をこちらに向けて寝ている。その背中に俺は抱きつき、彼女の淡い色をした髪の中に鼻先を入れた。良い匂いがする。
さらに、彼女の背中から手を前に回し、彼女の大きめな乳房に手の平をあてる。何だか、とても安心した気分になれる。このまま、永遠に時が流れていってくれることを望んだ。そして、彼女の背面に俺の体を密着させ、そのまま、また眠りの中に落ちていった。

次に目を覚ましたのは、既に夜になってからだった。部屋の明かりが灯っていて、窓にはカーテンが掛かっていた。そして、彼女は部屋からいなくなっていた。
「ミミちゃん!?」
とても、悪い予感がした。裸のままだったので、慌てて服を着ようとしてベッドから降り、机の上に紙が広げられているのに気付いた。
それは、彼女からの手紙だった。



達也さん
私は、星に帰ります。
たぶん、あなたも気付いている様に、「気」をあげてしまった私は、
人間の大きさで長くは留まれないの。もうすぐ、私の本来の姿に戻ってしまう。
その姿を、あなたには見られたくないから、私は帰ることにします。

大丈夫よ。私のことは心配しないで。
その内、こんな私を好きになってくれる人もできると思うから。
それに、元々、達也さんの病気は私のせいだから、あなたは気にすることないの。

来年には達也さんが大学に受かることを、
そして、ステキな恋人ができることを祈っています。

じゃあね。
ミミって名前が気に入っている宇宙人より



読んでいる途中で、見えている文字が滲んでくる。
そうだったのだ。本来、この儀式の中で、男女はお互いに持っている『気』をやり取りするのだが、今回は違っていた。俺の命を助けるために、一方的に彼女から注がれていたのだ。そのため、『気』を失った彼女は、能力に異常をきたす結果になっていた。

彼女に、星に帰ってもらいたくなかった。ずっと一緒にいて欲しかった。
彼女は、今、帰るために、どこかで迎えの宇宙船の到来を待っているはずだった。
“そこに行く”俺はそう決めた。もう間に合わないかも知れない。でも、ともかくその場所に行って、『帰らないでくれ、ずっと一緒にいてくれ』と俺の気持ちを彼女に伝えたかった。

彼女が、宇宙船を待っている場所を知るために、俺の中に残っている彼女の意識の断片を探った。あの時、二人の意識は融合し、彼女の全てが分かった気がしていた。だから、今も、落ち着いて意識を探っていけば、それぐらいならば分かると思っていた。
・・時間が経過していく。外を通る自動車の音が聞こえる。もう、彼女との一体感はなくなっていた。とても寂しく、それを実感した。
それでも、意識を探り続ける。そして、何かに突き当たりる。“宇宙船は、彼女がこの星に来て初めて降り立った場所に迎えにくる”それが分かった。次はその場所の特定だった。
残っている彼女の意識に触れようとすると、それはふっと消えていく。あれだけ強烈だった彼女の意識がどんどん希薄になっていく。
“もう、無理なのか”と一瞬、諦めた時、ようやく、どこかの景色が薄ぼんやりと見えてきた。その景色は夜中の町中だった。それは、彼女が、深夜に降り立った時に見た光景だった。
駅前のロータリーの様だった。広場を囲む様に低めのビルが立っている。俺はハッとした。記憶にある隣町だった。そして、駅名が書かれた看板が見えてくる。
“そうだ!やはりそうだ!隣町の駅前ロータリーだ!”

俺は、慌てて服を着て、階段を駆け下り、ズックを引っ掛けて外に出る。
自転車に乗ろうとして、俺の自転車はもうずいぶん前にパンクしたままだったことを思い出し、直ぐにお袋のママチャリに飛び乗り、ギコギコ漕ぎ出した。

俺の住んでいる所は、山の傾斜を区画整理した古い分譲地で、その緩い斜面を登り、さらに頂を越え、急坂を下った所が隣町になっている。
今、俺は、その頂を目指して自転車で登っている。
ハアハアと息をし、「だめだ!帰っちゃだめだ!」と言葉に出し、自転車をこぎ続ける。
頂を越える。谷あいの隣町の夜景が、落差100メートルぐらいある頂にいる俺の眼下に広がる。さらに視線を、3キロメータ程度離れた駅前のロータリーに向ける。
「あっ!?」
瞬間、俺は驚きの声を上げた。

田舎の駅だが、ロータリーの周りには、5階から10階の建物が立ち並んでいる。そこに、ビルに囲まれ、体育座りをしている彼女の姿が見えたのだ。
本来ならば、当然、そこにいる彼女の姿を見いだせるはずがないのに、淡い色の髪に猫耳風のキャップをつけ、胸の膨らみが強調される服と、猫の尻尾が付いている短パンを履いた彼女の姿が、容易に見つけられてしまった。
体育座りをしている彼女の隣に、窓が沢山ある10階建てのビルがある。だが、その高さが、座っている彼女の肩よりも低いのだ。

そうだった。彼女のサイズは大きかったのだ。彼女の意識と結合した時にそれを知った。だが、ベッドの横にいた彼女は普通のサイズだったから、それを忘れていた。
俺は、彼女の手紙に書いてあったことも思い出し、そして、今の彼女は、その本来の大きさになっていることを理解したのだ。

さらに、街中から、パトカーのサイレンが幾つも聞こえる。かなり、とんでもないことになっているらしかった。
俺の頭の中に、『巨大娘、町に現る!』という、B級映画風のタイトルが浮かび、軍隊と戦う彼女の姿が想像されてしまった。

