試運転(第六・七章)

                     作 だんごろう

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第六章:舞の思い

彩は、高等部の制服を着て、歩道を歩いている。
学校からの帰り道だった。

傍らに、中等部の一年生の舞が歩いている。
でも、その様子が変。いつもと違って一言も喋らない。

彩が声を掛ける。
「舞ちゃん、どうしたの?元気ないよ」

舞は、相変わらず、下を向いたまま。

彩は、その姿が心配になり、さらに声を掛ける。
「舞ちゃん、どうしたの?何か心配事があるの?話してみてよ」

舞は、彩の顔を見上げ、小さな声で話し始めた。
「彩先輩、舞ねぇ・・・、夢を見たの・・・。怖い夢だったの」

「どんな夢だった?」

「舞は、もっと大人になっていてね。そして、男の人から乱暴されて・・・殺される夢」

話す舞の小柄な身体が震えている。
彩が、舞に手を伸ばす。その手を舞が握る。二人の手に暖かさが通い合う。

彩が舞に明るく話しかける。
「でも、舞ちゃん、夢なんだから、大丈夫よ。ほら元気出して」

舞が、彩の手を強く握り、怖気を震いながらも続きを話し始める。
「でね、彩先輩が、その人に復讐をしようとするの。舞は天国にいて、それを見ているの」

「そうだよ。舞ちゃんに何かあったら、私が絶対に復讐するから」

舞は、彩の目から視線を逸らし、ポツリと話す。
「でも、天国にいる舞はそれを望んでいないの」

「どうして?」

「大人になった彩先輩って、とてもステキなの。舞とはまったく違う。夢に向かってとても強く進んでいくの。その彩先輩を、ずっと舞は天国から見ているの」

彩には、舞が言おうとしていることが分からない「舞ちゃん・・・?」。

舞は下を向いたまま、さらに喋る。
「天国の舞はね、舞が殺されたことも、彩先輩が舞を殺した男の人を殺めるのも運命だと思っているの」

「運命?」

「うん。それにね、彩先輩は、女神になっていくの」

「女神?私が女神になるの?」

「そうなの、小さな人間から恐れられ敬わられる女神になるの」

「でも、それって、怖くない?」

舞は、彩を見上げ、初めて笑った。
「ぜんぜん、だって、それが、彩先輩の夢だから」

「私の・・・夢?」

「大人になった彩先輩が持つ夢なの」

「でも・・・女神になるのかぁ、へぇ、私って凄いんだね」
その言い方が可笑しく、二人は声を出して笑う。

舞は話の続きをする。
「舞は、彩先輩に復讐をしてほしくないの。復讐は心の中を暗くするだけと思うの」
舞は、彩の目をまっすぐに見て続けて話す。
「女神になった彩先輩は、その男の人の小さな命を奪うの。でも、復讐の気持ちからでは、舞は嫌なの」

彩は、話している舞の異変に気付く。
舞の身体が透けてきていた。
身体の向こう側のガードレールが透けて見える。
通りを走る車が、透けた身体越しに見える。
さらに、彩は、舞と繋いでいた手が、何の感触もなくなっていることに気付いた。
二人の手が離れている。もう一度、舞の手を繋ごうとする。だが、その手は空気のように素通りしてしまった。

彩は、慌てる。
「舞ちゃん!?」

「大丈夫、でも、もう時間がないの。彩先輩、聞いて、舞は、彩先輩に楽しんでもらいたいの。女神は、復讐のためではなくて、自分の楽しみのために捧げられた人間の命を使うべきなの」
舞の身体はどんどん透けてきている。
「彩先輩は、女神になるの。だから、復讐ではだめ。楽しんで、舞のお願い・・・」

風が吹く、その風で、最後に残っていた舞の残像が消え去っていく。
そして、流れる去る風の中から、もう一度、舞の声が微かに聞こえる。
“楽しんで、彩先輩・・・・”


ベッドで、彩は目覚めた。
涙が、頬を伝っていた。
時計を見ると、まだ、午前4時。

夢の中、舞の手の温もりが蘇る。
舞の言葉、天国にいる舞の望み、“復讐ではだめ。楽しんで”が、頭の中に残っている。

彩は、ベッドから起き上がり、カーテンを開き、窓を開ける。
夜明け前の冷たい風が、彩の身体の周りを通り過ぎ、部屋の中に流れ込む。
その風の冷たさに触れながら、夜空を見上げる。都会の空に、天の川が霞んでいる。
彩は、その夜空に向かって声を掛ける。
「舞ちゃん、安心して。復讐の気持ちはやめる。そして、小さくした黒部を使って、思いっきり楽しんでみるからね」

明けの明星がひと際明るく瞬き、一筋の風が、部屋に流れ込んだ。
その風の中から、“ありがとう、彩先輩”と言う舞の声が聞こえたような気がした。



第七章:黒部の縮小サイズ

縮小機の試験運転に向けての準備は順当に進んでいた。
また、黒部をその試運転に使うことも、何とかなりそうだった。

彩の縮小機は、研究所にあった縮小機よりも、さらに改良がなされている。
自身を縮めてアヤに送った、例の研究員が、憧れのアヤのために改良を推し進めていた、その成果だった。
彩に感謝されても当然なその研究員は、皮肉なことに、彩によってこの世のから消え去っていた。

その改良点のひとつが、縮小サイズの設定が自由にできることだった。
それまでは、2の指数乗で縮小サイズが決められていたが、マトリックスの演算処理を変えることで、その設定を自由にしていた。
例えば、5センチと指定すれば、予め測定しておいた身長から縮小率が決められ、構成される分子マトリックスに、その縮小率に基づく縮小マトリックスが掛け合わされ、適正化するようになっていた。

彩は、縮小機の試験運転までに、黒部をどのくらいの大きさに縮めるか決める必要があった。
“1センチ、2センチでは、小さすぎるかなぁ。でも、思いっきり大きな私を、黒部の前に出してみたいのよね”

また、彩は、小さくする前の黒部と、話をしたかった。
小さくした黒部を使って楽しむためには、やはり、彼自身を良く知りたかった。
そのため、縮小サイズについては、実際に、黒部を見てから決めることにした。

やがて、縮小機を作っている重工メーカから連絡が入った。その重工メーカで現在使われていない古い研究所に、黒部を運び込んだことを告げてきた。

まだ、縮小前。
黒部とゆっくりと話ができる。
彩の胸が躍る。

***

その翌日の深夜。
片田舎にある、重工メーカの古い研究所の門に、黒いベンツが近づいてくる。

この施設は、以前に山を切り崩し、化学系の研究所として作ったところだが、現在は使われていない。
当時、持て囃された多角経営に従い、不得意な化学系に進出するべく、重厚メーカはこの研究所を作った。しかし、バブル崩壊後に経営不安に陥り、業務全体の見直しを迫られ、結果、今度は“集中と選択”である。機械系で生き残ることに決められ、化学系からは撤退することになった。
また、化学系と機械系では、研究所の設備もガラッと変わってくる。そのため、債権処理を短期間に済ませようと、不要となったこの研究所自体を売りに出した時期もあったが、不便な場所にあり買い手が付かなかった。また、長期に渡って買い手がないことが世間に広まると、株価に影響する。そのため、現在は、売ること自体が中止され、門を固く閉じて、建物は荒れるに任せていた。

そして、今、深夜の時間帯、その研究所の錆びた門が開かれている。
門の横には、中年の男が待っていた。重工メーカ側の責任者だ。

黒のベンツがその門に入ってくると、男は、その近くにある建物を指差し、「あの建物に行ってください」と声を掛ける。
門に入ったベンツは、そのまま静かに、その建物に向かった。
男はそれを見届けてから、錆び付いた門をギーと音を立てて閉め、施錠をする。
そして、車の後を追うように、暗闇に包まれている建物に向かって歩いていく。

ベンツは、その建物の前にある、所々アスファルトが剥げている駐車場に入ってくる。
車のライトが、コンクリートが剥き出しになっている古ぼけた建物を、闇の中から浮かび上がらせた。