横を向いた彼女が困った様な顔をした。ビルに囲まれ、彼女の周りの様子が見えないが、彼女が、人間から迫害を受けている様な気がした。
「待ってろ!ミミ!今、助けにいく!」と叫び、急な下り坂を自転車で駆け出した。

ママチャリがガタガタと小刻みな音を立てる。耳元で風きり音がする。
「待ってろ!ミミ、待ってろ!」
坂を下る乗用車を追い越し、カーブで自転車から身を乗り出しハングオンする。だが、曲がりきれない。歩道の縁石に前輪でカウンターを当て、強引に曲がりきる。さらに漕いでスピードを上げる。
手がつけられない暴走族が走っているかの様に、車道の自動車が恐れをなして道をあけた。その間を、チリンチリンとベルを鳴らし、一気に駆け抜ける。

坂を下りきる。そのスピードで駅に続く幹線道路に突入する。だが、数台のパトカーが道路を塞ぎ、その手前の十数名のポリスが「止まれ!止まれ!」と声を張り上げていた。
俺は、慌ててブレーキをかける。耳をつんざくブレーキの音がし、タイヤからの煙とゴムが焦げる匂いが立ち込める。
ポリスが俺に向かって怒号を発する。「通行禁止だ!この先に巨大生物が出現したんだ!こっから立ち入り禁止だ!」
俺もポリスに向かって喚く。「行かせてくれ!行かせてくれ!」
「だめだ!だめだ!」

所詮は権力の番犬に過ぎないポリスにこれ以上言っても無駄だった。だが、何としても、この先に行かなければならない。俺はこういう時の常套手段を使うことにした。
空の一角を指差して叫ぶ。「UFOだ!」

次の瞬間、叫んだ俺がそこで固まってしまった。指差した上空に、平べったいお皿にでっかいプリンが乗っている様な物が夜空に浮かんでいた。それは、正真正銘のアダムスキー型のUFOで、クリスマスのイルミネーションの様に光り輝いて、ゆっくりと回転をしていた。
でかい!でか過ぎる!遥か上空にあるUFOははっきりした大きさは分からないが、町を覆う程の大きさがある様な気がした。
俺の異常な様子を見て、ポリス達がその方向を振り返り、直後、全員で口をアングリと開けて固まってしまった。
そうなのだ。ポリスにしてみれば、巨大娘の次に、今度は巨大UFOだ。あり得ないことの連続に、精神的に追い詰められ、放心してしまったのだ。だが、それは、ここを通り抜けられるチャンスになった。

歩道の端に、スタンドをそっと立てて自転車を置き、ポカンと口を開けているポリス達の間をゆっくりと歩いていく。さらに、さりげなく鼻歌を出しながら、そのまま通行禁止になっている道路を歩き、そこから横道に入り、ダッシュした。

夜の町には、誰一人いなかった。どうやら、辺り一帯の避難が完了している様だった。
時折、パトカーが通る。そのライトが見えた瞬間、物陰に隠れ、パトカーが通り過ぎてから、駅前のロータリーを目指して走り続ける。
巨大な彼女の姿が、進むに従い、家々の屋根越しに見え隠れしながら、その大きさを増していった。

そして、駅前のロータリーに出た。
彼女はその中央で体育座りをし、その周りを遠巻きにして、百名近くのポリスが彼女に銃を向けて取り囲んでいた。遥か上空には、イルミネーションされたUFOが浮かんでいる。
緊迫した場面だった。

俺は、彼女に向かって叫んだ。「ミミちゃん!」
彼女が俺に気づき、ニコッとする。だが、周りの一発触発の状態に殺気立っているポリスにも、俺の存在がわかってしまった。
俺は、直ぐに、ポリス達に取り囲まれ、その内の一人に「こっちに来るんだ!」といきなり片腕を掴まれ、横に止めてあるパトカーに引きずられていく。だが、俺はそうされながらも、声を出し続けた。「ミミちゃん!ミミちゃん!」
直後、上空から声が響く。
「だめ!離してあげて!」

俺はその声に向けて、首を捻り、顔を上げた。彼女が立ち上がっていた。
巨大だった。大きすぎて、その大きさの見当もつかなかった。50メートル以上は楽にある様に見えた。あるいは、70メートルを超えているのかも知れなかった。
立ち上がったことで威圧感は増した、その巨大過ぎる彼女が、下からのライトで暗い夜空に浮かび上がっていた。
「だめよ!その人を離して!」

直後、
ダーン!
その巨大な姿に威圧されたポリスが、恐怖のままに彼女に向けて発砲してしまった。それが、合図になり、彼女を取り囲むポリス達が一斉に発砲を始めた。
俺は、「止めろ!」と叫んだ。だが、俺を引きずっていたポリスから「だまれ!」と言われ、鳩尾を蹴り上げられ、地面に叩きつけられ、さらに倒れてうつ伏せになった俺は、上から押さえ込まれ、声も出せなくなった。
「お前は、あいつの仲間か!?」
背中に圧し掛かられ、腕を絞られ、身動きもできない。その俺に向かってポリスの怒号は続く。「どうなんだ!仲間なのか!?」

俺は、地面に顔を押し付けられ、彼女の姿を見ることができない。辺りに響き渡る連続する銃弾の音で、血まみれになっていく彼女の姿を想像してしまう。
背中の直ぐ上でも銃声がする。俺の上に圧し掛かっているポリスも、俺を押さえつけながら銃を撃ち始めていた。
俺は、何もできない悔しさの中、『止めろ!ミミちゃんを打つな!止めろ!ミミちゃんを打つな!』と籠もった声を出すしかなかった。

「ウッフフ、それがあなた達の武器なの?くすぐったいだけじゃない!」
彼女の声が上空から響いてきた。「今までおとなしく迎えの船を待っていてあげたのに、ねっ、そうでしょ。それなのに・・・何で攻撃してくるのよ!」
俺は驚きと共に、彼女が銃弾を受けても無事なことを知ってホッとした。
横目で、俺を上から押さえ付けているポリスの顔を仰ぎ見る。その顔は、恐怖で引きつり、その銃からはカチカチと金属的な音がするだけだった。彼は、弾切れにも気付く余裕もなく、引き金を引き続けていた。辺りの銃声も散発的になっている。全員が、ほぼ銃を撃ち尽していた。

「それに、私の友達にも乱暴してるし・・・・」
突然、俺の背中の上で叫び声がし、俺は急に身軽になった。

俺は急いで振り返る。彼女が、俺に圧し掛かっていたポリスを指で摘んで持ち上げていた。
彼女の小指よりも小さなそのポリスは、「止めろ!助けてくれ!」と、俺を脅していた時と打って変わって、脅えた様に泣き叫んでいた。

彼女は、そのポリスを拾うために着いていた膝を伸ばしながら立ち上がる。
見上げる目に映る、大きく前方に張り出した胸、そして、その巨大さと不釣合いな印象を持ってしまう可愛らしい顔。
俺は、銃に撃たれても平然としている、彼女のその巨大な姿に、嬉しさを感じてしまった。

彼女は指で摘んでいるポリスをチラッと見てから、さらに、足元を囲んでいるポリス達をぐるりと見渡し、俺に困った表情の顔を向ける。
「達也さん、私・・・、この人達の命・・・奪うことになっちゃった・・・」


第11話:さよなら・・・ミミちゃん(前編)

俺は驚いた。彼女は、ポリス達の命を奪うと言ったのだ。
巨大な存在にそんなことを言われれば誰でもビクつく。一人のポリスがその恐怖に耐えられなくなり、「わーっ!」と叫んで逃げ出した。それにつられてその周りにいたポリスも彼と行動を共にする。
直後、スーン!
地響きを伴う衝撃的な音がし、辺りが地震の様に揺れる。その揺れで、俺も含めて、半数近くのポリスが尻餅をついた。
上空から、声が響く。
「だめ!逃げたら踏み潰すよ!」

彼女が、今踏み降ろした足を上げる。俺は、その下ですり潰されたポリスを想像し、一瞬、「うっ!」と声を出した。だが、ポリス達は、その手前で転がっているだけで、彼女の足の下で踏み潰されたものはなかった。
俺は、ホッと胸を撫で下ろした。

彼女は、動くことができなくなったポリス達を見下ろし、膝を着いて俺の前に手の平を降ろしてくる。
「乗って」
その話す彼女の目は優しげに微笑んでいた。俺は、その手の平によじ登る。乗ってみると、彼女の手の平は10畳ぐらいの広さがあった。
さらに、辺りの景色が下に動いていく。彼女が立ち上がっていた。
その上方向の加速度で、先ほど無理に押さえつけられた時に痛めた脇腹がズキンと疼く。思わず、そこに手をあてていると、彼女がその様子を見て話しかけてくる。
「痛いの?」
「少しだけ」
「さっき、やられたから?」
「そう」

彼女のもう片方の手が、俺が乗っている手の平の上にきて、ドサッと、俺の横に何かを落とした。
「こいつにやられたんでしょ。良いよ、仕返ししても」
それはポリスだった。さっき、俺に圧し掛かっていたポリスを、彼女は俺を助けるために指で摘んでいた。そして、そのポリスを、俺の横に落としてきたのだ。
唖然としている俺に、彼女が言葉を続けてくる。
「ほんとだったら、こいつを縮めてから渡したいんだけど、その能力がなくなってるでしょ。でも、大丈夫。何かあったら、直ぐに弾き飛ばしてあげるから」

彼女の人差指が降りてきて、今にもポリスを弾き飛ばす様にそこに浮く。俺は地面までの落差をみやる。楽に50メートルはある。ここで弾かれたら、間違いなく死ぬだろう。
俺よりも2,3歳、年長に見える彼は、俺と彼女の会話を恐怖の思いで聞いていたらしく、蹲ったまま「ごめんなさい、もうしません、ごめんなさい、もうしません」と繰り返していた。
俺は、彼に仕返しするつもりはなかった。やられた体は痛むが、彼だって職務の上でやったことだ。俺は彼女に向かって声を出した。
「こいつを、地面に降ろしてやってくれ」
その俺の言葉で彼女は「フフ」と、何故か変な笑いを浮かべ、「そう、分かった」と言葉を出し、俺たちが乗っている手の平を地面に着け、そのポリスを指で弾いた。
ポリスは「ヒッ!」と悲鳴をあげ、地面に転がり、そして、そのまま蹲った。
彼女が俺に話しかけてくる。「降りた方が良く見えるから、達也さんも降りて」

俺は彼女の言葉、『降りた方が良く見える』の意味が分からなかったが、その言葉通りに地面に降りた。先ほど弾かれたポリスは、10メートルぐらい離れた所で、蹲ったまま、俺に向かって「ありがとうございます、ありがとうございます」と、命が助かったことを感謝していた。
上空から、彼女の言葉が響く。「ねぇ、地球では、女の人が小さな生き物を残酷に踏み潰すのを見て興奮する男の人がいるんでしょ?・・達也さんも、・・・ウッフフ・・・その趣味だったんだ・・・いいよ、私、達也さんのために、とっても残酷に、こいつを踏み潰してあげる・・・ウッフフ・・・良く見ててね」