建物の近くで、車が止められ、エンジンが切られる。辺りの闇の中に静寂が広がっていく。
その静寂の中で、カチッと音がして助手席のドアが開き、背の高い女性が降りてくる。
その女性が運転手に何か言っている。
「ポチ、ここで待っていてね」

もちろん、女性は、彩。
ハイヒールを、アスファルトにコツコツと響かせながら、その建物の玄関に向かって歩く。

今日の出立は、クラシカルな装い、イメージは60年代のハリウッド。女性が自然にセクシーさを意識した時代。
身体のラインを強調する白いブラウス。その襟元は大きく開かれ、高く盛り上がった胸の谷間と、その間で揺れる冷たい光りを反射するネックレスが覗いている。
膝上15センチの黒のタイトスカート。その布地が腰と太腿に密着し、身体の曲線を強調している。そして、歩くたびに、ヒップと太腿のラインをセクシーに盛り上げている。
その下には、白い肌とマッチした黒の網目のストッキングと、ハイヒールは高さが10センチはあるピンヒール。
長めの髪は、ウェーブが掛かり、ふんわりと、肩まで流れている。
メイクアップは、赤を基調にして、唇は濡れたように赤く、頬紅と、アイシャドーは濃い目。
そして、香水は、Chanel No.5。
女性が持つ男を引き付けるコケティッシュな魅力と、セクシーさを存分に醸し出している。

重工側の責任者は、建物の入り口で、その彩を待ち受ける。
彼自身は、既に、縮小機の打ち合わせのために、何回か、彩には会っている。
だが、今晩、闇の中から、こちらに向かってくる彼女は、まったく別だった。
まるで、男を配下に従えるために現れた妖艶な女神の様だった。

その女神が、闇の中をコツコツと足音を響かせながら、近づいてくる。
責任者の息が止まる。
己の身体を縮めて、そのハイヒールの前に、跪きたい思いに駆られてくる。

その彼の前に、甘い香を振り撒きながら彩が立った。
彩の身長は、ハイヒールを履いているので、190センチはある。
重工側の責任者は、平均的な170センチぐらいで、目の前に彼女の白い喉と、柔らかそうに大きくブラウスを持ち上げている胸とその谷間が覗いている。
彼の視線はそこに吸い込まれ、動くことができなくなっていた。

彩は自分の胸元を見つけている、その責任者を見下ろす。
「フフッ、大丈夫ですか? 松下さん」
彩から松下と呼ばれた責任者は慌てて、彩の顔を見上げ、「あ、彩さん、こ、こんばんわ」。
彩は、笑顔を浮かべ、「ごめんなさいね。待ったのかしら?」。

予め決めておいた時間から、既に30分以上遅れていたが、松下はそのことをおくびにも出さない。「そ、そんなことありません。時間通りですから」と急いで答えていた。

「所で、松下さん、私の頼んでいたことは、ちゃんと準備できている?」

彩は、縮小後の黒部をどのようにしたら、より楽しめるかを考えていた。
そのための希望を、既に重工側に出していた。
黒部といっしょに縮めて欲しい物のリスト。それと、より楽しくするために、縮小前に黒部の頭部にもちょっとした手術をお願いしていた。

彩はそれらが準備されているか、重工側の責任者である松下に確認した。
松下は、それらについて、一つ一つ丁寧に準備状況の説明を始めた。
彼の答えから、全て重工側で手配済みなことが分かり、また、黒部の頭部への手術は、縮小直前に実施されることも分かった。

彩は、逆に、松下から、「後は、彩さんが、縮小サイズを決めてくれるだけです」と言われ、笑って答える。
「そうよね。まだ、決まらないの。本人を見て決めるから・・・。ところでその本人はどこ?」

松下は、通路を指差し話す。「ここを行った奥になります」。
「行けば、分かるのかしら」
「ええ、通路を行き止りまで行って、そこを曲がった先に檻があり、その中にいます」

彩は、「そう」と言って、歩き出した。
松下が慌てて追いかけようとすると、それを、手で押し留める仕草をする。「大丈夫、一人で行けるから」
松下は、「はぁ・・」と、その場で立ち止る。

この建物の蛍光灯や、ランプ類はほとんど撤去されている。
それでも、所々には非常灯があり、鈍い光を放っている。

ただ、彩が歩いていく通路には、その非常灯もなく、その奥は真っ暗になっている。
その闇に向かって、彩は、歩いていく。
コンクリートがむき出しの床。そこに降ろされるハイヒールの音が、コツコツと、通路に響く。

松下は、自分が黒部に会わなくて済んだことで、ホッとしていた。
できれば、あの黒部に、夜の闇の中で会いたくはなかった。昼間に黒部に食事を届けた時でさえも、正直、怖い思いをしたからだ。
だが、闇の中に消えていく彩の後姿を見送りながら、その闇の向こう側にいる、これから彩の玩具になる黒部が、羨ましい気持ちもしていた。

***

殺風景なコンクリートが剥き出しの部屋。
天窓がひとつしかなく、満月の夜でも、暗闇に閉ざされる部屋。
その片隅に、鉄格子で組まれている檻がある。動物園で見る、野生動物を閉じ込める類の檻だ。

その檻の横にある非常灯が、ぼんやりとした光で、檻とその周辺だけを、暗闇から浮かび上がらせている。
だが、光量が少ない。部屋全体は暗く、檻と逆側にある通路にはまったく光が届いていない。
そこから先は真の闇が続いている。

檻の中から、声が聞こえる。暗い欲望の中から発せられた声だ。
「ち、ちきしょう。やりてぇ。女とやりてぇ」

黒部だ。
黒部は、パイプでできた簡易ベッドの上で悶々としていた。

昨日の朝、刑務所で出された朝食を食べた黒部は、食後、急に眠くなったことまで覚えているが、次に目覚めたらこの場所に運び込まれていた。
酷い目覚めだった。頭がくらくらした。絶対に食事に睡眠薬か何かを入れられたと思った。
どのくらい寝ていたのかも分からなかった。天窓から光りがさしているので、まだ、夜にはなっていないと思えただけだった。

あたりを見ると、コンクリートがむき出しの部屋の隅に、自分がいる檻が置かれていた。
檻の内部は、3畳ぐらいで、簡易ベッドと、むき出しの洋式便器があった。
檻は、鉄格子でできている。鉄格子は5センチ毎の間隔に縦と横に張り巡らされ、その間のすき間は4センチもない。そこから、手を出すこともできなかった。

檻の下の方には、一箇所、鉄格子がない部分があった。後から判ったがそこは食事を差し入れる場所だった。それと、鉄格子で組まれているドアがあり、外側で大きな南京錠で施錠されていた。

「これじゃ、まるで、猛獣の檻じゃねぇか」
無駄だと思ったが、「ばかやろう!出せ!」と怒鳴ってみた。
だが、何の反応もなかった。

天窓からの光りが弱くなった夕方頃に、作業服を着た若い男がやってきた。
その作業服に付いているマークは、黒部の知っている大手重工メーカのものだった。
その男は、ビクつきながら、夕食を入れたお盆を持って、檻に近づいてくる。
そして、檻の下の鉄格子がない部分から、そのお盆を差し入れた。
黒部は、その瞬間、脅かすつもりで「ガオー!」と吼えた。
その男は、転げながら、慌てて逃げていった。
黒部は思いっきり笑いながら、差し入れられた夕食を見た。
刺身に、とんかつまで入っている豪勢なものだった。

それが、昨日のことだった。

今朝も、作業服を着た男が朝食を持って近づいてきた。
昨日の男とは違っていた。もっと年配の男だった。

黒部はここに入れられてから、分からないことだらけだった。
それに、ここは刑務所内とは、思えなかった。
黒部は、その男に聞いてみた。
「ここは、いったいどこなんだ?なぁ、教えてくれよ」
だが、その男は、ビクビクしながら何を話さずに朝食を置いて、慌てて帰っていった。