俺は、ギョッとして言葉を失った。俺に向かって感謝の言葉を続けていたポリスは、彼女のその言葉で自分の運命が変わってしまったと思い、「止めてください、止めてください」とオロオロし始めた。
彼女の片足が浮き上がり、彼の上に移動してくる。
蹲ったままのポリスは、その足を見上げてしまい、あまりの恐怖にズボンを濡らして、「いや!止めて!止めて!」と泣き叫び始めた。

俺は彼女に向かって大声を出した。「待て!待て!待ってくれ!」
彼女は、ポリスの上に足を浮かせたまま、俺を見下ろす。「あっ、リクエストがあるの?・・ウッフフ・・・少しつま先で弄んでからとか、踵でガツンと踏んでくれとか、かな?・・・いいよ、達也さんの言う様にしてあげるから、言って」
俺は額に浮き出た汗を拭いながら、言葉を出した。「いや、そうじゃなくて、踏むのを止めてくれ!」

彼女は、一瞬、ポカンとした表情を浮かべる。「だって、さっき、達也さんが、地面に降ろして、こいつを殺ってくれって言うから、・・・てっきり、その趣味の人だと思って、・・踏み潰す所を見せて、喜ばしてあげようとしたのに・・・」
俺は彼女の言葉を聞きながら、先ほどの彼女の意味深な笑いを思い出した。「違う、俺は、こいつを地面に降ろしてやってくれと言っただけだ」
「でしょ!でしょ!だから・・・地面に降ろして、こいつを殺るんでしょ?」
俺は唖然とした。意思の疎通がずれていた。「悪かった!俺が悪かった。勘違いしそうなことを言って。言い直す!地面に降ろしたら、こいつのことは終わりにしてくれ」

彼女の顔に突然、怒りが現れ、「分かった!じゃあ、こいつを終わりにしてあげる!」と、そのポリスを踏み潰すために、また足を彼の上に浮かせた。
彼が絶叫する。俺は、慌てて彼に駆け寄る。彼女は、俺のその動きを見て、降ろしていた足を止める。
俺は叫ぶ。「終わりってことは、何もしないことだ!」

彼女は俺を見下ろし、声を出す。「そんなこと分かってたわよ!じゃあ、達也さんは、達也さんに酷いことをしたこいつの命を、奪っちゃだめって言っているのね!」
「そうだ!」

彼女は周りのポリスを見下ろしながら、無言になった。何かを考えている様子だった。
そして、その何かを決心した様に俺に声を掛けてきた。「達也さん、下がって」
それから、彼女は、先ほどのポリスを片足のつま先で示し、周りを取り囲んでいるポリス達に向かって声を発した。
「全員、ここに集まって!」

俺は、彼女に、何か、言わなければと思っていた。だが、彼女の真剣な表情を見て、その切っ掛けを失い、彼女の言葉通りに後ろに後ずさるしなかった。
ポリス達は不安げな様子で、彼女のつま先が示した、そのポリス目掛けて集まってくる。
彼女は両足を広げ、彼らをまたぐ様に立ち、少し離れた位置にいる俺に話しかけてくる。
「能力が消えているでしょ、迎えの船を呼び出すのにも時間が掛かったの。ようやく呼び出せたけど、ここの時間で4時間も掛かったのよ。それまでずっと、この星の人達に危害が及ばない様に、座ったまま動かないでいた・・・のよ・・」
俺は、頭上を見上げた。クリスマスのイルミネーションの様にチカチカと輝いている巨大なUFOが夜空に浮かんでいる。

彼女の言葉が続いている。
「ほんとだったら、能力が消えていたって簡単に呼び出せるのに、この人達が私の周りを囲んで、私の意識と船の波長を合わせるのを邪魔していたの。気持ちを集中しなければできないのに、私が『お願い、静かにして』って頼んでも、拡声器を使って色々と話しかけてきたの」
彼女はそこで言葉を切り、手を腰にあて、広げた両足の間に集まってくるポリス達を見下ろし、「ほら、ぐずぐずしてると踏み潰すよ!」と声をかけ、また俺に視線を戻す。
「だから、4時間も掛かってしまって・・それに・・・ねぇ、宇宙にも法があるの。やられたことはやり返して良い事になっているのよ。いや、むしろ、やり返さなければならないの。この人たちは、私を殺すつもりで武器を使ったわよね。宇宙の法に従えば、この人たちを、このまま放って置くことはできないのよ」
さらに、彼女の足元に集まったポリスを見下ろし、冷たく話した。
「だから、あなた達、・・・私にしたことに対して・・・その命で罪を償うしかないのよ」

俺は、彼女の足先から、30メートルぐらい離れた所に立ちすくんで話を聞いていた。
そのポリスたちに視線を移す。彼女の言葉が彼らを怯えさせていた。絶望の表情を浮かべている者、泣き出している者、日頃の横柄さとは違って、彼らは、いつ踏み潰されるか分からない恐怖の中に陥っていた。

確かに彼女の言うことにも理はある。だが、ここは地球だ。そう簡単に罰は決められない。まして、命で償うと言えば死刑になる。それをそんなに簡単に決めることはできない。
「だめだ!宇宙の法ならそうかも知れない。だが、ここは地球だ!いきなり死刑は、絶対にだめだ!」
俺のその言葉で、ポリスたちは希望の表情を浮かべ、俺に向かって「お願いします。助けてください」と声を出し始める。中には、俺に手を合わせて拝んでいる者もいる。
この人達を助けられるのは俺しかいないと思い、さらに勢いをつけて声を出した。
「だめだ!全員死刑なんて無茶だ!」
彼女は、ちょっと考え、「分かった・・・じゃあ、半分なら、どう?」と折れてくる。
俺は透かさず声を出す。「だめだ!」

俺の決心が固いと見て取った彼女は、俺の気持ちを揺るがせるために、とても可愛らしくニコリと笑い、甘える様に声を出してくる。「お願い・・・三分の一。それなら、ねぇ、それなら良いでしょ?」
俺は、その顔を見上げ『かわいい!三分の一ならいいかなぁ』と思ってしまい、慌てて哀れなポリス達に視線を移す。「だめだ!一人もだめだ!」

彼女は困った表情になり、いきなりしゃがんだ。ポリス達のすぐ頭上に、彼女の短パンに覆われた股間が降りてくる。ポリス達は「ヒッ!」と悲鳴を上げ、その場で蹲った。
そのポリス達を無視して、彼女は、俺の前に手の平を差し出し、「乗って」と声を掛けてくる。そして、俺は、言われるままに、その手の平に乗った。
彼女は立ち上がり、口元に俺が乗っている手の平を近づけ、足元のポリス達に聞こえない様に小さな声で話し始めた。
「ねぇ、処罰は必要なの。何も処罰をしないと、罪を見逃したことで私が裁かれてしまうのよ」
「でも、死刑はだめだ」
「そうね・・・達也さんの気持ちは分かった・・・じゃあ、一人も殺さないと約束したら処罰を認めてくれる?」
「ほんとうに一人も殺さないね?」
「もちろんよ。脅かすだけ」
「君が裁かれるのはいやだ。認めるしかないだろ」
彼女は、ニッコリと笑うと、「じゃあ、私が言うことにちゃんと合わせてね」と囁き、俺を手近にある4階建てのビルの屋上に降ろした。

俺の目線は彼女の膝よりも下だか、それでも、彼女の足元の様子が一望できた。
彼女は、俺に向かってウインクをすると、両足の間で脅えているポリスを見下ろした。
「ウッフフ、達也さんがね、あなた達を殺すことを認めてくれたの。ねぇ、そうでしょ?」と俺に同意を求めてくる。
彼女は、彼らを殺さないことを約束してくれた。だから、彼女に合わせて、「そうだ!皆殺しにしても良いぞ!」と、ポリス達にも聞こえる様に大声を張り上げた。
途端に、ポリス達から絶叫があがる。俺への怒号も聞こえる。その瞬間、彼女が俺をビルの屋上に降ろした理由が分かった。気が立っているポリスの横にいることは危なすぎたからだ。それに、彼らは拳銃を持っている。さっき、散々撃ったので、多分、弾がなくなっていると思うが、やはり危険な存在だった。

彼らの中から、突然、「バラバラになって逃げろ!」との声が上がった。途端に、彼らは蜘蛛の子を散らす様に辺りに駆け出す。だが、彼女の足の動きは早い。彼らのいく手に足をドカドカと踏み降ろして、彼らの動きを封じていく。
「今度、逃げたら、即、踏み潰しだよ!分かったら、さっさと、元の場所に戻って!」
衝撃で転がった彼らは、泣き出しそうな顔で、這いずる様にして彼女の広げた足の間に戻っていく。

彼女の声が、上空から響く。
「さっ、全員、服を脱いで裸になって!」
俺は、彼女の意図が分かった。やはり拳銃は俺に取っては脅威になっている。それを隠し持たせないために裸にさせようとしているのだ。
彼女は、さらに、動きが悪い彼らの様子に、片足を上げ、ズン!と彼らの傍らに踏み降ろし、「ぐずぐずしない!」と声を上げた。
彼らは慌ててヘルメットを外し、POLICEと背中に大きく書かれた防弾チョッキと、編み上げの短ブーツを脱ぎ、さらに拳銃のホルダーが付いたベルトを外してズボンを脱ぎ、最後に靴下、下着と脱いでいき、丸裸になっていった。
彼女はポリス達全員が脱いだことを見下ろして、「ちょっとこっちに来て」とつま先で別の場所に誘導し、「こういう物を持っていたから、罪を背負ってしまうのよ」と、彼らが体から外した物を足裏でジャリジャリと地面に擦りつけた。

ポリス達は丸裸で、うな垂れ、無言のまま、それを踏みにじる彼女の足を見ていた。
彼女が足を上げると、全てが、すり潰された物と、ボロボロの切れ端に変わっていた。
彼らは、自分達の運命を見せられたかの様に脅え、自然に一箇所に固まりだした。
丸裸で脅えている彼らは哀れだった。とても、哀れな存在だった。
彼女は、俺の方を向き、『達也さん、ほら、もう、武器は持たせていないから安心して』と言うかの様に微笑み、頷いた。

さらに、彼女は上を向き、“どうしようかなぁ・・”と、彼らにどう罰を与えようか考えている様子をし、少し間を置いてクスッと笑った。
そして、彼女は膝を着き、芝居がかった悲しげな目をして彼らを見下ろして話し始める。
「あなた達は、悪いことをしてしまい・・・死ぬ運命になった・・・本当に可愛そうな・・・人達なのよね・・・」

俺は、そのワザとらしい悲しげな顔は見上げ、きっと、内心では笑いを堪えるのに苦労していると思った。だが、その顔がとても可愛らしくて、見とれてもいた。
既に死刑宣告を出されてしまった彼らは、その彼女の顔を、恐怖を浮かべて無言で見上げていた。