お昼頃にはだれも食事を持ってこない。どうやら、一日、二食らしかった。

夕方になり、また、食事が運ばれてきた。今朝、朝食を持ってきた男と同じ男が運んできた。
話しかけてみたが、その男は、今朝と同じように押し黙ったままだった。
むしゃくしゃして、そいつに「何とか言え、ばかやろう」と怒鳴ったが、一瞬、ビクついただけで、やはり返事はなく、食事を置いて逃げるように去って行った。
だが、相変わらず、夕食は豪華だった。おまけに、缶ビールまで付いていた。

一日中、何もすることがなく、考えるのは、女のことばかり。
エネルギが余っている身体、直ぐに気分が悶々として、男根が勃起してくる。
女の陰部や、胸の柔らかさを想像して、千摺りを、一日に何回もする。

長い刑務所暮らし、見ることもできない女に餓え、その身体に渇望する。
「やりてぇ、やりてぇ、オマンコやりてぇよぉ」
その言葉が、口癖になる。

女との数少ない交わりを思い出し、飢えを埋めようとする。
“最後の女は、山ん中に連れ込んだったよなぁ。そうだ。オッパイが大きな女だ”
その女の胸と陰部を思い出して、千摺る。

標準サイズ以下、人差し指程度の男根を指でつまみ、擦る。
「やりてぇ、女とやりてぇ」

そして、今も、薄暗がりの中で、女のことを思いながら、小さな男根を擦っていた。

一瞬、黒部が怪訝な顔をする。
「うん!?」
何かが聞こえたような気がして、暗い部屋の中を見渡す。
「聞こえる!」
しかも、その音が少しずつ大きくなってくる。
「ハイヒールの足音!?」
コツコツと、その音がさらに大きくなってくる。
「女だ!女が歩いてくる!」

黒部の目が、部屋の奥の通路を見つめる。そこは、闇に閉ざされた場所。
その闇の中から、ハイヒールの音が響いてくる。

“でも、こんな場所に女なんか来るわけねぇか”
「幽霊か?かまわねぇ。女だったら、幽霊でも化け物でも良い。見てぇよ」

刑務所に入ってから、女を見ることもできなかった。
女が見たくて堪らない。
心臓が高鳴る。
「こっちだ。頼む、こっちに来てくれ!」

暗闇の中に、白い影が浮かび上がった。
黒部がベッドから、転げ落ちる。四つん這いのまま、檻の端までいく。
高鳴る心臓で苦しくなり、口でハアハアと息をする。

檻の横の非常灯の弱い光が、女を照らしていた。
目の前のコンクリートにハイヒールが立っていた。
“やっぱ、女だ!女のハイヒールだ!”

あたりに、香水の匂いが、たち込める。
その匂いが頭の芯を溶かし始める。

“幽霊でも、化け物でもねぇ”
「ちきしょう。女だ。女だ。女だ。本物の女だ!」
感激のあまり、涙まで出てくる。

顔を正面に向ける。ストッキングに包まれた形の良い膝があり、その上には、長い太腿が伸び、太腿から腰への肉感的なラインが、ピタッとしたスカートに包まれて、闇に浮かんでいる。
女の曲線。夢にまで見た、女の柔らかい曲線が、鉄格子の向こう側にある。
生唾が出る。それをゴクッと飲み込む。
そのまま、視線を上げると、豊かな胸の谷間が白いブラウスの間に見える。
その上には、よりセクシーにメイクアップされた顔が、歯を覗かせて笑っている。

黒部は体中の力が抜けてきた。
四つん這いのまま、口を開け、呆然と、その女の顔を見上げ続ける。
「女だ・・・良い・・・女だ」

女の口が開いた。
「私は、彩。あなた、武さんでしょう?」

それは、黒部が久しぶりに聞く女の声だった。
「お、女の声!やっぱ、やっぱ、良い!」
黒部は、女性から“武さん”と呼ばれたことがなかった。
そのため、その女が言っていることがしばらく分からなかった。
“俺の名前は、黒部武。そうそう武は俺だ”
慌てて、頭を縦に、何回も振った。

彼女が笑いながら、話す。
「大丈夫?自分の名前、忘れてないでしょうね。それに私の名前覚えた?もう一度言うね、私は彩よ。ねぇ、武さん、私の名前を言ってみて」

黒部は、相変わらず、四つん這いのまま、彩の顔を見上げている。
女と話すのは、刑務所に入ってからなかった。
それにこんなに良い女と話すのは、生まれて初めてだった。
黒部は緊張した。だが、女を見て、こんなに緊張している自分自身が腹立たしかった。

しかし、この女にその怒りをぶつけることはできなかった。
女の機嫌を損ねたら、帰ってしまうと思えた。それだけは避けたかった。
黒部は女の言われるままに戸惑いながら声を出した。
「あっ、あっ、彩さん」

彩は、声を出して笑う。
「“あっ、あっ、彩”ではなく、彩です。間違えないでね。もう一回言ってみて」

黒部は、この女に馬鹿にされているような気がして、頭に血が上ってくる。
“ちきしょう。ばかにしやがって”
だが、怒鳴り付ける事はできない。女に帰って欲しくないから、我慢するしかなかった。
ただ、喋れば、また、吃りそうだった。そのため、女に分からないように深呼吸をして息を整えた。

「あっ、彩さん」
“あっ!また、吃っちまった”と、慌てて、彩の顔を見上げる。

彩は、黒部の顔を見下ろして、話す。
「まぁ、良いかな。許してあげる」

黒部は、その言葉に思わずホッとした。

“しかし、良い女だ。滅多に拝めねぇ女だ”
黒部は、女の足から、顔までも何回も舐めるように見ていく。
四つん這いの黒部の股間から垂れていた男根は、先端にがまん汁を垂らしながら勃起している。
“こいつとやりてぇ”
だが、向こうは、檻の外。触ることもできない。
欲望がどんどん頭の中に膨らんでくる。
“がまんできねぇ”
黒部の息が荒くなる。
片手を男根のところに持っていき、檻の向こうに立つ太腿を凝視しながら、男根を擦り始めた。

彩の口元に笑みが浮かぶ。
「本当に、武さんて面白いわね。いきなりオナニーなの。すごい挨拶よね」

彩は、コンクリートの床にハイヒールの靴底を滑らせる。
床に積もっていたホコリが、ハイヒールにかかり、黒いつま先が白っぽくなる。
そのまま、檻の下のすき間から、ハイヒールの先端を入れ、丁度、黒部の顔の斜め下に、そのハイヒールの先端が来るようにする。

彩は、黒部を見下ろしながら話す。「ねぇ、汚い手で触っちゃだめよ。ここに、キスだけならさせて上げるから」
黒部は、息苦しいほどの興奮を覚え、そのハイヒールに向けて、顔を下げていく。
右の頬を床に着け、そのつま先部分に舌を伸ばしていく。
その舌が、ホコリがかかったハイヒールの皮を舐める。舌がざらざらする。

黒部は、床に頬を着けたまま、さらに、ハイヒールの先を目で追っていく。そのさきには、肉感的な太腿が、タイトスカートに包まれていた。
黒部は、そのスカートの中のパンティが見たくて、何とか少しでも見えないかと、必死に覗いていた。

彩は、可笑しかった。顔を拉げて、必死にスカートの中を覗きならが、ハイヒールの先端を舐め回す黒部の顔は面白すぎた。
ハイヒールのつま先を若干上げてみると、思ったとおりに、黒部がつま先の下側を舐め始めた。
舌が十分につま先の下に伸びたのを見計らって、笑いを堪えて、その舌を踏んだ。
黒部の舌に激痛が走る。だが、舌を靴底で押えられてるので、くぐもった悲鳴しか出せない。
彩は、笑いを堪えて、その舌を踏み続ける。黒部は、床で激痛のあまり悶え、ハイヒールに手を伸ばそうとする。
「ねぇ、汚い手で触らないでと言ったでしょ。言うこと聞けないのなら帰るわよ」
黒部は焦る。彼女が帰ったら、全てお終いである。手を引っ込め、顔に脂汗を浮かべながら、「ひひゃい、ひひゃい」と痛みを訴え始めた。