彼女は、悲しげな表情に少しずつ笑みを交えながら、言葉を続けていく。
「何か・・・あなた達って、丸裸で小さくて、生まれたての子ネズミみたい・・・そう、ネズミのおちびちゃんって感じ。それに、私はネコ。それも、とっても可愛いネコ・・・ねぇ、おちびちゃん達も、私のこと、とっても可愛いって思うでしょ?・・ウッフフ、どうなの、ほんとにそう思うんだったら、手を上げてみて」
彼らは、その言葉に従い、恐怖で縮こまった体で、手を耳の辺りまで上げる。
「だめ!気持ちがこもってない!何でそんな中等半端な上げ方しかできないの、ほんとは、そう思っていないんでしょ?」
直ぐに、彼らは、両手を精一杯上げる。
「ありがと・・・その気持ちが続く限り、ちゃんと両手をあげておいてね」

彼女は、さらに、「ねぇ、ウッフフ・・・可愛いネコの好きな食べ物って、知ってる?」と話しながら、彼らに向けて顔を降ろしていく。
一箇所に固まり、両手を上にしたまま、動くこともできない彼ら。その両手の先、触れるぐらいの近さに彼女の顔がくる。
その近さで、彼女は、「フフ・・・おちびちゃん達、おいしそう」と話し、舌を出して、味見をする様に真直ぐに挙げている彼らの両手を舐めあげていく。途端に、彼らから「ヒッ!」と押し殺した様な悲鳴があがる。

彼女は、俺の方を向き、口元に笑みを浮かべて話しかけてくる。「達也さん、私、この人達、食べたくなっちゃった。ねぇ、食べても良い?」
俺は、こちらを向いた彼女の顔の可愛らしさに、一瞬、ドキリとする。ポリス達に目をやると、両手を上にしたまま体が固まった様に動けず、泣きそうな顔で俺を見上げ、無言で『助けてくれ!』と訴えていた。
俺は、彼らの視線を感じながら、彼女の言葉に合わせ、「ミミちゃん!良いけど、腹を壊すなよ!」と大声を出した。
彼らから声にならない小さな悲鳴があがる。彼女は俺を見てニッコリと笑い「じゃあ、達也さんのお言葉に甘えて、いただきま〜す」と声を出した。


彼女は、恐怖に脅えながらもまだ両手を挙げている彼らの頭上に顔を戻し、如何にもネコっぽく「ミャ〜ン♪」と鳴いた。
それが合図になった。彼らは、一斉に、彼女から逃げる方向にまとまって駆け出した。それを、逃げるにまかせていた彼女は、ネコが獲物を弄ぶ仕草を真似て、体を低くして俺に向けてお尻を持ち上げ、「フー」と声を出し、お尻を左右に振り始めた。
俺の心臓は早鐘を打つ。それは、思わず興奮してしまうセクシーポーズだった。
彼女は、そのポーズで俺を振り向き『エヘッ』て感じで笑うと、「ミャ〜ン♪」と声を出し、逃げ出している彼らに向かってネコの様に軽やかにジャンプをした。


第12話:さよなら・・・ミミちゃん(後編)

逃げる彼らの前方に彼女の両手が、ズン!ズン!と着かれる、慌てて振り返った彼らの後ろ側に彼女の両膝がズン!ズン!と地面に着けられる。
さらに、俺から、彼らが見やすい様に、彼女は四つんばいのまま、体の向きを変える。彼女の両手と両足の間、丁度、胸からお腹の下に、百名近い彼らが立ち尽くしているが見えてくる。
彼女は、体の下にいる彼らを、ゆっくりと舌なめずりをしながら見下ろす。逃げることも叶わなかった彼らは、そこで、悲鳴をあげている。

俺は、勃起していることに気付いた。彼女と一緒になって、哀れなポリス達を甚振っている気持ちになり、それが性的興奮になっていた。

彼らの頭上には、彼女の豊かな胸がある。俺は、その胸で潰れるポリス達を想像してしまう。そして、彼女の大きな胸の下で脅える彼らの姿を見たくて堪らなくなる。
「お〜い!ミミちゃん、胸で!胸で潰しちゃってくれ!」

彼女は、俺を見て『分かった』とニコッリ笑う。そして、上半身を地面に降ろしてくる。
彼女の巨大な乳房が、少し揺れながら泣き叫ぶ彼らに近づいていく。

彼女が俺の方を見て、興奮を抑えられない様に声を出す。「もう、だめ!ほんとに!本当に!おちびちゃんを潰したくなっちゃう!」

俺も興奮の極限状態に追い込まれていた。彼女が、彼らを弄び、そして、その命を残酷に奪うことを願うようになり始めていた。俺は、彼女の傍らに行き、彼女の身体に触り、その一部始終を彼女と共有したくなってくる。
地面に降りたくて見渡すと、ビルの裏側に非常階段があった。俺はそこから降りるつもりで、その非常階段に向かって駆け出した。だが、ズボンの中で元気良くなっているものが邪魔で思うように駆けれない。

その俺の背後で、ズン!ズン!と衝撃が奔った。
すぐさま、俺は振り返った。そして、「アッ!?」と声を出した。
彼女が、俺にヒップを向け、両膝を着いて立っていた。ビルの陰で見えないが、その両膝の間に彼らがいるはずだった。
そして、その姿勢で、彼女がセクシーダンスの様に腰をローリングし始めた。
俺の足は止まる。元いた屋上の端なら、その様子が一望できる。俺は、バクバクし始めた胸を抑えて、そこに戻り始める。

ポリス達が見えてくる。固まったまま、恐怖で動くこともできない彼らがそこにいた。
その頭上では、短パンに覆われた彼女の腰が水平に大きく円を描き、焦らす様にゆっくりと降りてくる。