彩は、その声で、ようやく気付いた振りをして、「あら、何か踏んでしまったのかしら。やだぁ、武さんの舌だったの、ごめんなさい」と、つま先を上げながら、思いっきり笑い始めた。
「ウッフフ、だめよ、武さん、靴の下に舌なんてシャレにもならないでしょ」

黒部は、まだ舌の痛さで息もできないでいる。
しばらく、痛みが引くまで、その状態でじっとしていたが、頭の中は、まだ興奮状態。欲望が渦巻いている。
また、頬を床に着け、ハイヒールのつま先に舌を伸ばそうとしたが、やはり舌が痛い。
唇を蛸のように突き出し、そのつま先に押し付ける。

視線の先は、スカートの中に集中する。だが、その中のパンティは見えない。
“見てぇ、見てぇ”
唇をハイヒールに押し付けたまま、痛む舌で、彩にそのお願いをするが、出てくる言葉は不明瞭になっていた。
「フ、ファンツ、ファンツめへぇ。ファンツめへぇ。ふぁのむ。ふぁのみまひゅ」

彩は、必死にスカートの中を窺い、何を言っているのか分からない言葉を出す黒部が可笑しくて堪らない。その黒部を見下ろし、声を上げて笑う。笑い声が、コンクリートに跳ね返り、静寂を揺るがす。
まだ、笑いが残る声で、足元の黒部に話す。
「ねぇ、私のパンティを見たいって言ったのかしら?」。

興奮状態の黒部は、慌てて、頷こうとする。
だが、目は、スカートの中を覗き、目の前にあるものを忘れている。
急いで頷こうとする黒部の額は、鉄格子に思いっきりぶつかり、ゴーンと大きな音がする。
「んっあっ!ちっちっ・・・」思わず、出した声で、舌にも激痛が走る。
頭をぶつけた衝撃で、黒部の目の前にたくさんの星が回っている。
あまりの痛さに暫く動くこともできない。

「プッ、あっははは・・・本当に、武さんって、面白いわね!」
彩は、笑い続けている。

彩の笑いは、まだ収まりきらない。口元は笑ったまま、スカートの端を持って、ゆっくりと、それを持ち上げていく。
肉感的な太腿がさらに露出される。
ストッキングのガーター部分が現れる。
もうちょっとで、パンティが顕わになる。

黒部は、もっと近くで、パンティを見ようと、上体を起す。
そして、正座姿勢になり、露になった白い内腿を凝視し、片手で男根を擦り、片手で痛む額を擦る。

黒部のその姿も、間抜けっぽくて、彩には可笑しい。
その黒部を笑って見下ろしながら、「はい、おしまい」と、スカートを元に戻す。

黒部の表情が、一瞬、ポカンとする。
その顔が、オモチャを取り上げられた子供のような表情に変わってくる。
泣きべそと怒りが混じった表情で、彩の顔を見上げ、「お、おしめえは、ねぇよ。おしめえは!」と、声を荒げた。まだ舌は痛むが、何とか喋れるようになっていた。

彩は、さも驚いたという顔をしながら、「武さんって、やっぱり怖い。帰ろうかなぁ」と言って、後ろを振り返る。

黒部は焦る。まだ、千摺りが終わってない。触れることのできない女なら、せめて、女のパンツを見ながら、千摺りをしたかった。
「頼む、帰らなぇでくれ。頼む。頼む。」

彩は、もう一度、黒部の方を向き、話し掛ける。
「ねぇ、私の名前、覚えている?そしたら、許してあげる」。

黒部は、正座姿勢のまま、泣き出しそうな顔で、彩のハイヒールを見つめ、もじもじとしている。彼女の名前を忘れていた。必死に思い出そうとしているが、どうしても、浮かんでこなかった。
声が涙声になっている。
「わ、わるい。忘れた。帰らねぇでくれ、なぁ、頼む、もう一回、教えてくれ。もう絶対、忘れねぇから」

彩は、「だめねぇ、武さんって。じゃあ、教えてあげるから、ここから舌を出して」と、正座している黒部の顔の前あたりの鉄格子を指差す。

黒部は、何だが分からないまま、鉄格子に顔を当て、そこから舌を出す。

彩は、「絶対に顔を動かさないでね」と言ってから、片足を上げて、ハイヒールのつま先の底をその舌に当てる。
靴底に押されて、黒部の痛む舌に鋭い痛みが走る。「うっうっうっ」と思わず声が出る。

彩は、黒部に笑いかける。
「フフッ、だめよ。舌を引っ込めちゃ、私の名前を忘れた罰なんだからね」
そのまま、彩は、ハイヒールを上にずらしていく。
黒部の目の前に、鉄格子越しに、舌を擦りながら上がっていく靴底が見える。
黒部は言われたままに、顔を動かさないようして、舌を出し続ける。
彩は、ハイヒールを、その靴底で黒部の痛む舌を擦らせながら、さらに上にずらしていく。

ハイヒールの踵、ピンヒールの先端が、格子の隙間を通して、下唇に触れる。
彩が軽く力を入れる。ピンヒールが下唇に食い込む。
さらに、ハイヒールを上にずらす。ピンヒールが下唇を通過して、下唇と舌の間から口の中に浸入してくる。
そのまま、ヒールをさらに奥に押し込む。
ピンヒールが舌の根元に押し込まれる。黒部の顔が苦痛でゆがむ。
痛みで思わず、顔を引いてしまう。
彩が凛とした声で、黒部に話しかける。「顔を動かさないでと言ったでしょ。もう忘れちゃったの?それとも帰っても良いのかしら?」
黒部は、苦痛を堪え、また、顔を鉄格子に押し付ける。
彩は、ヒールを黒部の口の中に差し入れたまま、さらに上に動かす。
ヒールが、舌を喉の奥に押し込むように、差し込まれる。
黒部は、その苦しさと痛みで、涙が出てくる。

黒部は、ビクビクしながら、顔を鉄格子の押し付け、苦痛に顔をゆがませている。
その表情が、彩には、何とも可笑しい。
“フフッ、そんな我慢までしても、私に帰ってもらいたくないのかしら”

さらに、ハイヒールが上に移動する。舌は解放されたが、ピンヒールが直接、喉の奥に侵入してくる。喉の粘膜が、押し切られる。
黒部は「ゲッゲッ」と、嘔吐しそうになる。
彩は、黒部に反吐を出させるつもりはない。喉の奥から、ヒールを若干引っ込め、そのヒールの先端で、口腔の上側を擦っていく。

痛みを堪え、正座姿勢で身体を硬くしている黒部に、話しかける。
「ねぇ、武さん、私のハイヒールは好き? もっと、おしゃぶりしていたい?」
黒部は、何と答えていいか分からない。彼女のハイヒールを舐めていたい気持ちはあるが、これ以上の苦痛には耐えられなかった。それでも、彼女の機嫌を損ねることは避けたかった。
黒部は、自由にならない口で、何とか声を出し、「ふ、ふぁい」と答える。

彩は、口腔をピンヒールで擦るのを止めて、黒部に笑いながら声をかける。
「ウッフフ、武さん、罰を終わりにしてあげる。安心してヒールにおしゃぶりしても良いわよ」
黒部は、その声を聞き、必死に口の中のヒールをしゃぶり出した

彩は、黒部のその様子を見下ろしながら、話始める。
「ねぇ、もう、絶対に私の名前を忘れないと誓ってくれる?そしたら、もう一回だけ教えてあげるから」
黒部は、ヒールを口に入れたまま、彩の顔を見上げ、何回も頷いた。

彩は、黒部を見下ろし、魅力的な笑顔を振り撒きながら、話しかける。
「ウッフフ、私の名前は、彩よ。誓ってね。絶対に忘れないと」
黒部は、彩の顔を見上げ続け、何回も何回も頷いた。

彩は、足を元に戻した。
黒部は、正座姿勢のまま、痛む口を手で覆っている。

彩は、スカートをたくし上げる。黒いパンティが鉄格子の向こう側に現れる。
そして、黒部に笑いながら声を掛ける。
「フフッ、武さん、また、ここから舌を出して」

黒部の目が、そのパンティに釘付けになる。
そして、先ほどと同じように、顔を押し付け、痛む舌を鉄格子の外に出す。
彩が、身体を檻に近づける。
黒部の顔にパンティが近づく。吸い込む息が、全て甘い香水の匂いで満ちる。
黒部は、興奮のあまりガタガタ身体が震えてきた。
“触りてぇ、舐めてぇ、あそこを触りてぇ、あそこを舐めてぇ”

黒部は舌を必死に伸ばそうとする。だが、散々、彩に玩ばれた舌は、前に出そうとすると、痛みが沸き起こる。
苦痛に顔がゆがむ。だが、目は、そのパンティに吸い寄せられる。
恥丘と陰毛を包み込む部分で、パンティが膨らんでいる。その膨らみが、舌のほんの先にある。
必死に痛む舌を伸ばす。舌先とそこまで2センチもない。
“もうすこしだ。もうすこしで、舌が届く”
さらに顔を鉄格子に押し当てる。鼻がパイプで拉げる。口がその四角のすきまの形で出っ張っていく。

彩には、その必死の顔が可笑しい。笑いが抑えられない。
「武さん、可笑しすぎ」

彩が爆笑する。笑いで身体が揺れる。
黒部の舌先が、パンティに軽く触れる。
笑いで彩の身体が揺れる度に、舌先は軽く触れ、離れ、また触れる。

黒部は、必死な形相でオナニーを続けている。
苦痛で顔を歪めて舌を伸ばし、パンティに何とか舌先が届かせようとする。
彩は、黒部のその必死さが可笑しくて笑い続ける。

黒部の口から「うっ」と声がした。
そのまま、檻から身体を離し、座り込んでしまった。

彩は、スカートを戻し、「どう、武さん、落ち着いた」と、声を掛ける。
黒部は、脱ぎ捨ててあった服で、男根と手を拭いながら、うんうんと頷いていた。

彩には、その頷く仕草が可愛らしかった。
「武さん、ずいぶん、素直な良い子になったわね」

黒部は、今の状況では、この女には勝てないことを理解した。
それに、昨日から刑務所じゃない所にいることの理由を、この女が知っているような気がしていた。何とか、それを聞き出したかった。

黒部は立ち上がった。
一瞬、彩を見て、驚く。“でけぇ女だ”
今まで、精々、膝立ちで、彼女を見上げていたので、大きそうだと言うことは理解していたが、自分よりも大きいとは思っていなかった。
だが、立ち上がると、身長差が歴然とする。
黒部も175センチの身長はあるが、それよりも、この女の方が大きかった。

それが、声に出てしまう。
「あ、あんた、でけぇなぁ」

彩が、軽く睨み付けるように、「“あんた”じゃないって、何回言わせるの。それに大きいのはしょうがないでしょ」。

黒部は慌てて言い直す。「悪い。あ、彩さん。ところで、教えてもらいてぇんだ」
「なあに?」
「どうして俺はここにいるんだ」
彩が、謎めいた笑いをする。「知りたいの?」
「頼む。教えてくれ。それに、お、俺は、け、刑務所に戻されるのか?」
「武さんは、刑務所には戻されないわ。私が武さんをもらったから」
「えっ!も、もらった? そ、それってどう言うことだ」
彩は、「その内、分かるわ」と言って、笑った。

黒部は、彩の顔を見ながら、考え始める。
“何が気に入ったか、分からねぇが、この女は、俺を刑務所からもらったらしい”
“現に、こんな場所にいるから、この女の言う通りなんだろう”
“だがよぉ、俺をもらったって事は、この女は、俺とやるつもりなんだろうか?“
“しかし、良い女だ。こんな女とやれる?・・・やりてぇ、やりてぇよぉ”

「なぁ、彩さん、お、俺、あんたと、や、やりてぇ。な、やらしてくれよ。お、俺をもらったってことは、その気はあんだよなぁ」

「武さん、そんなにいきなり言われても、ちょっと・・」と、彩は、横目で睨む。

その表情が、黒部には堪らなく色っぽく見える。
黒部の男根が首を持ち上げてくる。

「な、な、お、俺、彩さんの身体中を舐めまくるよ。オマンコも尻の穴だって、彩さんがもう勘弁してくれって言うまで舐めまくるよ。だから、な、な、やらせてくれよ」

「武さん、わたしの身体は大きいのよ。たぶん、武さんの方が勘弁してくれって言うと思うわ」

「ぜんぜん大丈夫だ。体力だけはあんから。それに、お、俺の舌を見てくれ、なぁ、長いだろう。この舌でオマンコも尻の穴もかき回してやる。すげぇ、気持ち良くなるぜ」
黒部は、舌に痛みが走ったが、思いっきり伸ばして見せた。

彩は、その舌が確かに少しは長いように見えたが、身体が縮んだら、やはり小さな舌になることは変わらないだろうと思っていた。

“でも、小さな舌で、チロチロと舐められるのも、悪くないかも”
彩は、それを想像しながら、黒部に話す。「武さん、本当に、私の大きな身体を、私が止めてと言うまで舐めてくれるの?約束できる?」

黒部は真剣な表情で話す。「も、もちろんだ。オマンコ、たっぷりと舐めて、次は、尻の穴の回り、舌で舐めまわすだろう。そこから舌をケツの穴に突っ込み、その中まで舐めてやるよ」

彩は、黒部の言ったことが可笑しかった。お尻を黒部の向けながら話す。
「フフッ、ここの穴に突っ込んで良いの?そしたら、その中まで舐めてくれるの?」

黒部に、タイトスカートに包まれた大きめのお尻が向けられる。思わず黒部は、膝を着ける。
その目の前、鉄格子超しに、プリプリとした彩のお尻がある。ゴクリと唾を飲み、そのお尻に向かって声を出した。
「そうだ。そこの穴、突っ込んで、舐めましてやる。なぁ、彩さん、気持ち良いと思わねぇか?」

「ウッフフ、そうねぇ、でも、武さん、きっと大変よ」

“ちっきしょ、たまんねぇ!でっけぇ、いいケツだ!”
黒部は、目の前の彩の尻にドキドキしてしまう。
「バカ言え、俺を見くびるなよ。いくら大変だって、尻の穴の奥まで、それこそ、死ぬ気になってでも舐めまわしてやるよ!」

彩は、縮めた黒部がお尻の中で苦しさでもがく様を思い、思わず手をお尻に当て腰を振ってしまう。
「本当? この中で、死ぬ気で舐めまわしてくれるの?」

黒部の目の前のお尻が、誘う様に左右に揺れる。頭がクラクラし、ドギマギしてしまう。
「そ、そうだ!あ、当たり前だろ!彩さんを感じさせるためだったら、い、命、命なんか惜しくはねぇ!死ぬ気で舐めてやるって!それに、オマンコだって同じだ。クリトリスを舐め上げた後は、オマンコだ。奥の方まで突っ込んで、ぐるぐるしてやる」

彩は、体を元に戻し、膝を着いている黒部を見下ろしながら話しだす。
「フフッ、そこの穴に、武さんを・・・奥の方まで突っ込んでからぐるぐるして・・・良いのね?」

「何回言わせるんだ! もし俺が嘘を言ったら、殺しても良い」

彩は、吹き出しそうになるのをクスクス笑いに抑えて話す。
「そうなの、殺しても良いのね」

黒部は、彩を見上げながら、怒りを混ぜて話す。
「ば、バカか、同じこと何回言わせるんだ! お、俺は、舐めるのが得意なんだ。どんなに彩さんの身体がでっかくたって、絶対に、最高に気持ち良くなるまで舐め回しやる」