彼女が、俺を振り向き、興奮した口調のままに声をかける。
「良いでしょ。ねっお願い。もう、我慢ができないの・・・ここで・・」
彼女の指が、短パンに覆われた自分の股間を指差し、さらに言葉を続ける。
「・・・ここで、ほんとうに・・この人達をすり潰したいの!ねっお願い!・・いいって、いいって言って!」
彼女の言葉で、俺の物は、ズボンの中で痛いほど勃起してくる。興奮しきっている俺は、「ウン!ウン!」と強く頷いた。
「ありがと・・・じゃあ・・・良く見てて・・・」

彼女が、さらに両膝を広げる。自分達の運命が分かったポリスは、その股間の下で、恐怖に震えながらも、「助けて!」「止めて!」「お願い!」・・・と、声を出し続ける。
彼女は、そこから彼らが逃げられない様に、両方の手を体の前と後ろに降ろして、手の平で囲いを作る。そして、さらに腰を降ろしていく。

俺は屋上の手すりを握り締め、歯を食い縛って、揺れ動く彼女のヒップを見詰める。
彼女は、下から聞こえる彼らの必死の命乞いの声を伴奏にして、腰をセクシーにくねらせ、さらに下げていく。
地面すれすれになったヒップと、彼らを逃がさない様に地面に着いている手の平で、彼らが見えなくなる。ヒップの下からは、彼らが出す、必死の命乞いの叫びが漏れている。

彼女が俺を振り返り、金色に瞳を輝かせて声を出す。
「ちっちゃな手が・・・うっうう・・・ちっちゃな手が、いっぱい、あそこを押すの・・・ねぇ、達也さん・・・おちびちゃん、潰されないように、必死に・・うっう・・あそこを押してるの!」
彼女は、熱っぽく俺を見つめる。俺は、手すりに抱きつく様にして、自分の中に溢れていく血の濁流に耐える。

彼女は自分の股間に視線を移す。
「そう、そうよ!もっと、もっと、押して!もっと、もっと、私を感じさせて!」
彼女は、そう言葉を出しながら、さらに腰を揺すりながら降ろす。ヒップの下から漏れる叫びは、悲鳴に変わる。俺は、死に向かう彼らの恐怖を、頭の中で強くイメージする。

その時だった。俺の後ろの方から、パラパラと小さな音が聞こえることに気付き、慌てて、振り返った。
「あっ!?」
十数機の軍のヘリコプターがこちらに向かい、低空を飛んでいた。そして、下に向けられたサーチライトの明かりが、地上の家々を次々に丸い形に浮き上がらせていた。

俺は、直ぐに彼女に視線を向ける。彼女は、背後から近づいているヘリコプターに気付かず、「いい!そうよ!もっと押して!」と、ヒップを揺すっている。
「ミミちゃん!ミミちゃん!」俺は、彼女に向かい、声を張り上げた。

「なあに?いい所なんだから、邪魔はやめてよ!」と、彼女は俺を振り返り、さらに近づいてくるヘリコプターに気付き、ハッとした表情を浮かべた。
直ぐに腰を上げた彼女は、後ろを見やすい様に身体の向きを変え、一瞬、心配そうに俺を見下ろしてから、視線をヘリコプターに向けた。
俺は、彼女の股間の下に目を向ける。そこにいる彼らがどうなってしまったか気になり、既にすり潰された肉塊を見ることも覚悟して視線を向けた。
そして、そこに、這いつくばって蠢いている彼らを見て、彼らがまだ無事だったことで、興奮が覚め始めている俺は、ホッと胸を撫で下ろすことができた。

上空から、彼女の独り言の様な言葉が聞こえる。「達也さんが危ない・・」

俺は、彼女を見上げ、声をかける。「戦うのか?」
「こちらから仕掛けることはないけど・・・ここにいたら、間違いなく戦うことになっちゃう」
さらに、彼女は俺に視線を移す。「私は大丈夫だけど・・・でも、達也さんが危険なのよ。だから・・・」
「だから・・・!?」
彼女は、上空で待機しているUFOを見上げ、声を出す。「・・帰る」
ヘリコプターが近づいている。その音が大きくなっている。俺は、それに負けない様に声を出した。「分かった!」

「急がないと。それに、達也さんをここに置き去りにできない・・・とにかく一緒に船に乗って」
次の瞬間、上空のUFOから光りが降り注ぎ、その眩しさで俺は慌てて目を閉じた。そして、その目を開けると、既に、UFOの中に乗り移っていた。

ヘリコプターの爆音も消え、ホッとし、今いる場所に視線をさ迷わせた。
UFOの内部は無機質なものだと思っていたが、実際には女の子らしい部屋の作りになっていて、壁の色は淡いピンク色。床には、その毛足が俺の胸近くまである水色のカーペットが敷いてあり、その上には、船の備品として軽量化され、さらにお洒落な作りにもなっているベッドが置かれていた。ただ、そのベッドは彼女のサイズで、見上げる山の様に大きな物だった。

巨大すぎる室内をグルリと見渡してから、彼女に視線を移す。
彼女は先ほどのポーズのままで、カーペットの上に両膝を着いていた。俺は、その左膝から20メートルぐらい離れた所にいて、駅前のロータリーにいた時と同じ位置関係になっていた。だが、ビルの屋上にいた時は違って、今はカーペットに立ち、彼女の巨大な身体をすっかり見上げる様になっている。
俺は、彼女の大きな胸と、さらに上空にある彼女の顔を見上げながら、今頃、地上では、丸裸のポリス達がホッと胸を撫で下ろしている様を思い浮かべた。彼らの最後が見られなかったことで多少は残念な気もあったが、むしろ、これで良かったと思えた。