「プッ!アッハハハハ・・・武さん、アハハハ、可笑しすぎ!」
ついに、彩は吹き出してしまった。その笑いが収まってから話し始める。
「分かったわ。どんなに私の身体が大きくても、気持ち良くなるまで舐めてくれるのね。今の言葉を忘れたら嫌よ」

黒部は、「ああ」と返事をしたが、“また、こいつ、笑ってやがる”と、彩が大げさに笑うのが不愉快だった。だが、この女は、やらしてくれそうな気がして、それを思うと、怒りどころか、気持ちが有頂天になってくる。

“しかし、良い女だよなぁ”と、彼女の足元から、身体を舐めるように見上げていく。目の前にある、その身体に触って、掴んで、舐めて、噛んで、チンコを突っ込むことができると思うと、気持ちが抑えられないほど逸ってくる。
そのまま、彼女の顔を見上げた時に、その顔が下を向いているのに気付いた。黒部の顔から血の気が引く。“やべぇ、こいつ、俺のチンコを見てる”

慌てて、黒部は、自分の一物を手で隠した。
“ちきしょう、俺の小っこいチンコ見て、この女は、やっぱ止めたとか言うんじゃねぇのか?“

黒部は焦る。
黒部は、彼女の気持ちが変わらないようにと、話をでっち上げ始める。
「なぁ、彩さん、知っているか?3センチもあれば、良いんだぜ。3センチもあれば、女はヒイヒイ気持ち良くなれるんだぜ」

彩は、黒部が面白そうなことを言い始めたと思い、ニコニコ笑いながら聞いている。

黒部は、彩を見上げながら、続けて話す。
「女のあの中に入れるだったら、3センチもあれば足りるって、偉い学者の先生が言っていたんだ。なぁ、それよりも、俺のチンコは大きいだろう。だから絶対良いんだって」

彩は、そんな話は初耳だった。
「ふ〜ん、3センチね」

話す黒部も必死。言い出した手前、最後まで、3センチで十分と言い続けなければならなかった。
「そうなんだ。3センチもあれば、十分なんだ。俺なんか、それよりも大きいだろう。少し小さくした方が良いと思っているんだ」

「そうなの?小さくしたいの?」

「もちろんだ。さっきの偉い学者がいただろう。そいつがさぁ、穴の入り口の所が最高に気持ち良いから、3センチが一番、女が気持ち良くなるって言ったんだぜ」

彩が、笑いながら言う。
「ウッフフ、じゃ、3センチに縮めてあげても良くてよ」

もちろん、黒部は、彩が冗談を言っていると思っている。
「ふふ、そうだな。3センチの俺のが、彩さんの中で暴れるのを考えてみろよ。最高だぜ」

また、彩は吹き出してしまった。
「プッ!アッハハハ!・・そうよね。3センチの武さんが、私の中で暴れるのね。確かに最高かもね」

黒部は急いで相槌を打つ。
「そうだ、3センチに縮んだぐらいが最高なんだ」

彩が、涙を流して、笑い続けている。
「アッハハハ・・・3センチに縮めたら・・・アハハハ・・最高でしょね」

黒部は、彩がチンコの小ささを納得してくれたと思ってホッとする。
“しかし、相変わらす、良く笑う女だなぁ”
その笑いが収まるのを待ってから、黒部は話し出した。
「俺は、どうやって、ここを出るんだ」

彩が答える。「武さんは、死刑囚なのよ。このまま出られないわ。出るために姿を変えるのよ」

「って言うと、整形手術が必要だってことか?」

彩は思う。“縮めることも、整形のひとつかなぁ。”
「そう、整形手術。ウッフフ・・私の好みの男の人に変わるのよ」

その言い方が可愛らしかった。黒部は嬉しくなり、ニンマリとしてしまう。
「そうかぁ、お前好みの俺になるってことかぁ・・・所で、俺は、ここで、待っていれば良いのか」

「そうよ。全て私が手配してあるの。明日、係りの人が迎えにくるわ。大人しくしていてね。そうすれば、すっかり私好みに変わった武さんが、私の部屋に運び込まれてくるの」

「それから後は・・・・、へへ、楽しみだなぁ」

「フフッ、そうね。その時が楽しみだわ。じゃあ、そろそろ・・・」

黒部は、目の前の女がとても愛しく思えていた。
「そろそろ、帰るか?帰るんだったら、気を付けて帰れよ」

彩は、「そうね。ずいぶん長居しちゃったもんね。帰るわ。じゃあ、次に会うのを楽しみにしているわ」と言いながら、振り向き、元の通路に向かって歩き始めた。

その背中に、黒部も「俺も、次に会うときを楽しみにしているぜ」と、大声を出した。


彩は、闇の通路から抜け、出入り口に待つ、重工側の責任者、松下の元に行く。
松下は、暗闇から出てきた彩に声を掛ける。
「どうしましたか?大丈夫でしたか?」
彩は、「別にどうってことなかったわ」と、サバサバしていた。

松下は、押し殺した声で、秘密を話すように、「ところで、縮小サイズは決まりましたか?」。
彩は、ニッコリと笑いながら、「本人の希望なので、3センチでお願いします」。
松下は彩の言っていることが良く分からなかった。「はあ・・・本人の希望?で3センチですか?」

「そう、3センチが最高なんですって」
彩はそう言って笑うと、建物の外に出て行く。それを呆気に取られた表情で松下は見送り、自身も門を開けるために、慌てて外に出て門に向かう。

彩は、黒いベンツに向かって歩く。
見上げた空には満天の星。
その空に向かい、話しかける。
「舞ちゃん、すごく楽しいことが始まる予感がするの。これも舞ちゃんのおかげだね」

だが、その言葉とは裏腹に彩の瞳から涙が零れてくる。
あんな男に舞が殺されたことが、たまらなく悔しかった。

黒いベンツが、彩に気付いたらしく、ライトを付け、エンジンをかける。

彩は、涙をそっと拭った。



第八章:縮小機稼動

「いよいよですね」
重工側の責任者、松下は、横に立っている彩を見上げながら話した。

ここは、彩の縮小機の製作を請け負っている、重工の現在は使われていない化学系研究所の跡地。
敷地内には、いつかは取り壊すであろう、朽ちかけた数棟の建物が残っている。
その一つが、彩が一昨晩訪れた正門近くの建物であり、さらに、その奥側に、縮小機の実験場として改修された、元は倉庫だった天井が高い建物がある。

重工の幾つかの工場と、下請け工場によって製作された縮小機の様々なパーツが、この実験場に次々と集結され、それを限られた数名のメンバーが秘密裏に組み立てていた。
数ヶ月に及ぶ組み立て、その後の慎重な調整が長々と続けられ、ようやく、実際の人間を使った試験運転の段階になり、その最終確認が、彩の目前で黙々と進められている。

彩は正面の縮小機を見詰めながら、「そう・・・ね」と、上の空で答えた。

昼でも薄暗い、天井が高い建物の中に2階建ての大きな家ぐらいはある縮小機の本体、ピンク色にきれいに焼付け塗装されたチャンバー、そして計器類がずらり並んでいる操作盤が設置され、その周りで三名の作業員が確認作業を続けている。

作業員達は、彩が気になるらしく、作業を続けながら、時々、チラチラと彼女を盗み見ている。
彼らは、実物の彼女を見るのは初めて。今まで、必要な打ち合わせは、重工の本社で行っていたので、ここで働いている作業員達が彼女を見ることはなかった。
自分達が作っている縮小機が、テレビで見たことがある“アヤ”の物であることは、当初から、ここにいる全員が知っていたが、今まであまりそれを意識することはなかった。だが、今、現場に彼女が来ている。やはり、背が高く、華やかな彼女が傍にいると気持ちが高ぶってくる。

彩は、スカート丈の比較的短い、身体の線が柔らかく出る水色のスーツ姿。ストッキングはクラシックな黒で、足先には明るいグレーのハイヒール。
セクシーな雰囲気を持つ、背が高くボリュームを秘めた身体だが、フワッとウェーブをしている髪をかき上げる仕草に、理知的な印象も漂う。
その格好で、重工の作業服を着ている松下と、縮小機から少し離れた位置に立っている。