“丁度、そこらへんにいたんだよなぁ”と思いながら、カーペットに着いている彼女の両膝の間に視線を移した。
途端にハッとした。なにやらその辺りがザワザワとしていた。さらに、毛足越しに男達の頭が見えた。彼らは、今となれば、ここにいて欲しくない人々だった。
驚いた俺は、そこを指差し、声を上げた。「いる?・・・いる!」
だが、彼女は平然と俺に話しかけてくる。
「そう、いるよ。つれてきちゃったもん。ウッフフ、だってねぇ・・・まだ最後まで楽しんでいないし、バイバイできないわよ。そうでしょ?」

俺は、彼女の言葉「最後まで楽しんでいない」で、彼女が初めに『彼らを殺さない』と約束をしたことを思い出した。
もう一度、その約束を彼女にも思い出して欲しいと思った。だが、それは、彼女に取って、『いまさら』って感じになる。それに、俺自身にもあった気持ちの変化を、彼女に指摘されることにもなりかねない。俺は、彼らを助ける言葉を口にすることができなかった。

「ねぇ、さっき、中断させられちゃったでしょ。その続き・・フフ・・してみる?」
彼女は、そう俺に声をかけると、腰を水平方向に回しながら、彼らの頭上にゆっくりと短パンに覆われた股間を降ろしていく。途端に、彼らは泣き叫ぶ。
彼女は、股間で彼らを潰しきらない様に少し腰を浮かせたまま話を続ける。
「ほんと、楽しい!・・・ゾクゾクしちゃう。それに、この人達、私を殺そうとした凶悪犯なのよ。ウッフフ、だから、何をしちゃってもいいのよね」
話し終えた彼女は、その言葉にどう俺が反応するか探るように口元に笑みを浮かべて見下ろしていた。

その時、彼女のお尻側から、彼らがカーペットの中を、ベッドの下を目指して動いているのが目に入った。俺は、「逃げてる!」と声が出そうになり、慌てて口を塞ぎ、彼女の顔を仰ぎ見た。
彼女は、既にその動きに気付き、腰を上げて、逃げていく彼らを見下ろしていた。
「いいよ、逃げても。カーペットを汚すのはいやだったから、ここで潰す気は元々なかったのよ。後で捕まえるから、それまで自由にさせてあげる。それに、宇宙旅行ってけっこう退屈なのよ。あなた達、丁度良い、暇つぶしになってくれるしね」
そう言って、彼女は謎めいて「ウッフフ」と笑った。
俺は、彼女が暇つぶしに彼らをどうするのかが気になった。それを聞くために、冗談風にして声にした。
「ミミちゃん、ねぇ、暇つぶしに、人つぶし・・・ってこと?」
「あたり!でも、達也さん、それ面白過ぎよ!」彼女は、続けて女性らしい笑い声を上げた。

その響き渡る明るい笑い声に驚き、彼らは、一瞬、彼女を振り仰ぐ。そして、さらに脅え、安全な場所を求めてベッドの下に入るべく、カーペットの毛足の中を見え隠れしながら進んでいく。
俺は、彼らの逃げる先に視線を移し、巨大な建造物の様なベッドを見上げる。だが、不動の様に見えるそれも、彼女が楽々持ち上げてしまうことが容易に想像された。たぶん、それは、彼らにも分かっているはずだった。だが、彼らは、それでも助かることに一分の望みを掛け、脅えきりながらも、そこに進んで行くしかなかった。

彼らの移動する様を、黙って見詰めていた俺の頭上で、彼女の声がした。
「どうしたの、達也さん? あの人達に同情してもだめよ」
俺は、彼らを見詰めたまま、返事をした。「分かってる・・・よ」

軍のヘリコプターから退避するために、一旦、成層圏まで上昇していた船は、俺を家に帰すために下降を始めた。
途中、お袋の自転車のことを思い出し、それを拾い上げてもらう。
同時に自転車の周りにいたポリスが十数名、一緒に船に収容されてきた。
彼らは彼女を銃で撃っていなかった。当然、地上に戻すんだろうと思っていたら、彼女は、ワザと彼らの前に巨大な身体を晒し、彼らに銃を撃たせ、宇宙法に則って処罰の対象に加えてしまった。そして、彼らは丸裸にさせられ、ベッドの下に逃げ込んだ仲間達と合流することになった。
彼女に言わせると、「オミヤゲにもなるし、数が多い方がいいのよ」とのことだった。

船は、我が家の上空に移動していた。
いよいよ、彼女とお別れの時が来た。

俺は、彼女の手の平に乗せてもらい、彼女の顔の前にいる。
「ミミちゃん、ここに、ずっと、いて欲しい」
「だめ、それは無理。この大きさのままでは無理よ」

「もう、会えないのか?」
「能力って、一旦失ってしまうと、復活しないと言われているの」
「そうか・・・会えないのか・・」
彼女が口を近づけ、さらに、唇から舌を出してくる。俺は、その舌を両手で抱える様にして、そこに顔を押し付け、気持ちの高まりのままに大声を張り上げた。「好きだ!大好きだ!一生、君のことは忘れない!」
彼女も、顔を離しながら、「私も、達也さんのことを一生忘れない」と言ってくれた。

そして、彼女が、最後の言葉を囁く。
「さようなら・・・達也さん・・」
その言葉の終わりと同時に、俺の体が光りに包まれる。
次の瞬間、自分の部屋に戻っていた。
俺は、直ぐに窓に駆け寄り、カーテンを開け放った。家の上空には、空を覆う巨大なUFOが浮かんでいた。そのUFOが、バイバイをする様に左右に揺れると、一瞬で消え去ってしまった。
俺は、UFOが消えた夜空を、「さよなら・・・ミミちゃん」と呟き、涙を零しながら見上げ続けた。


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