彩の視線の先には、扉が開いて、白いプレートが出ているチャンバーがあり、そのプレートの上には、黒部が既に乗せられている。
全裸の黒部の頭部には、彩の指示通りの手術が終わったことを示す白い包帯が巻かれ、股間には、陰毛の中に隠れるように小さな男根、ガッシリとした身体とは対照的な小さな男根が垣間見える。
黒部は、手術時の麻酔によって昏睡状態にあり、さらに、4,5時間は、その状態が続くように麻酔で調整されている。

彩がこの実験場に来た時には、既に、プレートの上に黒部は乗っていた。そのまま、黒部を間近に見るために近づこうとした彩は、作業の邪魔になるという理由で、縮小機から少し離れた位置に松下に案内されて、今に至るまで待たされ続けている。
既に、15分以上、彩は、その位置で待たされ続け、待つことに少し厭き始めていた。

横にいる松下にも、彩の表情で、彼女が不機嫌になってきたことが窺え、気が気ではない思いの中で作業の進捗を見続けている。
そのタイミングで、縮小機の傍らにいる作業員から声が掛かった。
「松下主任、確認が終わりました。異常ありません。試験運転可能です」
松下は、その言葉でホッとし、彩に「さあ、行きましょう」と声を掛けようとしたが、既に彩はチャンバーに向かって歩き始めていた。慌てて、松下はその後を追いかけた。

彩は、黒部の姿を見ながら、チャンバーに向かって真直ぐに歩いていく。
そして、そのプレートの横に立ち、鼾をかき裸で横たわる黒部を見下ろす。
舞を殺した黒部が、見下ろすプレートの上にいる。それを見る、彩の切れながらの大きな瞳が、獲物を狙う女豹のように輝いている。

彩の頭の中で、色々な思いが錯綜する。
舞との思い出、復讐を決意した日々、チャンバーを手に入れるために起こした裁判、法律を変えようと“アヤ”としてのデビューしたこと、そして、一昨夜の黒部とのやり取り。

彩の口から、小さな声でポツリと独り言が出る。
「長かった・・・・わ」

色々な思いの中で黒部の姿を見下ろしていると、憎しみの気持ちが強まってくる。
舞を傷つけていった黒部の手を見ながら、指先よりも小さくした、泣き叫ぶ黒部の四肢を引き抜いていく光景を頭の中に描き、冷たい笑みを浮かべた。
だが、その彩の頭の中に、舞の言葉が木霊する。「復讐ではだめ。楽しんで・・・・・」

彩は、その言葉を心の中で反芻する。
“復讐ではだめ・・・そうよね、舞ちゃん。でも・・・”
迷いの中で、そのまま黒部の手を見続けていたが、やがて、そこから目を逸らし、声に出さない独り言を言う。
「舞ちゃん、分かったわ・・・楽しんでみる」

彩は、横の松下をニッコリと見下ろし、話し掛ける。
「松下さん、始めましょう」
松下は、彼女の笑顔に戸惑いながら、慌てて返事をする。
「あ、はい、じゅ、準備はできています。こちらにどうぞ」

松下の案内で、チャンバーの横の操作盤の前に、彩は立つ。
この操作盤は仮の物で、実際の彩の縮小機は、ノートパソコンで操作ができるようになるが、まだ、そのシステムが完成していなかった。そのため、以前に政府系の研究所で作られた物と同じ操作盤が、試運転用として作られ、設置されていた。
彩にも、この操作盤は見覚えがあった。初めての人体実験に立ち会った時、研究所の責任者がスタートボタンを押すのを躊躇していた、その操作盤と同じものだった。
もちろん、彩には、その躊躇はない。だが、そのボタンを自分が押すようになったことに不思議な運命的なものを感じていた。

松下は、彩に話し始める。
「縮小率は、実験体が3センチになるようにセットされています。また、復元を前提にしていませんが、これで良いんですよね?」
彩は短く答える。「ええ」

松下は、さらに操作盤のスイッチを指差して説明をする。
「それから、これが、実験体が乗っているプレートをチャンバーに入れるためのボタンで、こっちが縮小のスタートボタンになります。どうですか?・・・始めますか?」

彩は軽く頷くと、指先をプレートの作動ボタンに乗せ、それを押す。
直後、横にあるチャンバーは静かな機械音を出してプレートを引き込み、その扉をガチャと締めた。黒部の姿は、チャンバー内に入り、見えなくなった。

彩はそれを確認して、縮小をスタートさせるボタンに指を乗せる。
その彼女の様子を、周りにいる作業員達が固唾を呑んで見つめる。

重工の作業員達は、縮小後の実験体を、彼女が持ち帰ることを知っている。
全員、言葉に出さないが、小さく縮んだ実験体が彼女の玩具になると思っていた。
だが、作業員達の想いはそれぞれだった。持ち帰った縮小体がどうなるかを想像して、顔を赤らめて小鼻を膨らませている者があれば、自分達のしていることに恐怖を感じて真っ青になっている者もいる。
ただ、作業員達は、背が高く、妖しい美しさが滲み出ている彼女に、自分達とは違う別格の人との思いがあった。人々の上に君臨するために生まれてきた、男達をその足元にひれ伏させて平然としている女神のような女性とも感じていた。
そして、全員、その女神の玩具を作ることに、晴れがましいものを感じていた。

彩は、黒部が入っているチャンバーを見詰める。
その頭の中に、舞の最後のお別れの姿が浮かぶ。
ホームの端に立ってにこやかに手を振る、中等部の一年生だった時の舞。
彩は、その姿に向かって、小声で「舞ちゃん・・・大丈夫よ。ちゃんと楽しむから・・・ね」と話しかけ、スタートボタンを押した。
一瞬遅れて、チャンバーから低周波音が聞こえてくる。縮小機が、その中にいる者を、3センチの大きさにするために動き始めた。

作業員達は、それぞれの持ち場に移動し、稼動中の機械のチェックを始めた。
松下も、「ちょっと、私も確認してきます」と、彩の横を離れ、作業員の傍に行った。

彩の縮小機は、政府系の研究所にあったものよりも改良されていて、縮小は約20分で完了する。
彩は、操作盤の前に立ち、黒部を刻々と縮めているチャンバーを見詰め続けている。

“あの中には、舞ちゃんを殺した男がいる・・・・”
彩にはまだ迷いがあった。復讐の気持ちを拭い去り、縮めた黒部を使って、心の底から楽しむことができるのかわからなかった。
“でも、天国の舞ちゃんと約束したこと・・・”
頭を軽く振って、その迷いを打ち消そうとする。柔らかくウェーブしている髪がゆっくりと舞う。

彩は、外の駐車場に、同居している彼を待たしていることを思い出した。
そして、黒部が小さく縮むまでの間、彼と話をして時間を潰そうと、実験場から出ていった。

エアコンを利かせているらしく、エンジンがかかっている黒いベンツの中に彼はいた。
車に近づくと、彼が目を閉じているのが見える。彩は、その運転席側の窓をコンコンと叩く。
音に気付いて薄目を開けた彼の目に、窓越しに笑っている彩の顔が見える。
彼は、慌てて跳ね起き、エンジンを切り、車から出てくる。そして、彩を見上げながら話す。「お、終わったのか?」
彩には、彼の慌てた様子が可笑しい。笑いながら返事をする。「ウッフフ、今、機械が動いている所なのよ」
彼は、「そうか・・・」と何気なさを装って答えていたが、本心では実験の様子が気になってしょうがなかった。

ここに着いた時に、彩から「ねぇ、ポチはここで待っていて欲しいの」と言われ、その言葉に従ってはいたが、やはり、彩が縮小体に何をするのか気になっていた。
ずいぶん前になるが、政府系の研究所で行われた初めての人体実験では、小さく縮んだ男を、彩は掌の中で壊していった。その全てが彼の目の前に行われ、その光景に息も止まる程の衝撃を受けていた。

“妖しいまでに美しい彩が、気まぐれのままに、指先にも満たない小さな者を、笑みを浮かべながら壊していく”

彼は、もう一度、その光景を見たいと切望していた。そのために、彩の欲求の全てを叶えようと思っていた。
だが、今回、彩の機械の試運転では外で待たされている。実験場の中の様子が気になりながらも、諦めてふて寝している所を、丁度、彩に起こされたのだった。

季節は秋だが、日差しが強い日だった。駐車場の端に一本の大きな木があり、彼女はその日陰に入るべく、歩き始めていた。

彩の身長は約180センチ、それにハイヒールも履いているので、彼に取っては見上げるような背の高さになる。
彼女の後ろを歩く彼の前に、スカートの生地を柔らかく張っている腰が揺れている。彼は、気になっていることを考えながらも、揺れ動く、その腰の高さとセクシーなラインに圧倒され目が離せなかった。

二人は、日陰に入る。彩が「秋よね。風が気持ち良いわ」と、向こうに見える山々を見ながら話す。
彼は、彩が縮めた男をどうするのか気になって、会話ができる状態ではなかった。何も返事ができず、彩の顔を見上げ、沈黙してしまう。

遠くの景色を眺めている彩の視界の端に、枝の上をチョコチョコと動いているものが入ってくる。
彩の大きな瞳がそれに向けられる。
「尺取虫ね。動きが可愛いわね」

彼も頭上の枝を見上げてみたが、下からでは、彩が見ているものが見えなかった。
彩は、その彼の顔を見下ろし「フフッ、見えないんでしょ?良いよ、見せてあげる」と、枝に手を伸ばす。

やがて、彼の目の前に、彩の軽く握った掌が差し出され、その掌がゆっくりと開かれる。
その手の平の上を、蟻よりも少しだけ大きい、とても小さな尺取虫が、身体を折り曲げて伸ばして、また折り曲げて伸ばして、ユーモラスに動いていた。
「ほら、可愛いでしょう」と、彩はその虫の動きに見入っている。

彩は、尺取虫の動きに合わせて手を裏返しにして、それを手の甲で這わす。
尺取虫は、手の甲から中指の根元に進み、そのまま、指先を目指して這っていく。
やがて、その先端で行き止りになり、困った様子で、黒く光る爪の上で動きを止めた。

彩は、爪の上で動けなくなっている尺取虫に、優しく「じゃあ、そろそろお家に帰してあげるね」と話しかけ、尺取虫がいた枝に手を伸ばす。

彼女の手の中で這い回る小さな生き物。彼には、そのイメージが、縮小後の男と重なっていた。
そのイメージを持ったまま、彩の顔を見上げ、気になっていることを、できるだけさり気なさを装って質問する。
「なぁ、彩、縮めた男をどうするんだ。もう、刑務所には返せないぞ」

彩は、枝に伸ばす手を止め、彼を見下ろしてちょっと笑う。
「ウフフ、大丈夫よ。返すつもりはなくてよ。テイクアウトするのよ」

彼には、彩の言っていることが一瞬理解できなかった。
“・・・テイクアウトってなんだ?・・持ち帰ることか?”
適当な言葉が見つからないまま、思わず、彼女に聞いてしまう。
「か、か、飼うのか?」

彩は、その言葉が可笑しく、笑い出してしまった。
少し笑いが収まってから、彼の目を見下ろしながら話し始める。
「フフッ、ポチの言い方って可笑し過ぎ。それに、“飼う”なんて面倒なことはしないわよ」

彩は、枝に伸ばしていた手をゆっくりと戻し、爪の上に留まっている尺取虫を見ながら、話を続ける。
「3センチに縮ませることにしたのよ。3センチってこれぐらいの大きさよね」

その指先を彼の目の前に持ってきて「フフッ、3センチって小さいわよね」と悪戯っぽく笑う。

彼の心臓が高鳴ってくる。こういう時の彩は、身体中からオーラが吹き出ているような、とても妖しい雰囲気に包まれてくる。
彼は何も言えなくなり、ひたすら、爪の上の小さな生き物を見詰める。

彩の爪がその小さなものを軽く弾く。回転しながら地面に落ちたそれは、体勢を立て直して、木の方向を見定めるとそちらに向かって、またリズミカルに地面を動き始める。
彩はその動きを見て「お家に帰ろうとしているのね」と話しかける。

彼は、彩のハイヒールの横を這う小さな生き物から目が離せなくなっていた。
その顔を可笑しそうに彩は見下ろし「ねぇ、ポチ、3センチのものをどうするか、教えて上げる」と、ハイヒールのつま先を、その行く手を塞ぐように着けた。

小さな生き物は、目の前に降ろされた大きなものに戸惑い、動きが止まった。
彩は、足元に向け「あら、ごめんね。邪魔しちゃったわね」と声をかけ、踵を着けたままでつま先を上げる。
小さな生き物の目に、また、ハイヒールの靴底の下から木の幹が見えようになり、そこに向かってリズミカルに動き始める。そして、つま先の下に入っていく。

彩は、その姿勢のまま、身体を彼に寄せた。
彼の肩に彩の豊かな乳房の弾力が感じられ、鼻腔が甘い香で満たされる。頭の芯がボーっとしてくる。
その彼の耳の上から、彩のクスッと笑う声が聞こえる。

彩は、ハイヒールのつま先を、その下にいる小さなものを潰さないように、そっと下ろした。
小さな生き物は、地面と靴底の僅かなすき間に抑えられ、身動きができなくなる。

彼の耳のすぐ上から、彩の声がする。
「フッフフ、もう、動けないでしょ?」

彼には、その言葉が自分に向けられているのか、それとも、つま先の下にいるものに向けられているのか分からなかった。微動だにできず、瞬きもしないで、ただ、ハイヒールを見詰め続けていた。

彩は、痴呆のようにハイヒールを見詰める彼の横顔を可笑しそうに見下ろし、つま先にゆっくりと体重を移す。
小さな脆い生き物の命が、その瞬間、消え去っていく。

彩は、体重をハイヒールのつま先に乗せたまま、腰をかがめて彼の片耳に口を近づける。
彼の耳に、彩の甘い吐息がかかる。
彩は、その耳元でセクシーに笑いながら囁く。
「ウッフフ、お家に帰れなかったわね」

彼は、地面を踏みしめているハイヒールを、息を止めたまま見詰める。
彩は、何事もなかった様に、それを踏みつけたまま大きく伸びをする。

実験場から、彩を探しに松下が出てきて、離れた所に立っている彩を見つけると、
「そろそろ、終わります」と大きな声で呼びかけた。

彩は、松下に手を振り、
「ポチ、ちょっと待っていてね。3センチに縮んだものを取りに行ってくるからね」
と、ハイヒールで潰したものを見ることもなく、実験場に向かって歩き出した。

彼は何も返事ができないまま、彩が踏みしめた地面を見詰める。
ハイヒールの足跡の中に、もう二度とリズミカルに動くことはない、3センチの潰れきった小さなものがあった。

彼は、顔を上げて、実験場に向かって歩く彩の後姿を見る。
彼女は、途中まで迎えに来た松下に、何事かを話して笑っていた。

彼は、もう一度、ハイヒールの足跡に目を移し、その潰れたものが意味することを思った。
“彩は、小さくした男を虫の様に殺すつもりで、持ち帰る・・・”
頭がクラクラしてきた。慌てて、横にある幹に手を伸ばして、身体を支えた。

彩は、実験場の入り口で振り返って、踏み潰した虫を呆然と見続けている彼を見る。その様子が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
そして、小さくなった黒部を持ち帰ることを楽しんでいる自分に気付き、横にいる松下に聞こえない様に、そっと独り言を言った。

「フフッ、舞ちゃん、大丈夫よ。とっても楽しめそう」
そのまま、口元に笑みを浮かべ、縮めた黒部を取りに実験場に入っていった。





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